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episode.6 Unexpected proposal.


シャーロット16歳。

長期休暇があけたら、わたくしも学年が上がって2年生になるわ。

今年はキース王子が入学するのよね…また面倒に巻き込まれないといいのだけれど。

そんなわたくしの不安を、学院を卒業されたお兄様に零した翌日、珍しくお休みで家にいらしたお父様に呼び出しを受けたの。


「お父様、シャーロットです」


「ああ、入っておいで」


お父様の執務室の扉を開けると、うずたかく積まれた本が窓を遮っていて、部屋の中がまるで夜みたいだわ。

その本を見てみれば、なるほど、全て魔法書ね。

お父様らしいけれど、これはまたお母様に叱られるわね。

わたくしはかろうじてスペースの空いていたソファに座ると、姿勢を正してお父様を見たの。


「ロティ、君に縁談の話が来ているんだ」


「…えっ、わたくしに縁談、ですか?」


「ああ。まだ早い…というか、私もシャーナもロティには出来るだけ長く家にいて欲しくて、今までも来ていた縁談は断っていたんだが…アンリに叱られてね」


「お兄様に?」


どういう事かと聞けば、昨日のわたくしが零した不安というか、愚痴が原因だった。

お兄様曰く、


『ロティは昨年ずっと学年首席で、偽名とは言え魔道具作りの天才。さらに7ヶ国語もペラペラ。それ程素晴らしいロティが王家に目を付けられるのは当たり前ですし、ロティは王家だけでなく高位貴族にも狙われております。去年はなんとか私が守って来ましたが、私はもう学院を卒業してしまいました。これからロティを守るためにも、早くロティの婚約者を決めるべきでは?』


との事らしい。

お兄様、知らないうちにわたくしを守って下さっていたのね。

そしてご自分が卒業した後もわたくしを心配してくれる、優しいお兄様…大好きよ!

そんなお兄様はもうすぐご自分の結婚式を控えているのに、余計な心配をかけてしまったわ…ごめんなさい、お兄様。

ていうか、7ヶ国語覚えちゃった事、バレてたのね…。


「お兄様のお心、よく分かりましたわ。それでお父様のオススメの殿方はどなたですの?」


「ああ…それなんだが…少しばかり年が離れているんだ。ロティは年上でも平気か?」


年上と聞くと、後妻?と頭を過ぎったけれど、お父様がわたくしを後妻になどと考えるはずはないもの。


「はい、大丈夫ですわ。まぁさすがに30歳上とかですと、離れ過ぎていて少し不安ですけれども」


わたくしの中身年齢を棚に上げてそう答えると、お父様はびっくりした顔をしたの。


「いやいや、そんなに離れてはいないよ!それじゃあ後妻みたいではないか。そうだな、ロティの…7歳上だな」


「あら、それならば離れているうちに入りませんわ」


だって、23歳ということでしょ?

正直、中身が35+16のわたくしから見ると、同年代は子供っぽ過ぎて合わないもの。

丁度いいかもしれないわね。

っていうか、35+16って…51歳なのね…少し、いえ、かなり凹むわ。

赤子の頃からすでに大人ではあったけど、肉体に引っ張られているのか、精神年齢は今の年相応だと思うけれど。


「そうか。ならば釣書を…ええと…ああ、これだ」


お父様が積み上げられた魔法書の間から1枚の釣書を探し当てて、わたくしに渡したの。

なんでそんな所に?という疑問は聞かないでおいたわ。

その釣書を開いたわたくし、暫く固まってしまったの。


「お、お父様、あの、これは、え…えぇ!?」


「おや、嫌かい?私もシャーナも、彼は好感の持てる相手だし、ロティの好みに合うかと思ったんだが」


「えっ、いえ、確かにそうなのですけれど!」


「だろう?ロティが良いと言うなら、この話をすすめようと思うんだが、どうだろう?」


「あのぅ、お父様」


「うん?何か不安かな?」


「このお話は、ヴァロワ家から、ですの?」


「いや、向こうからだよ。実はそれで3回目なんだ」


「え、ええっ!?」


3回目ですって!?

今までなんて言って断っていたのかしら?


「え、ええと、なにか政略的な理由が?」


「いや、そういうのは何も無いから心配しなくていい。元々ロティに政略結婚をさせるつもりはなかったからね。だからロティの気が進まなければ断るし、婚約を結ぶ前に彼と話してみて、それから決めても構わないよ。まぁ、話す機会は今までも沢山あったとは思うけれどね?」


「え、ええ、まぁ…」


「どうだい?ロティ」


「では…まずは改めてお話をする機会を頂けたら…その、こういうお相手として話した事がないので」


思わず頬を染めてしまったわたくしに、お父様が「もちろんだよ」と微笑みを向けてくれたのだけれど…心做しか青筋も浮かんでるのよね…娘の未来の婿候補に対する嫉妬というやつかしら。


でも、だって、ねぇ?

釣書の名前が…『カインズ・シュヴァリエ』だったのよ…。

まさか、あのシュヴァリエ先生から婚約のお話を頂けるだなんて、思いもよらなかったのだもの!

しかも、3回もよ!?

これは、あれかしら、お父様の言う通り、政略結婚ではなくて…わたくしを望んでくれている…と、思ってもいいのかしら?

どうしましょう、嬉しい…けど、あのシュヴァリエ先生が、なぜわたくし?

とりあえず誰かにこの心の叫びを聞いて欲しくて、ソフィアとミーシャに魔法で連絡をしたのだけれど…。

ミーシャからは『やっとなのね!頑張って!報告待ってるわ!』って来て、ソフィアからは『やっと先生の想いが届いたのね!後で報告聞かせてね!』って来たのよ。

…え?どういう事?と、余計混乱したわたくし。

誰か説明して…?


悶々と悩んでるうちに、シュヴァリエ先生との約束の日が来てしまったわ。

場所は我がヴァロワ家の中庭。

毎日学院でお会いしていたのに、緊張してしまう。

部屋の窓をチラチラと見ながら、窓辺をウロウロと彷徨うわたくしを、わたくし付きの侍女エッタが生温かい目で見ているわ…だって!前世でも結婚を考えたお付き合いなんて、したことなかったのよ!

しかも前世であんな好みどストライクな人に会ったことも無かったし!

エッタに「お座りになってお茶でも飲まれては?」と言われたわたくし。

無理よ無理。緊張でじっとしてなんていられないわ。

すると窓の向こうに、シュヴァリエ家の紋章の入った馬車が見えた。


「エッタ!どうしましょう!来てしまったわ!」


「そりゃ来ますよ、お約束してたのですから」


「そ、そうよね…エッタ、わたくし変じゃないかしら?」


「ええ、今日もとても愛らしく、お美しいですよ」


「そう?でも、シュヴァリエ先生の好みに合わなかったら…」


「あら…お嬢様、結構その気なんですね?ふふ」


「うっ…」


「お嬢様、本日は『先生』と呼ばないようにして下さいね。今日のシュヴァリエ侯爵様は先生としてではなく、お嬢様の伴侶になりたいと会いに来て下さるのですから」


「は、伴侶…そ、そうね、そうだったわ。シュヴァリエ侯爵様ね」


そう…なんとシュヴァリエ先生は既に侯爵家を継いでいるのよ。

学院で教師をしているのは臨時で、数年の短期らしいのだけれど、元は歴史研究者なの。

そうよ、現役でミステリーをハントされてるのよ!

それもあって、モロにわたくし好みなのよ!


今日はお父様はお休みが取れなくて、お母様とお兄様、わたくしでシュヴァリエ先生…じゃなくて侯爵様をお迎えした。


「本日はお招き頂きまして、ありがとうございます」


「お久しぶりね、よくいらして下さいましたわ。主人はどうしても仕事を休めなくて…ごめんなさいね」


シュヴァリエ先生と面識のあるお母様が、朗らかに挨拶を交わしているわ…凄いわお母様、きちんと自分の色気をシャットダウンしてるわ。

どこかに切替ボタンでもついているのかしら。


「先生、お久しぶりです。ようこそヴァロワ家へ」


お兄様は学年が違うけれど、最終学年の歴史学の担当はシュヴァリエ先生だったのよね。

お兄様も柔らかい笑顔でお迎えされてるわ。


「シュヴァリエせ…侯爵様、ようこそ…」


ああー!ダメだわ!緊張してろくな挨拶も出来ないなんて!

助けてエッタ!助けてミーシャ、ソフィア!わたくし泣きそうよ…。

そんな事を胸の中で叫んでいると、すぐ側からふっと笑い声が漏れ聞こえた。

顔を上げてみれば、いつもは凛々しいシュヴァリエ先生お顔が、優しく微笑みを湛えていたの。

なんという麗しいご尊顔。尊い、尊いわ。


そのままあれよあれよと中庭へ案内され、わたくし達は2人きりにさせられたわ…。

まぁ、少し離れた所に侍女も護衛も居るのだけれど。


「はぁ…やっと会えた」


「へっ…?」


「あ…すまない。長期休暇に入ってから君の顔を見られなかったから、嬉しくて。会ってくれてありがとう。うん…ドレス姿も可愛いね」


そんな事を言ってふわっと笑うシュヴァリエ先生…やばいわ、甘いわ、素敵すぎるわ。

ていうか、可愛いって!可愛いって言われたわ!!


「あっ、ありがとうございますっ…!あ、あの!せんせ、じゃなくて、シュヴァリエ侯爵様は、その…」


「うん?」


「3度もわたくしに…求婚を、して頂いていたと…聞いたのですが」


「うん、そうだよ」


「なぜ…ですの?」


「なぜ、か。どうしても君を…好きでいる事を諦められなかったから、かな」


す、す、好きって!しかもそう言うシュヴァリエ先生は、すっごいイケメンオーラ?色気?がダダ漏れで、わたくし鼻血が出ないか心配なの。

それにしても、本当に…?

こんなに素敵な方が、わたくしに?

この疑問が顔に出ていたのか、少し首を傾げたシュヴァリエ先生が、わたくしに問いかけたわ。


「意外?」


「は、はい…学院でもその様な雰囲気はありませんでしたし…学院に入る前にお会いした記憶も無かったですし…」


「うん…学院では生徒と教師だから、隠す努力はしていたよ。まぁ…クルーゲル嬢とミーゼス嬢にはバレてたみたいだけどね」


照れたように笑うシュヴァリエ先生…本当に鼻血が出そう…って、そうじゃなくて!

ミーシャとソフィアは気付いていたの!?


「あと、君は知らないと思うけど、私が君を初めて見たのは3年前の王立図書館だよ」


「そ、そうなのですか?…ん?3年前の、王立図書館…?」


「そう。君は図書館の隅っこの机に沢山の遺跡の本を積み上げて、真剣に女神アウラと神シンドラの神殿の本を読んでいた」


「あ…ああー!って、えぇっ?見られていたんですの!?」


思い出した。

わたくしその頃、ちょっと本気でミステリーをハントする未来を思い描いていて、この世界の遺跡に関する書物を、王立図書館で読み漁っていたのよね…。

まさか見られていただなんて…恥ずかしいわ。

真っ赤になっているだろう頬を押さえ、俯いてしまうわたくし。


「部下に言われて気付いたんだけど…私はその時に、君に一目惚れしてしまったらしい」


シュヴァリエ先生…そんな愛しげな顔でそんな事を言うなんて…ずるいですわ!!!


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