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42. 地球あげるよ

「うん、まあまあなのだ」


 ミゥは腕を組んでうなずいた。


 玲司は自分の身体に意識を向けてみる。位置座標、速度、重力適用度、体温、身長に体重、皮膚の色から各筋肉の量、関節の可動域までありとあらゆるデータが並んでいる。


 試しに重力適用度を0%にしてみると、ふわっと体が浮いた。無重力になったのだ。今朝、シアンがいじっていたのはこれだろう。


 玲司はそのまま座標を百メートルほど上空に書き換えてみる。するとブワッと草原の全貌が視界に広がった。ちゃんと草原の上空にワープしたようだ。下を見ると小さくミゥとシアンが見える。


 ミゥは降りて来いと手招きしているようだったが、生まれて初めて空を飛んだのだ。もうちょっと遊ばせてもらおう。


 玲司は今度は速度をいじってみる。穏やかな青空の気持ちの良い空を飛び始める玲司。さわやかな風が頬をなで、シャツをバタバタとはためかせる。


 嬉しくなった玲司はさらに速度を上げていく。


 ヒャッハー!


 川を超え、草原はやがて森となり、目の前に大きな山が立ちふさがってくる。


 腕を開けば飛行機の方向()のように操縦ができることに気が付いた玲司は、大きく腕を開いて上方に進路を取った。


 山肌すれすれに大空へと飛び上がっていく玲司。そしてそのまま真っ白な雲に突っ込んでいく。


 ボシュっと雲を抜けると一面の青空が広がり、燦燦(さんさん)と輝く太陽が玲司を照らした。


 おぉ……。


 玲司は雲の上でクルクルと回転して大空を舞う喜びを全身で表現する。


 しかし、さすがに寒い。玲司は自分の身体に意識を集中し、シールドを探してみる。すると、その要求に反応して自動で玲司の身体の周りに薄い膜が張られた。


「こりゃいいね!」


 玲司は上機嫌でさらに高度を上げてみる。まるで太陽に呼ばれるようにどんどんと宇宙に向けて加速していった。


 玲司の周りにドーナツ状の白い雲の輪が湧き上がり、直後、ドン! という衝撃音が走る。音速を超えたのだ。


 頭上のシールドの外側は圧縮された空気が高熱を発し、鈍く赤く輝き始める。


 調子に乗った玲司はさらに速度を増していった。どんどんと小さくなっていく山々の連なり。そして、青空は一気に暗くなり、地平線は青くかすみ、玲司は大気圏を突破した。


 星々が輝き始める空を見ながら、玲司はこの数奇な運命を感慨深く思う。この世に生まれて十六年。まさか自分が異世界で空を飛ぶなんて想像もできなかった。でも、世界の(ことわり)を知ってしまった今では、実に自然で当たり前のように感じてしまう。


 世界は情報でできている。それを知り、情報を扱えさえすればもはや神同然になれる。


 玲司は美しく青白い弧を描く地平線を見ながら、この世界の真実を身体全体で感じていた。



         ◇



『いつまで遊んでるのだ!』


 ミゥのテレパシーが頭の中に響く。


 玲司は慌てて戻ろうと思って下を見たが、そこには山々とそれを覆う雲の列がたなびいているばかりだった。


 しまった。どこに戻ればいいかが分からない。玲司が途方に暮れているとオレンジ色の光がツーっと飛んでくる。


 え?


 やがて光の点は大きくなり、その姿を露わにする。それは青い髪をした女の子だった。


『シアン!』


 玲司は大きく手を振る。


『ご主人様、迎えに来たゾ』


 シアンは屈託のない笑顔でにっこりと笑いながらそばまで来ると、両手で玲司の手をつかんだ。


『ごめんごめん、帰り方分からなくなっちゃってさぁ』


『ふふっ、ミゥが待ってるゾ。一緒に帰ろ』


『うん、それにしてもこの景色、綺麗だよね』


 玲司は、弧を描く地平線を指さす。それは漆黒の星空をバックに青い大気のかすみを纏いながら優美に光り輝いていた。


『なに? 地球欲しくなった? 僕が一つあげようか?』


 シアンがいたずらっ子の顔をしてニヤリと笑う。


『あ、いや、そういう意味じゃないんだけど』


 玲司は野心的なシアンの言葉に少し動揺しつつ首を振った。地球をくれるってどういう意味だろうか? 思い起こせば今回の騒動の発端も、こいつが世界征服をするなんて言い出したことにあったのだった。


 玲司はシアンのAIらしい常識外れの発想に肩をすくめる。


『欲しくなったらいつでも言ってね』


 シアンはそう言ってウィンクすると、玲司の手を引っ張って下降を始めた。



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