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イッ死んドウタひ 〜欠落少女と亡者の道連れタび〜  作者: ナカノ人
二章 少年は少女に右腕を授ける
9/12

九、ニールのおうち

 アルヴィン村は、ほとんど自然のまんまな、のどかな森って感じだ。それでも、一見するとけもの道だけど、道端にきれいなお花が整えられて植えてあったり、ところどころ木と木の間にロープが張ってあって、そこに洗濯物が干されているのを見ると、人が生活を営んでいるのがわかる。

 こういう森の中での暮らしっていいなあ。わたしもこんな暮らしでゆっくりしてみたいな。心地いい鳥のさえずりを聴き、村の様子を見渡しながら、前を歩くニールについていっていると、ふと人の声が聞こえた。見ると、ふたりのお姉さんエルフが話し込んでいる。


「あ、カルザ! コレット!」


 ニールが2人に手を振って声をかけた。うわぁ、おとなの人だ。ちょっと緊張するな。さりげなくニールの陰に隠れる。


「あらおかえりニール! 今日も魔法の練習? ……その子は? 村の子じゃ……」


 カルザ、コレットと呼ばれたふたりとも、口をポカンと開けてわたしをじっと見てくる。少し体に力が入ってしまう。これは……。


「やだ、どおーしたの! 大変じゃない! なにがあったの? ん?」

「かわいそうに、痛むの? 大丈夫?」

「服も汚れちゃって。あらったげよっか?」


 よかった、わたしが神託の神子ってことは分からないみたい。ふたりしてすごい勢いで心配してくれる。……だけど、わたしってそんな大変でかわいそうな見た目してるのかな。



「あー、大丈夫大丈夫。滝の所で会ったんだけどさ、ちょっと記憶喪失で、ベアに腕食べられちゃっただけだから」


 ニールがわたしのかわりに説明してくれた。すると、ふたりの顔がサーと青ざめる。


「「大丈夫じゃないじゃないの!!」」


「……そっか、確かに」


 ニールは納得してしまった。わたし、大丈夫だよ? というか、全部嘘だし。うーんでも、化物と一緒にいて、殺されそうになってる……大丈夫じゃないかも。


「そう、それでとりあえず僕の家に来てもらうことにしたんだ」


「ああ、そうなのね。何かわたしたちに出来ることあったら言ってね。リリーにもそう伝えておいて」


「うん、ありがとう!」


 そう言って、ニールはふたりに別れを告げながらわたしの左手を引く。どっちがカルザさんで、どっちがコレットさんだったんだろう。こんなに勢いよく心配されたのは初めてだな。ニールがわたしの代わりに喋ってくれたから、返事する間もなかった。


「驚いたかい? あのふたりは僕の友達のお母さんなんだ。髪が長くて背の高い方がカルザで、髪が短くて背の低い方がコレット。すごくお喋りなんだ。でもいい人たちなんだよ。……ああ、その友達もまた紹介するね」


 ともだち! いいなあ、ともだち。修道院とか兵舎にいたときは、他の神子みんなと仲良くできなかったもんな。


「ともだちとはなにして遊んでるの?」


「なにって? うーん、森で隠れんぼしたり、薬草採ったり、川では水遊びしたり、魚釣ったり、……最近だと、僕がみんなに魔法を教えてあげてるよ」


「いいな、魔法! わたしも教えて!」


「もちろんさ……ほら、あれが僕の家だ」


 ニールが一軒の家の前で立ち止まった。でもニールは、その家じゃなくて、もっと上を指さしている。その先を目を移すと、目の前の家の上に、周りの木に支えられてもう一軒空中に家があった。下の家の屋根についた出入り口から階段が木に巻きついて伸びていて、上の家の玄関に続いている。細い木の板を何枚も横に重ねて壁は造られており、三角の屋根はふぞろいな木の皮で葺かれていた。バルコニーの床、手すりの柵や窓枠だって、何から何まで木の素材でできていた。


「ツリーハウスだ!」


「そう、2世帯住居でね、上の家は今はお母さんと僕で暮らしてて、下は僕のおじいちゃんたちの家なんだ。おじいちゃんはこの村の村長なんだよ。僕は村長の孫、ニール=アルヴィンさ」


「へー」


 ニールはフフン、と鼻を鳴らす。顔でスゴイだろ? と言っている。

 村長……。ニールって偉い人の子どもなんだ。うん、なんだかそう言われても違和感ないな。

 ニールのおじいちゃんとおばあちゃんは、今出かけていていないらしい。家の裏手に回り、はしごで屋根に登って、ニールの家への階段を上がった。僕の家の階段は揺れるから、とニールはわたしをおぶってくれた。ニールはわたしをおぶったまま、アーチ型な玄関の扉を開ける。


「ただいま!」


「おかえりニール……あら? その子は? ちょっと、怪我だらけ——まあ大変! 右腕どうしたの?」


「森で会ってさ、連れて来たんだ」


 きれいな人だなぁ。ニールのお母さんは、ゆったりとした明るいブラウンの髪を後ろでまとめていて、心配そうにわたしを見つめる少し垂れた目は、ニールとそっくりな透き通る青い瞳をしていた。


「こ……こんにちゎ」


 語尾がすぼまってしまった。やっぱりおとなの人はちょっと緊張するな。

 ニールのお母さんは手を伸ばし、わたしの頭をそっと撫でる。柔らかい手の感触。


「あとでお話聞かせてくれる? まずは体を拭いてあげましょっか。ね?」


 和らぐようなニールのお母さんの声は、なんだか懐かしくて、ちょっと寂しくなる、胸をくすぐる響きだった。

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