不安な心は過去の棘
恋はまことに影法師、いくら追っても逃げていく。
こちらが逃げれば追ってきて、こちらが追えば逃げていく。
・・・
バラ園でのデートの翌日は、当然月曜日。
お天気はあいにくの曇り空だけど、私の心は晴れ渡ったまま。
私はいつものように学校へ登校し、自分の教室に入って、お友達の美紀ちゃんに声をかける。
「美紀ちゃん、おはよー」
私が声をかけたことで、こっちに気が付いた美紀ちゃんが、小さく手を振って挨拶を返してくれた。
「うん、おはよう。
んお?
あんた、なんか、今日はなんか締まりのない、とってもいい笑顔してるけどなんかいいことでもあったの?
ついでに言うと髪の毛だけじゃなく、顔の肌なんかも、やけにつやつやしてるけど」
あー、今の私はそんな顔してるのかぁ。
やっぱり気分が出ちゃってるんだね。
「えへへ、うん、きのうにね、とってもいいことがあったんだ」
私がそう答えると、美紀ちゃんは、私へ顔をよせて小さな声でいたずらっぽく聴いてきた。
「ほほう、いったいなにがあったのかな?
とうとう大人の階段を昇っちゃったとか?」
私は少しだけ首をかしげてから美紀ちゃんへ答えた。
「んー、大人の階段かどうかはわからないけど。
昨日ね、清水君とデートでバラ園に行っの。
そこで清水君が青いバラのジャムをくれて、それからキスしてくれたの」
私がそう答えると、美紀ちゃんは首を傾げた。
「青いバラのジャム?
それってどういうこと?」
あー、まあ普通はそれだけじゃ意味が分からないよね。
「うん、でね。
清水君は言ってくれたの”青薔薇の花言葉は ”奇跡”や”神の祝福”です。
そして生花ではないのは、この愛が枯れないようにという思いを込めたつもりです”って」
私がそういうと美紀ちゃんはようやく意味が分かったみたいで、にかっと笑って言ってくれた。
「ほほう、そりゃあまたずいぶんとまあ、うらやましいことで。
そんなことがあったら、あんたがあさっぱらから、そんな顔になるのも納得だわ」
「えへへ」
美紀ちゃんが私の頭をぐりぐりしながら、さらに言葉をつづけた。
「でも、まあよかったんじゃない?
あんたを本当に好きって言ってくれる、男の子が現れてくれたみたいでさ。
正直なところを言えば、私もほっとしたよ。
いままでは年下に告白されては、振られるってのを何回も繰り返してきて、けっこうダメージ受けてたみたいだったし」
美紀ちゃんのその言葉には、私は苦笑しながら答えざるを得ない。
「そうだね、正直またすぐイメージと違うって言われて振られちゃうと思ってたし、そうなっても全然おかしくないとも思ったんだけどね。
それにやっぱり振られるのはやっぱり悲しいからね」
私がそういうと美紀ちゃんは私に肩をポンポンとたたきながら言った。
「まあ、あんたは焦ると何しでかすか、本当にわからない子だからね。
早めになんとかしたほうがいいとは思うよ」
「う、うん、確かにそうだよね。
といってもどうすれば治るかわからないけど」
「あんたの場合はどのつく天然だからねぇ………」
まあ、そんなことを話したりはしたけど、その他は取り立てて変わらない、いつもと同じような一日だと思った。
で、それが大きく変わったのは、学校が終わっておうちに帰って、夕ご飯を食べているとき。
弟の良ちゃんが今日の学校であったことを話したことだった。
「ところでねーちゃん?」
「ん、何?
良ちゃん」
「ねーちゃんが、昨日家に帰ってきてから、地に足つかないような感じでふわふわふらふらしてるから、清水に何かあったのかって聞いてみたんだけど」
「ええええ、そんなこと聞いたの?
で、清水君はななんて答えたの?」
「まあ、ちょっとなって言ったあとでさ。
でも、ちょっとばかり意外だったなっていうんだよ」
良ちゃんが答えた言葉に私は衝撃を受けた。
「え?
清水君が?
意外って言ったの?」
私の言葉に良ちゃんは大きくうなずいて言葉をつづけた。
「ああ、そうだぜ。
でも俺はもともとねーちゃんはイメージ通りの女じゃないって、ちゃんと言っておいたんだけどさ」
「そ、そんなこといったの?」
そういえば清水君も良ちゃんから私が普段どんな感じなのかは言ってた気がするけど。
「で、清水が、まあ、本当イメージって怖いと思ったよって。
それから失敗したかなあって、なんか深刻な表情で言ってたぜ」
「え? えええ?
失敗したかなあって言ってた?!」
わ、わたし清水君の期待………裏切っちゃったのかな?
思い当たることは………いくつもあるけど。
でも、好きって、大好きって言ってくれたのに。
私だって………大好きになっちゃったのに。
だから、もう、イメージと違うって、振られていつも通りなんて言えないのに………。
どうしよう………どうすればいいんだろう?
怖いけど、明日、清水君に会って直接聞いてみよう。
そう考えた私はナインのメッセージを入れた。
”明日のお昼休み、中庭で待ってます”
と。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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執筆中BGM:REBECCA「FRIENDS -remixed edition-」
一読後に、こちらの曲を聴いていただければ、作者がどんなイメージでこのシーンを書いたかふんわりと理解していただけるかなーと。