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不意に恋はやってくる

 ある一人の人間のそばにいると、他の人間の存在など、全く問題でなくなることがある。


 それが恋というものである。


 そして恋は、機会の問題ではなく、意志・気持ちの問題である。


 ・・・


 そして、翌日の金曜日。


 朝起きたら、髪の毛をお湯で軽く洗って、ヘアビタミントリートメントを、家を出る前にもつけてから、ドライヤーで乾かし、準備万端で登校した私は、教室に入って、美紀ちゃんに挨拶をする。


「美紀ちゃん、おはよー」


 こっちに気が付いた美紀ちゃんが、小さく手を振って挨拶を返してくれた。


「うん、おはよう。

 ん?

 あんた、なんか、今日は髪の毛がいつもよりさらっとしてない?

 後、なんかい匂いがする?」


 その言葉を聞いた私は、思わず二へっと顔が緩んでしまう。


 美紀ちゃんが、気が付いてくれてよかったぁ。


「うん、清水君に髪の毛を綺麗にする方法を少し教えてもらったの。

 シャンプーの仕方と、100均のアイテムを買って使うだけでもよくなりますよって。

 で、実際にやってみたらね、本当にサラサラになってびっくりだよ」


 私がそういうと美紀ちゃんは苦笑する。


「あたしもびっくりだよ。

 少しヘアケアするだけで、そこまでサラサラになるなんて」


 その返しに私は、乾いた笑いしか出ない。


「あ、あはははは、今までは特に何もやらなかったから」


 私に言葉にうんうんとうなずきながら美紀ちゃんが言った


「そりゃ、髪の毛も痛むはずだわよねぇ」


 こういう時の美紀ちゃんは割と容赦ないのよね。


「そうだね。

 だからこれからは、もうちょっと気を付けていくつもり」


 そんなやり取りをしてから、その後はいつものように授業。


 そして、学校の一日のスケジュールが終わって、家に帰る。


 とりあえず、明日の朝に慌てないように、今のうちから着ていくていく服を選んでおこうかな。


 うーん、清水君から見ても、私には高校生っぽい”ギャル系”の服より、お姉さんっぽい感じがする”お姉系”のほうがいいのかな。


 まあ、そもそも私に”ギャル系”なんて似合わないから、ギャル系の服はほとんど持ってはいないのだけど。


 そんなかんじで、あれこれとウォークインクローゼットの中の衣服を引っ張り出して、鏡を見て服を合わせてはなんか違うなーと思って、それをウォークインクローゼットにしまってを繰り返し、結局、チェックの薄い水色のチェック柄のふんわりした感じのワンピースにした。


 なんとなく今の季節に合ってる気がするし、多分イメージ的にも悪くは映らないんじゃないかなって思えたから。


 そしてベッドに入ったのだけど、こういう時に限って目がさえてなかなか眠れない。


「ああ、もうどうしてこういう時に限って眠気が来ないのぉ」


 実は明日がとても楽しみなのかな?


 そんなことを考えていたら、うとうとし始めて意識が落ちていった。


 そしてやってきた、翌日の土曜日。


 今日は清水君と一緒にデパートへ、お買い物をしに行く約束の日だ。


 約束は駅前のデパートでの入り口前に午前10時。


 で、起きた時刻が………。


「な、なんで8時半すぎてるの?!」


 うー、出かけるためのするための準備をするためも、あるていどは余裕の時間を見るために、せめて8時には起きられるようにって、アラームをセットしてたのに………休みだとアラームが、かかってても起きれないこともあるのかな………。


 ともかく下に降りて行って、朝ご飯を食べておかないと。


 ダイニングに向かうと、良ちゃんが朝ご飯を食べていた。


 そして私に気が付くと眉を寄せて、言ってくる。


「おせーよ、ねーちゃん。

 今日、陽介とデートなんだろ?」


 私はコクコクとうなずく。


「あうう、そうなんだけどね」


「でもちょっと意外なんだよな」


 良ちゃんの言葉に私は首を傾げた。


「え、なにが?」


「いや、俺たちって健全な高校生じゃん?」


 私にはいまいち良ちゃんの言いたいことが分からない。


「ん、そうなの?」


「だから、男でちょっとした人数が集まったときなんかは、この高校の女子で誰がかわいいとか、アイドルの誰が好みとかそういう話ってでるもんじゃん」


「ああ、女の子同士だと誰が誰と付き合ってるとかの、恋バナとかになりがちだけど、多分男の子だとそうだよね」


「で、生徒会挨拶の時の副会長だとか、女子テニス部のキャプテンだとかって名前と一緒にねーちゃんの名前が上がるたびに、こいつらほんっと女を見る目ねーなーって思うんだけど」


「そこで私を貶めるのはやめてほしいのだけど?」


「だって全部事実だろ?

 でも清水ってそういう話題には全然加わってこなくってさ。

 あんまりそういう誰が好みだとかっていう話にたいして、まったく興味なさげだから、ねーちゃんとデートするなんてすっげー意外なんだよ」


「えええ、そうなの?」


「いやまあ、女子と会話ができないコミュ障ってわけじゃなくて、むしろ普通に雑談とかの会話をそつなくできるコミュ強だし、入試の成績も上位だったみたいだし、体育の時間の体力測定も結構いい成績だったみたいだしで、あいつはクラスの女子に割ともてるっぽい気はするんだけどな」


「ええええ、そうなの?」


 全然知らなかった。


 そういってテーブルのほうにちょっと急いで歩いて行って………。


 ”ガツン”


「あいたたた………」


 テーブルの脚に小指をぶつけてしまい、私はしゃがみこんで、その痛みに悶絶してしまった。


「ねーちゃん、いい加減寝ぼけてはテーブルの足ぶつけて、悶絶するのやめればいいのに」


「わ、わざとじゃないのよ?

 俺に寝ぼけてないし」


 私は芸人じゃないんだから、こんな痛いことをわざとやったりしないよ。


 そして、私のためお茶碗にご飯をよそってくれたお母さんが言う。


「あら、優里恵も出かけるの?」


「え、お母さんも?」


「ええ、今日は町内の用事があるから。

 父さんはゴルフにもう出かけているし、母さんもう出かけるから、最後に出る人がちゃんとカギをかけてね」


「え、最後にって」


 朝ごはんを食べ終わった、陽ちゃんが横から言う。


「あ、俺も今日でかけっから。

 ねーちゃんが、多分家を出るの最後だし、カギ閉めるの忘れんなよ」


「う、うん、わかったよ」


 そういうと、二人は先に家を出て行ってしまった。


 急ぎ目に朝ご飯を食べて、歯磨きや洗顔をして、髪の毛を整え、昨日選んだワンピースに軽くアイロンがけをしていたら、もうバスの来る時間が迫ってしまっていた。


 うー、まだバスの時間には大丈夫だよね?


 家を出て鍵を閉めたらバス停に向かう。


 けども無情にもバスは目の前で行ってしまった………。


 今日に限って時刻通りにバスが到着していっちゃうなんて………。


 次にバスが来る時間は………30分後?!


 次を待っていたら、どう考えても間に合わないし、一体どうしよう。


 あれこれ考えてみたけど、こうなったら駅まで自転車で急いでいくしかない。


 私は家まで戻り、自転車に乗って走り出した。


 こういう時に限って、強めの向かい風なんて最悪だけど………立漕ぎで、ペダルを踏み続けてようやく駅の近くまで到着した。


 私はコイン式の駐輪場に自転車を止めて、スマホを取り出して、今の時刻を見るとぎりぎり遅れないで間に合ったかな。


 ほっとした私は、待ち合わせ場所に小走りで向かった。


 そしてもうすでに待ち合わせ場所で待っていた、清水君へ声をかける。


「ごめんね、待ったかな?」


 私がかけた声に、私のほうを向いた清水君が、私のほうへ顔を向け、そして驚いたように言った。


「どうしたんです?

 その髪の毛」


 え、髪の毛?


 出かける前に洗面台の鏡で、ちゃんと整えてきたはずなのに………。


 私はスマホのインライン撮影モードで、私を見てみる………そこに映っていたのは、おでこ全開で髪の毛ぐちゃぐちゃな私の顔だった。


「ど、どうして?」


 そして、今更ながら気が付いた。


「あ………そうか………」


 強めの向かい風の中を立漕ぎで、一生懸命自転車を走ればこうなるんだってこと。


 私は恥ずかしさに、うつむいて泣きそうになってしまう。


 そこへ清水君は優しく声をかけてくれた。


「落ち着いて優里恵さん。

 髪をとかすためのブラシか櫛はあります?」


 私は首を横に振る。


「ううん、持ってきてないの」


 私の答えた言葉に、清水君は少しだけ何かを考えた後に言った。


「そうですか。

 では、俺の持ってる櫛でよければ、使いますか?

 それが嫌ならコンビニかどこかで買ってきますが」


「あ、うん、貸してもらえると助かる………かな」


「では、どうぞ」


「うん、ありがとうね」


 そういって清水君は櫛を貸してくれたので、私はスマホの画面を見ながら髪の毛を整える。


 はあ、我ながらこんなんじゃあ、清水君にあきれられちゃっても仕方ないよね。


 横目でちらっと清水君を見ると、真剣に何か考えているように見える。


 しばらくして髪の毛を直し終わったので、私は清水君に声をかけた。


「ご、ごめんね。

 これ貸してくれて、ありがとう」


 私はそう言って清水君へ櫛を返そうとする。


「ああ、いえ、俺は大丈夫ですが………後ろのほうの髪の毛がまだはねてるんで、俺が直しましょうか?

 ところでどうしてそんなことに?」


 私の髪の毛は、肩甲骨の下の部分くらいまで伸びてるから、真後ろは自分だと難しい。


「あ、うん、ごめんなさい、後ろは手が届かないし、自分だと見えないから、お願いできるかな?

 実はバスに乗り遅れて………次のバスを待ってたら、どう考えても間に合わなかったから、自転車で急いできたの」


 清水君はなるほど、というようにうなずいてから、櫛を受け取って、私の後ろに回って髪の毛を溶かしてくれ始めた。


「それなら、遅れるって連絡をしてくれれば………ああ、俺たちまだ連絡先の交換してなかったし、無理でしたね。

 とはいえ、いきなりナインのIDを教えてくれませんか?

 とか俺から言ったら、いくら何でもがっつきすぎと思われそうなんで、あの時はちょっと言えなかったんですけど」


「う、ううん、そもそも、ちゃんと起きれなかった私が悪いから………」


「まあ、寝坊したならしょうがないと思います。

 はい、終わりです。

 これからは離れていても直接的に連絡を取り合えるように、今のうちに、ナインのIDを交換しておきましょうか」


 そういって清水君は私の横に移動して、IDの登録用のQRコード画面を私に見せてくれた。


 私もスマホを出して、清水君が出したQRコードを読み取れるように、それへスマホを重ねると無事読み取れた。


 清水君の顔がすぐ近くにあるのでなんかすごくドキドキしてしまう。


「うまくいったみたいですね」


「う、うん、そうみたい」


「では少し遅くなりましたが、駅前のデパートの一階に入ってる化粧品店へ行きましょうか」


「う、うん」


 そういうと清水君は笑って言った。


「まだ、気が付いてないみたいなんですけど………」


「え、いったい何が?」


「俺って、良と友達じゃないですか」


「う、うん」


「なんで、世話好きで理想的な年上のお姉さんと噂より、今朝も寝坊してダイニングテーブルに足をぶつけて悶絶してるっていうほうが、リアルな優里恵さんなんですよね」


 それを聞いて恥ずかしさに私は顔が赤くなってしまった。


「りょ、良ちゃんってばそんなことを言ってるの?」


「まあ、そうなんですよ。

 それと、俺のことが好きだってのは口実で、酒井を振るための言い逃れでしかないですよね?」


「あ、あうう。

 えーと、えーと」


 何かうまく答えられる方法はないかと考えてみたけど、まったく思い浮かばなかった。


「ごめんなさい。

 その通りです、私は嘘をつきました」


 私がそういうと清水君はくすくす笑いながら言った。


「うん、わかってました。

 でも、そういう嘘をつけないところも、俺は好きですよ」


 え?!


「良と話してて、優里恵さんって面白そうな人だなー、って思ってたけど、実際に面白い人ですしね」


「うう、ひどい………でも言い返せない」


「でも、優里恵さんのそういう嘘に付け込んで、付き合うことをOKした俺も同じだから、罪悪感なんて持たなくてもいいんです。

 むしろ俺にとっては役得でラッキーってね」


「私がこんなダメな女だってわかっても?」


 そういうと清水君はフフッと笑って言った。


「ええ、優里恵さんは全然ダメじゃないですよ」


「そっか………うん、ありがとう」


 私のだめな所を全部知っていても、私でいいって言ってくれる男の人。


 こんな人は初めてだ。


 でも、こんな人を私はずっとずっと、探していたのかもしれない。


 思い抱いている幻想ではない、本当の私を見て好きだって言ってくれる人を。


 そう思うとトクントクンと胸の鼓動が早くなり、顔が耳まで真っ赤になっていく音が聞こえた気がした。


 きっと私は今、恋に堕ちてしまったしまったのだと思う。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


下部の☆☆☆☆☆を押下し、評価ポイントを入れていただけるととても嬉しいです。


執筆中BGM:AKB48「言い訳Maybe」


一読後に、こちらの曲を聴いていただければ、作者がどんなイメージでこのシーンを書いたかふんわりと理解していただけるかなーと。

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