プロローグ
「主文。被告人を死刑に処する――」
判決を聞いた瞬間、被告人よりも冷静であるべき弁護人、つまり私はショックで膝から崩れ落ちそうになってしまった。それを傍らに居る誰かが支えてくれなかったら、そのまま卒倒してしまっただろう。
こうなることは予想してた。
分かっていて引き受けたのだ。
分かっていて、立ったまま判決を聞こうとしたのだ。
全ては分かりきったことなのに、こんなにも衝撃を受けたのは、被告人が――私の妹だったからだ。
私の妹――吟は自分に死刑判決が下ったことに対して、なんとも思っていないようだった。今までの裁判のとおり、何の感情も露わにしない。表してくれないのだ。聡明な彼女ならば自分がこの後どうやって死ぬのか、理解しているはずなのに。日本の司法における死刑の方法は絞首刑――つまり縊り殺されるって分かっているのに。
どうして、そんなにも、自分の死に対して、冷静でいられるのだろう?
吟は私を見た。
弁護人席で動揺している私に向かって、声に出さずに唇の動きだけで伝える。
私は忘れない。
一生忘れないだろう。
吟の伝えたかったことを、一生忘れない。
『ありがとう。お姉さん』
声に出さない感謝の言葉は私を縛って放さなかった。
これから語る、妹、松永吟の人生はバッドエンドだ。
決してハッピーエンドになることはない。
敢えて結末から話したのはそのためだ。
興味のない人は覗くことなく、後ろを振り返ればいい。
だけど――私は語る。
語らなければならない。
それが松永吟の姉であり、恋人であり、味方であった松永司の使命――運命だからだ。




