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45. インチキ神主

「なんでこんなことに……」


 玲司が起き上がろうと手をつくと、生々しいムニュっとした柔らかな手触りがする。それはまるで手に吸い付くようなしっとりとした感触で、天国に上るかのような至高の触り心地だった。


 んむ?


 ついこないだ似たようなことがなかっただろうか? そう、それは大手町で……。


「ちょっと! 何すんのだ!」


 バシッと玲司の手がはじかれる。


 あ、こ、これは……。


 ミゥは焼け焦げてボロボロになった服で胸を隠し、涙目になって玲司をにらむ。


「ご、ごめん。不可抗力だよ。今は緊急事態。ねっ!」


「このエッチ!」


 バチーン!


 と、ビンタが玲司に頬にさく裂する。


 あひぃ!


 ミゥは、


「レイプされたのだ! うわぁぁぁん!」


 と大声で泣き叫ぶと、隣のシアンに抱き着いた。シアンのサイバースーツはきれいさっぱり服が燃え尽き、かけら一つも残っていなかった。


「おぉ、ヨシヨシ。どこ触られた?」


 シアンは透き通るような神々しいまでの裸体を晒しながら、聖母のスマイルでミゥを受け入れると、


「清めたまえー、(はら)いたまえー」


 と、インチキ神主みたいなことを言いながら、触られたところをやさしくなでていく。


 そして、ミゥの服を丁寧に復元してあげていった。


 玲司はなぜこんなにラッキースケベな展開になるのか訳が分からず、


「ごめんよぉ。悪気はなかったんだ」


 と、頭を下げる。


「美空ねぇに言いつけてやるのだ! うわぁぁぁん!」


 ミゥはそう叫ぶとシアンの胸に顔をうずめ、しばらく動かなくなった。


 玲司は渋い顔をしながら吹き上がっていく灼熱のキノコ雲を見上げる。


 シアンがまたやらかしたその禍々しいせん滅の象徴をにらみながら、玲司はキュッと唇をかんだ。シアンに頼みごとをするときは、何をするつもりなのか聞いて確認をしようと心に誓ったのだった。



      ◇



 ミゥが落ち着いた後、一行は爆心地の巨大なクレーターの縁にやってきた。


 直径数百メートルはあろうかという大地にぽっかりと開いた穴には、魔物たちの影など何も残っていない。上空高く吹き上がっていったキノコ雲からは豪雨が降り注ぎ、傘代わりに上空に展開したシールドからは滝のように水が流れてくる。焦げ臭い風がビュゥと吹き抜け、再生させたシアンの腰マントがバタバタとはためいた。


「シアンちゃん、一体何やったらこうなるのだ?」


 ミゥは呆れ果てた顔で聞いた。


 シアンは足元に転がっていた半分焦げた木の枝を拾いながら答える。


「オークの体温をMAXにしただけ。そしたら百億度になってしまったゾ」


「ひゃ、百億度!? システムで設定上限は一万度なのだ。なんでそんな値に?」


「バグじゃない? きゃははは!」


 楽しそうに木の枝をビュンビュンと振り回しながら笑うシアンを見つめ、ミゥは渋い顔で、


「今日はもう撤退。ちょっと目立ちすぎたのだ」


 と、疲れ切った表情で首を振った。



       ◇



 一行は街にあるミゥのオフィスへ跳んだ。閑静な高級住宅地に並ぶ石づくりの立派な建物は、中に入ればミリエルの部屋と同じモダンなつくりだった。


「うわぁ、素敵なところだね……」


 玲司はそう言ってガラスづくりの大きな会議テーブルをなでる。窓の外を見ると豪奢な純白の宮殿が見えた。王宮だろうか? 大きく彫られた幻獣のレリーフが格調の高さを演出している。


「ちょっとコーヒーでも飲んでて。用事済ませたらディナーに行くのだ」


 ミゥはそう言ってコーヒーをシアンにすすめた。


「あれ? 俺のは?」


「自分で入れたら?」


 ミゥはプリプリとしたままで、キッと玲司をにらむと、バタン! と思いっきりドアを叩きつけるようにして出ていった。


 玲司はシアンと目を合わせ、肩をすくめる。


「はい、じゃあコーヒーコピーしてあげるゾ」


 シアンはそう言うと、まるでマジシャンのようにマグカップのコーヒーを一瞬で二つにして玲司に渡した。


「ちょっと! それ、どうやるの?」


 あまりに異様な事態に玲司は唖然とした。


「ただ、コーヒー選んでコピーってやるだけだゾ」


 そう言ってコーヒーを一口すすり、幸せそうに微笑んだ。


「そか、この世界デジタルだもんな」


「あー、でも、複製品はやっぱり味が少し落ちるんだよね」


「え?」


「まあ、些細な差だからご主人様には分からないゾ」


 シアンはニコニコしながら言った。


「いやいや、俺は違いの分かる男だぞ!」


 そう言ってシアンのマグカップを奪い取った。


 神妙な顔で何度も飲み比べる玲司だったが……、やがて首を傾げたまま固まってしまう。


 シアンはそんな玲司を嬉しそうに見ていた。



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