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56. ミッションコンプリート

 玲司はバッと立ち上がると、


「百目鬼ぃ――――!」


 と、叫びながら目にもとまらぬ速さで飛び、玉座の百目鬼に殴りかかる。


 しかし、百目鬼は顔色一つ変えることなく指先をクリっと動かす。すると三メートルはあろうかというモスグリーンの巨大な手のひらが浮かび上がり、そのまま玲司をひっぱたいた。


 激しい衝撃音が響き渡る。まるでスカッシュのボールみたいに玲司の身体は壁に当たり、天井に当たり、柱に当たって床に転がった。


()れ者が。身の程を知りたまえ」


 百目鬼はそう言って汚いものを見るかのように、転がる玲司を見下ろした。


 くぅぅ……。


 玲司が体を起こすと、シアンは、


「ご主人様、静かにしてなきゃだめだゾ!」


 そう言いながら空中に紫色に輝く鎖を浮かべると、素早く玲司に向けて放ち、ぐるぐる巻きにして床に転がした。


「ぐわぁ! シアン、貴様ぁ!」


「はっはっは! 勝負あったようだな」


 百目鬼は嬉しそうに笑う。


 日本からの長い確執(かくしつ)はこうして百目鬼の勝利で終止符が打たれてしまった。


「くぅ……。ミリエル、ミゥ……、うぅぅぅ……」


 玲司は冷たく固い床の上でうめき、涙をポタポタと落とす。


 美空を復活どころかミリエルもミゥも失ってしまった。美しく愛しい存在を次々と失ってしまう自分のふがいなさに対する怒りが心の奥底に渦巻き、行く当てのないまま暴れまわる。


 ぐぅぅぅ!


 なぜ、シアンが裏切ったのか? どこで間違えたのか……。



「カッカッカ! 良くやった! ミリエルは目の上のコブ。よくぞ処理してくれた」


 いきなり部屋に甲高(かんだか)い男の声が響いた。


 見ると、恰幅(かっぷく)が良いチビの中年が、脂ぎった顔に笑みを浮かべながら壇上に降り立った。


「こ、これはザリォ様! わざわざいらしていただけて光栄です!」


 百目鬼は急いで玉座をザリォに譲ると、壇を降り、床にひざまずいた。


 シアンも真似するように百目鬼の隣でひざまずく。


「うむ、くるしゅうないぞ。特にシアン君、君の攻撃は見事だった。あのミリエルの間抜け顔、ざまぁ! って感じだったわい。カッカッカ!」


 ザリォは上機嫌に笑った。


「恐縮です」


 その光景に玲司は違和感を覚えた。シアンが『恐縮』と言ったり、ひざまずいたところなど今まで一度も見たことが無かったのだ。やはりシアンはどこか壊れてしまったのだろうか?


「何か褒美(ほうび)を取らそう! 何がいいかね?」


「あ、それでしたら一つお願い事が……」


「何でも言ってみたまえ」


 シアンは百目鬼をチラッと見て、


「お耳をお貸しいただけますか?」


 と、腕で胸の谷間を強調させながら、上目遣いに言った。


「おう、近こう寄れ」


 ザリォは鼻の下を伸ばしながら手招きする。


「はっ、ありがたき幸せ」


 そう言うとシアンは満面に笑みを浮かべながら、ツーっとザリォの耳元まで飛んだ。


 人に言えない願い事とは何だろうか?


 玲司は床に転がりながら、楽しそうなシアンをにらみ、ギリッと奥歯を鳴らした。


 シアンはザリォの耳元につくと、とても嬉しそうな顔でささやいた。


「死んで」


 同時に、いつの間にか取り出してあったロンギヌスの槍でザリォを突き刺す。ザリォの左わき腹から突き上げるように打ち込まれた槍は玉座ごと心臓を貫いたのだった。


 ゴフッ!


 ザリォはその鮮やかな暗殺テクニックになすすべなく真っ赤な血を吐き、両手を震わせながらシアンの方を見つめ、一体何が起こったのか分からないままこの世を去っていった。


 百目鬼も玲司もあっけにとられ、ただ、楽しそうに暗殺を遂行したシアンの鮮やかな手口に呆然としていた。


 ザリォの肢体はやがて無数のブロックノイズに埋もれ、霧散していく。


 そして、すぐにシアンは紫に輝く鎖を浮かべると、百目鬼に放ち、唖然としている百目鬼をあっという間にぐるぐる巻きにしたのだった。


「ミッションコンプリート! いぇい!」


 シアンはピョンと飛びあがり、天井高い豪奢な謁見室でクルクルと楽しそうに舞った。ふんわりと踊るシアンの髪は光の微粒子を辺りに振りまきながら、赤から綺麗な水色へと戻っていく。


 その神々しさすら感じさせるシアンの変化を見ながら、玲司は自分が騙されていたことに気づいた。シアンが裏切ったとばかり思っていたのだが、それは作戦だったらしい。


「シ、シアン、まさかこれ全部最初から仕組んでたって……こと?」


 玲司は半信半疑で聞くと、シアンはツーっと降りてきて、


「あったり前よぉ。『AIは絶対裏切らない』ってちゃんと言ってたゾ!」


 口をとがらせながらそう言うと、玲司を縛る鎖をほどいた。

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