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62. 真実を手に

 あり得ないことが次々と起こるのだとしたら可能性は二つ。これが夢である、もしくは、この世界がおかしい、のどちらかだった。


 これは夢か? 夢ってこんな長く精緻(せいち)に続くものだったか?


 崩れ落ちながら考えてみるが、これが夢だとは到底思えない。


 となれば、この世界は自分の都合の良いように構成されていると考える以外なかった。つまり、この世界は自分を中心に回っているのだ。


 バカな……。


 しかし、他には考えられなかった。


 もし、本当にそうであるなら、この胸にポッカリと開いた穴も、なかったことにできるのではないだろうか?


 玲司はゾーンに入ったままつぶやく。


「俺は撃たれていない。俺は死なない」


 すると、キラキラと赤、青、黄色の蛍光を放ちながらアゲハ蝶のような不思議な生き物がワラワラと湧いてきて玲司の傷口に群がった。


 よく見るとそれは可愛い顔をした妖精で、美しい光の微粒子を辺りに振りまきながら楽しそうに傷をどんどんとふさいでいく。


 いきなり現れたファンタジーな存在にミリエルもミゥも唖然として、その美しき使徒に目を奪われる。


 やがて傷が全てふさがると玲司は自分の傷跡をさすってみる。シャツにぽっかりと穴が開いているが、肌は何の傷跡もなくつやつやとしていた。


 そう、やはりこの世界は自分の世界だったのだ。


『シアン!』


 玲司はシアンに駆け寄ると、千切れた足と腕を拾い、


『お前は死なない。撃たれてもいない。いつものように楽しそうに笑うんだ』


 そう言いながらグチャグチャになってしまっているシアンの遺体に腕と足を繋げた。


 妖精たちはシアンにも群がり、丁寧に傷をつなぎ合わせ、治していく。そして、しばらくすると楽しそうにわちゃわちゃとふざけあいながら、満天の星空へと遠く高く消えていった。


『シアン……、おい……』


 玲司はシアンのほほをパンパンと叩いてみる。


『ん……? あれ? きゃははは!』


 シアンは何が起こったのか理解できていない様子だったが、息を吹き返し、いつものように笑った。


 玲司はうんうんとうなずくと、タブレットの方を見上げる。


 そこには何が起こったのか分からず戸惑っているようなタブレットが、静かにたたずんでいる。


『お前の攻撃はもう当たらない。安全な場所に隠れているお前は今すぐ俺の前に現れ、謝罪する』


 玲司はタブレットを指さし、淡々と言った。


『笑止! 死ねぃ!』


 直後、紫水晶全部から激しい攻撃が放たれる。それは辺り一体がまぶしくなるようなラッシュだった。


『きゃぁぁぁ!』『ひぃぃ!』


 ミリエルもミゥもその圧倒的な攻撃から必死に逃げた。


 やがて、爆煙が晴れていく……。


 姿を現した玲司は平然と立っており、ニヤリと笑って言った。


『もう一度言う。お前は現れて俺に謝る』


 直後、タブレットにバキバキッと亀裂が入り、ズン! と床に崩落し、激しい爆発を起こす。


 そして、爆煙が晴れると一人の女の子が転がっていた。


『痛ぁ! 何すんじゃぁ!』


 金髪おかっぱのまるで中学生みたいな女の子は、綺麗な緋色の瞳で玲司をにらみ、怒る。黒いぴっちりのスーツに白いジャケットを羽織り、ジャケットの内側はほのかに金色にキラキラと光り輝いているのが見えた。金星のファッションは独特なものを感じさせる。


『いいから謝れ』


 玲司は床を指さし、低い声で淡々と言った。


『ふざけんな! 人間ごときに(われ)が屈することなどありえんのじゃ!』


 少女はそう叫ぶと上空高く離脱していくメタリックなクジラを指さし、


『エクストリーム・サンダー!』


 と、叫んだ。


 直後、クジラから光り輝く金色の弾が豪雨のように降り注ぎ、玲司の周りは閃光と衝撃波でグチャグチャになった。


『くはははは! 我をなめるな!』


 少女は嬉しそうに叫ぶ。


 退避したミリエルたちは、壊れた魔王城の壁の外から恐る恐る様子をのぞいてみる。


 爆煙が晴れていくと……、玲司は無傷だった。


 ボコボコに吹き飛ばされた瓦礫だらけのフロアの上で、余裕の笑みを浮かべている。


『な、なんじゃ、お主は……』


 そんな玲司を見て金髪の少女は目を丸くし、動けなくなる。


『謝罪!』


 玲司は再度床を指さした。


『くぅ……』


 切り札の効かなかった少女は無念をにじませながらうつむく。


『謝らないなら、あのクジラ撃墜するよ?』


 玲司はニヤッと笑って言う。


『げ、撃墜!?』


 少女は声を裏返らせて目をパチクリとする。


 金星の技術の粋をこめて作られた衛星軌道ステーション。それを撃墜などされてしまったらとんでもない事だ。そもそもなぜこの地球人はそんなことができるのだろうか?


 少女は理解不能な存在の出現に頭がパンクし、口をパクパクさせながら呆然としていた。


 その時だった、いきなり空間が割れ、一人の女性が現れる。


『撃墜はご容赦いただけないでしょうか?』


 女性はチェストナットブラウンの髪をフワリと揺らしながら、魅惑的な琥珀色の瞳を玲司に向け、上品に微笑むと、玲司の前に進み、たおやかな所作でひざまずいた。




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