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「リルファ、ちゃんと気を付けるのよ?フェンリルの素質を持つ者として戦闘能力も学力も申し分ないくらいできるけど、どこにどんな手を使う人がいるかわからないもの。それにちゃんと宿を取って、特待生試験の試験時間と場所を忘れない様に」
「お母様、大丈夫ですよ。ちゃんとわかっています。下界での私はただの平民。下手に動いて人々を騒がせるわけにもいかないですし」
「ならいいわ。本当はあなたに近づく悪意は徹底的に排除したいところだけれど、フェンリルとなるものが下界に降りるときはフェンリルとなるものからよっぽど離れていないと悪を排除してはいけないという掟があるし」
私の名前はリルファ。黒髪碧眼の12歳だ。フェンリルとなるために最終試練を受けに行くところだ。そして私の前にいるのは現・フェンリルであるエルトレーナ。私の母だ。お母さまが眉をハの字にして困ったような表情をしているが、これ実は意外とレアだったりする。
「あとは、必ず封印の髪飾りを誰かに渡さないこと。まだフェンリルになることを許可されていないのにすべての魔力が解放されたら魔力暴走が起きて一時的に魔力が空になっていろいろ使えなくなるし状態異常とかも効くようになってしまうから」
お母さまが指をさしたその先にあるのは私の頭に飾ってある宝石をあしらった髪飾りだ。フェンリルの素質を持った者たちにとってこの髪飾りは扉だ。
別空間に入っている自分の膨大な魔力を保管している。そしてそれを開放することでその膨大な魔力に耐えられるように体が変化するとフェンリルとなる。
これは壊すことで魔力を開放することもできる。でもそのときに魔力が暴走しまうのだ。神々が封印を解除するなら大丈夫だが。フェンリルが作った物だから頑丈だが、何かの拍子に壊れないこともない。
「ええ、大丈夫です。人間の弱みに付け込むのは心が痛むけれど、おばあさまの形見といえばたいていの人間は取ろうとしません。実際にそうですし。それに、もし取られそうになったとしても良ければいいですし。暴力を振ってきたらこちらもそれに答えるまでですよ」
お母様に挨拶をし、足元の荷物を手に取って転移の魔法を発動した。