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28. 芽生え始めた未練

 ここで百目鬼は発想を変える。物理的におかしいのなら、今までの物理法則の方がおかしいということになる。ではどういう法則であればこれが成り立つのか?


 百目鬼は目をつぶり、しばし考えこむ。世界は物理では動いていない。では何で?


 都合よく時間が止まる世界。それを実現しようとしたら自分だったらどうするか?


「メタバース……」


 百目鬼はそうつぶやいてハッとする。この世界がコンピューターによって生み出された世界であればこれは実現可能だ。魔法だって奇跡だって何だってアリの世界を作れるじゃないか。


 しかし……、この高精細なリアルタイムな世界を作ることなんて現実解だろうか?


 百目鬼は急いで必要な計算量を見積もってみる。一番計算量が少なくこの状況を作るにはどのくらいの計算力があればいいか?


 百目鬼は指折りながら必要な桁数を数えていく……。


 えっ!?


 驚く百目鬼。十五ヨタ・フロップスの計算力、スーパーコンピューターの一兆倍の計算力があればこの地球はシミュレートできるらしい。なんと現実解だったのだ。


「いや、しかし……」


 つぶやく百目鬼に男は、


「何を戸惑っとるのかね? 君の直感を信じるといい」


 そう言って仮面の下でニヤッと笑った。


『世界は情報でできている』


 百目鬼はたどり着いた自分の答えに、ドクンドクンと心臓が高鳴るのを感じた。


 そして、半信半疑で自分の両手をじっと見つめる。炎に照らしだされるしわの数々、心拍に合わせて浮き上がる血管、実に精巧で精彩である。しかし、情報でできているというなら、これらは全てただのデータなのだ。ものすごい精度である。これが十五ヨタ・フロップスの計算量……。


 ヒュゥ。


 その圧倒的なコンピューターパワーについ軽い口笛を鳴らしてしまう。


 そして、軽く首を振ると、感嘆のため息をつく。世界の真実とはとんでもない姿だったのだ。


 百目鬼は仮面男に向かって言った。


「シミュレーション仮説。つまり、この世界はコンピューターによって合成された世界だったんですね?」


 すると、男は、


「エクセレント!」


 そう言って満足げにパチパチと手を叩いた。


「となると、あなたは管理者(アドミニストレーター)?」


「んー、まぁ、そのような者だな。どうだい、我々の仲間にならんか? 君の腕も、平気で核を使える胆力も死なすには惜しい」


「断ったらコイツで死ぬだけ……ってことですよね?」


 百目鬼はドローンの翼をそっとなでながら言う。


「まぁ、そうだろう」


「なら、選択肢などないじゃないですか。ぜひ、仲間に加えてください」


 百目鬼はそう言って右腕を突き出した。


「いいだろう。期待してるよ」


 仮面男は百目鬼の手をガシッと握った。そして、


「それでは証拠隠滅。この地球には消えてもらおう。フハハハ」


 と、笑い声を残し、百目鬼と共に消えていった。



        ◇



 時は動き出す――――。


 ズン!


 二発目のドローンが爆発し、部屋は炎に包まれた。


 三キロの爆薬が炸裂する中で生き残れる人はいない。これで玲司の命令は完遂したはずだ。


 だが、シアンにはなぜか違和感がぬぐえなかった。


 爆煙を噴き上げ、炎が揺れるタワマンをドローンのカメラで眺めながら小首をかしげる。


「何かがおかしいゾ……」


 いつものオペレーションと何かが違っている。


 誰かにハッキングされたか、世界が変わったか、原因は分からないがリアルデータ群の手触りがおかしかった。


 その直後、たくさんのアラームがあちこちから上がってくる。


『ICBM発射確認!』『SLBM発射確認!』


 あれ?


 シアンは慌ててデータを分析する。すると、世界中の核ミサイルが一斉に発射されていることが分かった。誤報かとも思ったが、付近の防犯カメラには夜空に向けて一直線に噴射炎を上げて飛んでいく飛翔体が映っていた。


 アメリカには5427発、ロシアには5977発の核弾頭があるが、それらのうち2000発ずつくらいがすでに発射されている。


 太平洋、大西洋、インド洋、世界中の海では次々と潜水艦が浮上し、核ミサイルを放っている。


 シアンはその狂ったような全面核戦争の始まりに息をのむ。これでは人類が滅亡してしまう。


 もちろん、AIのシアンにとっては人類が滅亡しようが構わない。ご主人様の命令も果たし、新たなご主人様もいない今、自分含め消えてしまってもかまわなかった。


 ただ、ご主人様や美空とした冒険を思い出すと、チクリと胸が痛む。地下鉄に忍び込み、スーパーカーで宙を舞い、中華鍋で爆撃をした。それは今やシアンの中で宝物となった珠玉(しゅぎょく)の記憶である。


 滅んでしまってはもう二度とあんな楽しい体験ができなくなるのだ。シアンは芽生え始めた人類と共に歩むことへの未練に、キュッと口を真一文字に結んだ。



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