16. 無理無理無理無理!
警察まで敵に回してしまって、玲司は頭を抱えながら宙を仰ぐ。もうお尋ね者の犯罪者なのだ。
玲司は納得いかず、シアンに聞く。
「ねぇ、ちょっと! なんでこんなにかっ飛ばしてんの?」
「ん? 百目鬼たちがもうすぐ復旧してくるからだゾ?」
「へ? 復旧……?」
「きっとあと五分もしたら元通りだゾ?」
玲司は言葉を失う。そりゃそうだ。光ファイバーケーブル一本切っただけでデータセンター全体が落ち続ける訳がない。何かしらの対策が施されてるに決まっている。
「ド、ドローンは?」
「今、飛行機型の高速な奴、お台場に向けて飛ばしてるゾ」
「間に合いそう?」
「こればっかりは運でしょ! きゃははは!」
楽しそうに笑うシアンを見て、玲司はため息をつき、ステアリングに頭をうずめた。
勝ち切ったと思っていた勝負にはまだまだ続きがあったのだ。
「でも、ご主人様の生存率は46.7%にまで急上昇だゾ!」
「五割切ってるじゃないか!」
玲司は目をギュッとつぶって喚いた。
「あたしの胸を触ったから罰が当たったのだ!」
美空はジト目で玲司を見る。
「胸って言ってもそんな大層な……」
玲司はそう言いかけて、美空から発せられる殺気にハッとなり、口をつぐむ。
「はぁっ!? 『大層な』何なのだ?」
今にも人を殺しそうな血走った目で美空が玲司をにらむ。
「あ、いや、事故ではあったけど、も、申し訳なかったなって」
「そうよ! 言葉には気を付けるのだ!」
美空はそう言ってプイっとそっぽを向いた。
玲司はなんだか理不尽な言われように、ハァと大きく息をつく。そして、左右に揺さぶられながらシアンのすさまじいドライビングテクニックに身を任せた。
その時だった、
「あ……」
シアンが嫌な声を出す。
「な……、なんだよ?」
シアンがこういう時はろくなことがない。湧き上がる嫌な予感に抗いながら声を絞り出す玲司。
「復旧しちゃった……ゾ」
「復旧って……百目鬼たちが元に戻ったってこと?」
「うん、全力で時間稼ぎするから、運転よろしく。頼んだゾ」
シアンはそう言って目をつぶった。
「はぁっ!?」
高校生にこんなスポーツカー、運転できるわけがない。
「いや、ちょっと! 無理無理無理無理!」
首をブンブン振って真っ青な玲司。
「何言ってんのだ! 生き残るのだろ? 本気見せるのだ!」
美空はバシバシと玲司の背中を叩いた。
「いや、でも……、ど、どうやる……の?」
「これはオートマなのだ。右ペダルがアクセル、左がブレーキ、後はハンドル。おもちゃと一緒」
「おもちゃって言っても……」
と、その時、急に減速し始めた。
ブォォォォン!
シアンが運転を止めてアクセルを放し、エンジンブレーキがかかったのだ。
あわわわ!
「アクセル! アクセル踏むのだ!」
「ど、どれ?」
玲司は足をのばして探し、試しに踏んでみる。
バォンバォォォン!
ひぃぃぃ!
いきなりの急加速で驚いてステアリングを回してしまう。
「だー! なにするのだ! 左! 左! 早く!」
美空が叫ぶ。
対向車線へ大きく膨らんだ車は、キュロロロロ! と、タイヤを鳴らしながら戻ってくるが、今度は歩道めがけて突っ込んでいく。
うわぁぁぁ!
「切りすぎ! 右! 右!」
ひぃぃぃ!
何度か蛇行して、ようやくまっすぐ走れるようになった玲司は、げっそりとして朦朧としながら前を見る。そして、うつろな目でお台場の方に林立するタワマンを見あげた。
「あちゃー! 二台行っちゃったゾ!」
シアンが叫ぶ。
「えっ! 二台って……」
すると、正面から二台の車がこちらに走ってくるのが見えた。
ええっ!?
二車線しかないのに二台やってくる、どう考えてもアウト。それも猛スピードで迫ってくる。もう回避の余地もない。
くわぁぁぁ!
絶体絶命である。どう考えても殺される。玲司は頭を抱え、ただ、その運命を呪った。
一体どこで道を誤ってしまったのだろう。もう玲司の中では走馬灯が回り始めてしまう。
「ハンドル貸すのだ!」
美空がそう叫んで助手席からハンドルをガシッとつかんだ。
えっ?
玲司が唖然としていると、美空は右にハンドルを切って右車線ぎりぎりを走ると、
「アクセル全開の用意をするのだ!」
「そ、そんな、ぶつかっちゃうよ」
「いいから用意!」
美空はそう叫びながらジッと前方をにらんだ。
並んで突っ込んでくる暴走車はさらに速度を上げてくる。
「GO!」
美空はそう叫ぶと、一気にハンドルを左に切った。




