幻想の私・本当の私
神が、最初の女を男の頭からつくらなかったのは、最初の女が男を支配してはならないからである。
しかし、足からつくらなかったのは、最初の女が男の、奴隷になってはならないからである。
最初の女を男の肋骨からつくったのは、彼女がいつも彼の心の近くにいることが、できるように、である。
・・・
そんなことをしているうちに、昼休み終了の予鈴がなってしまった。
なので、私たちはそれぞれ教室へと急いで戻ることになってしまった。
「じゃあ、今日の放課後。
学校が終わったら、正門の前で待ってますから」
清水君が笑顔でそう言って、バイバイと小さく手を振るのに、私はうんとうなずく。
それにしても清水君にとって、私はどういうイメージなんだろう。
世話焼きの、しっかりしたお姉さん?
それとも男を弄んでは捨てる悪女?
本当は、そのどっちでもないんだけどな………。
やがて、午後の授業とHRがおわって、下校時刻になった。
彼はもう校門で待ってるだろうし、そろそろ私も校門へ向かって、一緒に帰ろうかと思ったのだけど、司会の先に入った、長めの毛先がぴょいぴょいはねているのが、つい気になってしまう。
暖かくなって空気が湿ってくると、髪の毛があちこち跳ねるのは、本当に困ったものなのよね。
私は、カバンからブラシを取り出して、髪の毛をすこうとした。
「んぎぎぎぎ」
けど、ブラシが髪の毛に絡まって、悪戦苦闘してると見かねたのか………
「もう、優里恵ってば、何やってんの?
ほら、やってあげるから、ブラシかして」
と言ってくれたのは、友達の細川美紀ちゃん。
「うん、美紀ちゃん。
いつもごめんね。
お願い出来るかな?」
「はいはい、あたしにすべて、任せなさいな」
そういって、私の後ろに回った美紀ちゃんは、ブラシで丁寧に髪の毛をすいてくれる。
「はい、終わり。
んで、今日は何で帰り際に、はねた髪の毛を、なおそうとしてたわけ?
いつもなら、そこまで気にしてないのに」
ブラシで髪の毛をすいていてくれた、美紀ちゃんがひょいっと顔を前に出し、私の眼を見ながらそう言った。
「うんとね………」
私は美紀ちゃんに、お昼休みにあったことを、かいつまんで説明した。
「なるほど、で、今日はこれからその清水君と、一緒に帰るから、身だしなみを整えておきたいと」
「う、うん、一応そのくらいは気を付けておこうかなって」
「去年に散々ふられて、もう年下の男の子からの告白なんて、絶対に受けないって言ってたはずなのに、なんでそんなことになるかなあ。
で、もうあんたは、また男の子と付き合っても大丈夫なわけ?
一時期なんて人間不信気味になってなかった?」
私は少しだけ顔を伏せて答える。
「大丈夫………かわからないけど、やっちゃったことは仕方ないし。
多分、すぐにイメージと違うからって、また振られちゃうんだろうけどね。
でも、自業自得だからしょうがないよ」
私がそういうと、美紀ちゃんはかるく肩をすくめて言った。
「まあ、あんたの場合は、見かけと違ってすごく手がかかるからね。
むしろ、世話好きな男のほうがずっと相性がいいと思うんだけど」
私は美紀ちゃんの言葉に苦笑して答えた。
「しょうがないよ、そういう人はたぶん、自分より年下のおとなしそうな、男の子がかいがいしく世話をやくと、喜んでくれそうな女の子が好きなんだろうし」
私の言葉に美紀ちゃんはかるく肩をすくめる。
「まあ、そうだよねえ。
なかなか、世の中ってやつは、うまくいかないわよねぇ
あーあ、私もイケメンの彼氏が欲しいよー」
そう言う美紀ちゃんは冗談なのか、はたまた本気なのか。
清水君はイケメン? まあかっこいいほうだとは思う。
そうでなかったら、私は彼に付き合ってくださいとは、言わなかったのだろうか?
「あ、ごめんね、そろそろ行かなくちゃ」
「へいへい、行ってきなさいな」
教室を出て、昇降口で靴を履き替えてから、校門に向かう。
校門に向かうと、清水君はとっくに到着しており、校門によりかかってスマホを見ていた。
私は彼に近寄ると、軽く手を挙げ、精一杯の笑顔になると、声をかけた。
「清水君、待たせてごめんね。
帰ろっか」
そんな私を見て、清水君はフフッと笑って言った。
なんでだろう?
特に、笑われるようなことをしたつもりは、ないんだけどな。
「そんなに待ってないから大丈夫ですよ。
じゃあ、帰ろう」
「うん」
私たちは、駅に向かって歩き出した。
「ところで、優里恵さんが少し遅くなったのって、いったいなんでです?」
横を歩いていた清水君が、わずかに首をかしげながらそう聞いてきたので私は答える。
「えっとね、はねてた髪の毛を直してたら、ちょっと時間がかかっちゃって」
私がそう答えると、清水君が聞き返してきた。
「なるほど、普段のヘアケアってどんなことしてます?」
「ええっと、特に何も?」
清水君がフムと小さく首を振ったあと少し考えていった。
「なるほど、それだと毛先が痛むでしょうね………。
とはいっても、あんまり細かくいっても、覚えきれないでしょうし………。
では、まず髪の毛を洗う時の、シャンプーを洗い落とすときに、今より10秒ほど長くシャワーして、シャンプーを、髪の毛に残さないようにしたほうがいいですよ」
へえ、そうなんだ。
「そうなんだ、、じゃあ、さっそく今日から試してみるね」
うなずいて答える私に、清水君はニコッと笑って言った。
「ええ、そうしてみてください。
後、切れ毛やくせっ毛に困ってるなら、ヘアオイルがあったほうがいいですが、髪質に合わせないと髪がベタついたりするだけなんで、優里恵さんさえよければ、明後日の土曜日にでも、買いに行きましょうか?
明日の放課後は、ちょっと用事があるんで、無理なんで済みませんけど」
正直に言って、私にはヘアオイルの選び方なんて、全くわからないから、その申し出は素直にありがたい。
「え、う、うん、そうしてくれると嬉しいかな」
「じゃあ、土曜日に駅前に朝10時集合でどうでしょう?」
10時なら大丈夫かな?
「うん、それで大丈夫だよ。
でも、ヘアオイルって、いったいどこで売ってるのかな?」
「高めで良ければ、デパートの一階にあるような、化粧品売り場がいいですが、スーパーやドラッグストアなんかの化粧品や、ヘルス&ビューティコーナーがある所においてありますよ」
「すごい。
清水君は何でそんなに詳しいの?」
私がそう聞くと清水君は一瞬何か考えた後に、小さく頭を掻きながら言った。
「あー、うちの家族にその手の業界で働いてる人がいまして。
なんで、俺もかじったったくらいですけど、そこそこは知ってるんですよ」
「そうなんだ、男の人でそこまで知ってるなんて、すごいね」
「いや、まあ、俺の場合はそういう家庭環境だったからってだけなんで、別にそれほどでもないですが。
ああ、ちょうどいいんでここによってきましょう」
清水君が指し示めしたのは100円ショップ。
「100均?
いったい何を買うの?」
私がそう聞くと、フフッと笑って清水君は言った。
「いやいや、100均はバカにできないんですよ」
私たちは一緒に100円ショップのドアをくぐって中に入った。
そして彼が歩いて行ったのは、ファッション&コスメのコーナー。
そこからいくつか色の儒類があるものの中の、ブラウンの一つのシートを手にとって、彼は言った。
ラベルにはヘアビタミントリートメントって書いてある。
「これを風呂上がりに1粒出し、突起の部分を切って中身を出し、タオルドライした髪につけて、ドライヤーをしてみてください。
今よりすっと髪の毛がサラサラになりますよ」
「へぇ、そうなんだ。
確かに100円のものでもバカにできないね」
私がそういうと彼はこくりと小さくうなずいた。
「ええ、こういったことは、やらないよりはやったほうがいいですよ」
「うん、さっそく今日試してみるね」
私は、ホクホク顔でヘアビタミントリートメントを手に取って、店を出ると彼も笑顔だった。
そして、私たちは駅で別れた。
「じゃあ、またね」
私の挨拶に彼も挨拶を返してくる。
「ええ、また」
また………か。
少なくとも今はまだ、イメージが崩れたとかは思ってないのかな?
そして、今日の入浴時にシャンプーで髪の毛を洗う時に、いつもより10秒長くすすぎをして、タオルで水分をとった後に、ヘアビタミントリートメントを髪につけて、ドライヤーをしてみたら、毛先がさらっさらになったし、いい匂いもする。
うーん、本当に、100均のアイテムも馬鹿にできないんだね。
そして、スケジュール手帳の明後日に予定を記入する。
”S君とお買い物”
ってね。
最近は家族か美紀ちゃんと出かける時くらいしか、書きこむことがなかったからずいぶん久しぶりで、思わず、顔がにやけてしまった。
まあ、これの次があるかは、まだまだわからないのだけど。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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執筆中BGM:My Little Lover「Man & Woman」
一読後に、こちらの曲を聴いていただければ、作者がどんなイメージでこのシーンを書いたかふんわりと理解していただけるかなーと。