その1
私が通った高校の最寄り駅。その駅前の雑居ビルには飲み屋が各フロアに入っています。
1階 海鮮系のチェーン店
2階 焼き鳥のチェーン店
3階 ダーツバー
4階 格安のチェーン店
高校生の時は未成年なので縁のなかったビル。でも、大学生になり成人してからは頻繁に行くようになりました。
その雑居ビルに入っているお店はいつもどこも賑わっていて繁盛しているイメージです。今からするのはそんな雑居ビルで起きたお話です。
その日は高校の同窓会でした。私が通った高校は3年間クラス替えがない学校でした。なので卒業後もみんな仲が良く、今でも年に1回は集まっています。その日は高校を卒業して4年目の夏、確かお盆の少し前だったと思います。
会場は高校の最寄り駅の前の雑居ビル2階、チェーンの焼き鳥屋でした。いつもなら30人ほど集まるのですが、その日は集まりが悪く10人で飲んでいました。
飲み会はかなり盛り上がり、自然と皆んなで二軒目に行くことになりました。
「おれ、次の店を探しに行ってきます!」
二軒目に行くことが決まった途端、酔っ払った幹事の林が右手を上げて皆んなに宣言しました。そして側にいた綺麗どころ2人組の恵と涼子を連れて先に店を出て行きました。
私を含め残っていたメンバーは3人を見送るとお会計の準備を始めました。廊下のすぐ側にいた私はみんなのお金を集めてレジに向かいました。
「薫梨! 行くよー!」
支払いを終えて店を出ると名前が呼ばれました。声がした方を見ると先に店を出た6人がエレベーターの中で待っていてくれました。
「早く早く!」
ドアを開けてくれていた美穂に呼ばれて私はエレベーターに飛び乗りました。
小さな雑居ビルですがエレベーターはとても大きく、20人ほど乗れる広さがあります。エレベーターの中には私たちの他に大学生ぐらいのカップルが1組乗っていました。
私が乗った後、すぐにドアが閉まりました。でも何故かエレベーターはなかなか動きません。ボタンの押し忘れかとも思いましたが、1階のボタンは既に押してあり光っています。
エレベーターの中にはエアコンがありません。そのせいで非常に暑く、じとっと湿った空気が充満していました。私は蒸れた空気に息苦しさ感じました。
ブーン
突然、変な音がしました。そしてゆっくりとエレベータが動き出しました。しかし、ほっとしたのも束の間、向かった先は1階ではなく上の階でした。
ブン
また変な音が鳴りエレベーターは4階で止まりました。そして当然のようにドアが開きました。上に上がった理由が気になりましたが誰かが乗ってくると思った私はドアの側から離れました。
しかし、そんな必要はありませんでした。何故なら4階のエレベータホールには誰もおらず、電気すらついていなかったからです。暗がりの中で目を凝らすと「本日定休日」と大きな看板が居酒屋の前に置いてあるのが見えました。
「え、なにこれ……怖いんだけど」
一緒に乗っていたカップルが囁きあっていました。なんとなく嫌な感じがした私は慌てて「閉」のボタンを押しました。するとドアはぎこちなく閉まり今度はまっすぐ1階まで降りました。
1階でドアが開いた時、私は「開」のボタンを押して皆んなに先に降りてもらいました。エレベーターを降りる皆んなの背中を見ていると突然、生温い風が私の頬を撫でました。そしてその直後に私は自分の目を疑いました。
エレベーターを降りた人数が乗っていた人数よりも1人多かったのです。
なんとなく数えていただけなので誰が増えたのかはわかりません。でも、私を含めて9人しか乗っていなかったはずなのに、降りた人数は10人いたんです。
「薫梨? なにボサッとしてるの?」
美穂に声をかけられるまで私は足がすくんでエレベーターの前から動くことができませんでした。怖くなった私は何も言わずに美穂の元へ走りその場を後にしました。
ビルから出ると大学生のカップルはいませんでした。一緒に飲んだメンバーがいるだけで増えた人の正体はわかりません。寒気がした私はそれ以上深く考えることをやめました。
私が他のメンバーと合流した時、ちょうど先に店を出た林から電話がかかってきました。少し呂律が怪しい林は私に、二軒目は雑居ビルから歩いて5分のカラオケであること、林と一緒に先に居酒屋を出た恵が席にハンカチを忘れたから取りに戻っていることを説明をしました。
電話中、私はなんとなく恵を1人で居酒屋に向かわせるのが不安になりました。少し悩んだ結果、6人には先にカラオケに行ってもらい私は恵と合流することにしました。
「ごめーん! ありがとうー!」
恵は小走りですぐにやってきました。スタイルがいい恵がヒールをカツカツさせて走ってくる姿はなんだか様になっていて、女の私でも見入ってしまいそうになりました。
恵はスタイルだけでなく性格もいい子です。別々の大学に進学したから最近はちょっと疎遠になっていますが高校の時はいつも一緒にいました。だからハンカチを取りに戻るなら私も一緒に行ってあげようと思ったんです。でも、今思えばやめとけばよかったなと思います。
だってせっかく深く考えないようにしたところだったから……