6☆ミランダ
「お願いだ、行かないでくれ」
王がうなされていた。
キャサリンはサコムに懇願されて、王の寝室に出向いた。うなされている王の様子を見て、ただ事じゃないという気がした。
「俺を置いて行くな!一人にしないでくれ」
「王は時々悪夢を見てうなされることがあるのです」
と、サコムがキャサリンに言った。
「ミランダ!」
叫んで王は目覚めた。薄暗い中、キャサリンの長い髪を見て、誰か別の人を認識したらしく、いきなりキャサリンを抱きしめた。
「ミランダ、帰ってきてくれたのか?」
「違います、私はキャサリンです」
「キャサリン?」
がばっとキャサリンの身体を引き離して、両手でつかまえたまま、しげしげと彼女を見た。
「ああ!ああ。すまない……」
「ミランダって誰ですか?」
「私の想い人。私を置き去りにした女」
「……」
「キャサリン。頼む、この宮殿の女王になってくれ」
「それはできません」
「私を悪夢から解放できるのはそなただけだ」
「私は、ルシアンとおじいちゃんと一緒にルシアンのお母さんに会いに行かなければならないんです!」
「お前がここに残るなら、きっとルシアンたちもここに残ることだろう。どうか、お願いだ」
「でも!」
キャサリンは王に押し負けそうだった。
「ルシアン!おじいちゃん!」
キャサリンの大声で呼ぶのを聞いて、ルシアンが駆けつけた。
「王様!キャサリンを僕たちから取り上げないでください!」
「キャサリンを守って一緒にそなたたちもここに残れ」
「残れません!僕の母は病気で、僕たちが会いに来るのを待ってるんです」
「……」
王は脱力して打ちひしがれた。
「行こう」
ルシアンはキャサリンを連れて自分たちの寝室に戻った。
「どうしたらいい?」
キャサリンがルシアンに尋ねた。ルシアンはラピスラズリの指輪を指差して
「旅を続けよう」
と言った。
「でもおじいちゃんがまだ目覚めない」
「待つんだ」
「王様がかわいそう」
「同情は禁物だよ、キャサリン」
「ルシアン」
夜が静かに更けてゆく。二人は気が気じゃなかった。