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その2

「いいよいいよ、一人で取ってくるから!」

 恵は笑いながら階段で2階に上がって行きました。雑居ビルの階段は外に面しており、下からも通っている人が見える構造です。下で待つことになった私は階段なら大丈夫かなと思いました。

「私と入れ違いで誰か降りて来なかった?」

 3分ほどして戻ってきた恵は少し不思議そうな顔をして聞いてきました。しかし、恵が階段を上がった時から、ビルから出てきた人は一人もいません。

 私がそのことを伝えると恵は一瞬訳がわからないといった顔をしました。でもすぐに考えを切り替えたらしく「まぁいいや。さっ行こ!」と言うとすぐに歩き出しました。


「ねえ何があったのよ?」

 カラオケに着く直前、私は我慢できずに聞いてしまいました。

「……会計は誰がしてくれたの?」

 恵は足を止め、一瞬考えてから聞いてきました。

「私だけど……」

「それ本当? 私ね、お店の人にハンカチの忘れ物がないか聞いたら、『ついさっき会計をされた方が取りに戻ってきましたよ』て言われたの」

「え……?」

「『今、お渡ししたところですから入り口ですれ違いませんでしたか?』て不機嫌そうな顔で言われたわ。あ、薫梨を疑ってるんじゃないの。もし薫梨が持っていたら一緒に店に行くなんて絶対言わなかったでしょ?」

「うん……」

「あともう1つ変なことがあってさ、見て」

 恵は持っていたハンドバッグから4つ折りになった白い紙を出しました。

「お店を出る時に店員さんに渡されたの。『落としましたよ』って。何も私落としてないって言ったけど『いや、今落とされたの見たんですけど』って渡されちゃった」

 私は恵から紙を受け取るとそっと開いてみました。



 たのしかった?



 それはどう頑張っても悪意しか感じ取れない汚い字で紙の真ん中に書き殴られていました。


「マジできもすぎ。ハンカチもないし変な紙は渡されるし、本当に最悪。でも、こういうことはさっさと切り替えて忘れるしかないよね!」

 まるで自分に言い聞かせるように恵は言いました。私はこんなことがあっても自分の感情をすぐに整理しようとする恵がかっこいいと思いました。

 でも、だから敢えて言わない方がいいと思ったんです。恵が白い紙を出すまで、ビルの前からずっと人型の黒い塊が私たちをついて来ていたことを。そしてそれが今やっといなくなったことを。

 最初は目の錯覚だと思っていたんです。でも気のせいではありませんでした。私たちの歩くスピードに合わせて付いてきた黒い塊。私はなんとか気づかないふりをしてカラオケの側まで来ました。怖かったけれどこういうのは無視した方がいいと思ったんです。

 黒い塊が消えて私はほっとしました。でも一つだけ今も引っかかることがあります。黒い塊は消えるまで私ではなく明らかに恵の方をずっと睨み付けていたんです。まるで何か恨みでもあるような鋭い眼差しで。

 恵は気づいていなかったようなのでほっといてもいい気がするんですが、どうして恵があんなに睨まれていたのか、私は今も気になっています。


もう少しだけ続きます。

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