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イッ死んドウタひ 〜欠落少女と亡者の道連れタび〜  作者: ナカノ人
二章 少年は少女に右腕を授ける
7/12

七、天賦

 その少年はニールと名乗った。

 ニールはわたしより頭ひとつ分くらい背が高くて、サラサラの青い髪と透き通った青い目をしていた。

 見つかっちゃったときはまずいと思ったけど、ニールはわたしの転んでけがをした額と膝に、トギリの葉という薬草の汁を塗ってくれた。わたしのことは知らないみたい。トギリの葉をけがをした部分に塗ると、傷口に染みてスースーした。


「ありがと」


「いいよ。それで、君の名前はなんていうんだい?」


「わたしね、チコっていうの」


「チコね。で、チコ、右腕の方はどうしたの?」


「えっと、化物にやられちゃって」


「え? 化物って?」


 あ。しまった。化物のことは言わない方がいいよね。なんて言おうか。


「……うーんと、ベアに食べられちゃった」


 ベアなんて図鑑でしか見たことないけど。


「え、食べられ……痛そう……。そんなことがあるんだ。たいへんだったね。……ベアって、ここら辺にいたのかい? 見たことないけど」


「んー、あー、もっと遠くにいたときかな」


 ニールはわたしの右腕を見ながら眉をしかめている。


「遠く? チコはどこから来たんだ? 家はどこ? あ、ナナカ村の方? 服もボロボロだし、裸足だし、怪我だらけだし、変だよ? どうしたの?」


 変……わたし変なんだ。困った。やっぱ見つかっちゃダメだったかな。答えるのが難しい。神託の神子です、っていったらどうなるんだろう。捕まえられちゃうかな。襲われちゃうかな。こわいな。

 ……しら切っちゃおう。


「……わかんない」


「わかんない? 自分の家も? お父さんお母さんは?」


 わたしは首を横に振る。

 答えるとしたら、家は8歳まで修道院の小部屋で、そのあと王宮の兵舎の隅っこで、最近は立派な木の下。お父さんもお母さんもわたしにはいない。でも今はとりあえず、わかんないふり。わたしはわかんない子。

 ニールは眉をしかめたまま首をかしげる。


「じゃあどうやってここまで来たかもわかんない?」


「うん」


「ベアに襲われたのは覚えてるのに?」


「う……うん」


 ニールは眉をしかめ、首をかしげたまま、腕を組む。


「うーん。じゃあ、チコは記憶喪失なのか?」


「そう! きおくそーしつ!」


 ニールは驚いて仰け反っている。わたしが身をのりだしたからだ。なんだか都合のいい言葉が聞こえたので思わず反応してしまった。いいね、わたし記憶喪失の子になろう。


「ぷッ。ハハハ」


 仰け反っていたニールが笑い出す。


「記憶喪失なのに、元気はいいんだね」


「うん、わたしは元気なきおくそーしつなの」


 そういうことにしておこう。わたしもニールに合わせてニコニコする。

 笑っていたニールが、そうだ、とわたしに提案する。


「チコ、うちにおいでよ。僕の母さんはとっても優しいから、きっと良くしてくれるよ。ほら、右腕の包帯も取れかかってるし」


「ニールにはお父さんお母さんがいるの?」


「当たり前だろ? ……ああ、父さんは今徴兵でいないけど」


 ニールの顔が曇る。だけどそれは一瞬だった。


「でも大丈夫、僕の父さんは強いんだ。村一番の火属性魔法の使い手だったんだ。大丈夫」


 それはわたしじゃなくて、自分に言い聞かせているみたいだった。


「それに僕はね、父さんより強いんだ。チコもさっき見たろ? 実は、僕……」


 ニールは、今度はわたしの目を見て言う。


「そう、僕、天賦エラーを授かってるんだ」


 すごく誇らしげな顔。

 そうなんだ。ニール()授かってるんだ。ちょっとびっくり。もしかしたら、ニールとなら仲良くなれるかも。


「そっか、大変だよね」


「え?」


「ニールはどんな使命を果たさなきゃいけないの?」


「……え? 使命? 使命は……あと四年したら、戦場でヒューマンをたくさん倒すこと……かなぁ」


「ふーん。それって、ニールはやりたいって言ったの?」


「……いや、そりゃあ父さんと一緒に戦いたいし、王国のために役に立ちたいし……」


「役に立ちたい、ねえ」


 わたしは大きくため息をつく。


『幸運な事に、あなたたち神託しんたく神子みこは、女神クルシュ様より生命いのちくさりという天賦エラーを授かりました。この有り難き恩寵をしかと受け止め、使命を果たしなさい』


 修道院でのお祈りの時間の度に言われていたことだ。なんだかもうどうでもよくなってしまった。わたしはやっぱり悪い子なのかな。


「なあ、チコ。急にどうしたんだよ。ちょっとおかしいぞ?」


「きおくそーしつだもん」


「関係あるのか? それは。僕はただ……自慢を……」


「ん?」


 ちょっと最後の方が聞き取れなかったんだけど。


「いや、だから、君おかしいからうちにおいで? やっぱりいろいろあったから疲れてるんだよ。な?」


 ……面と向かっておかしいって言われちゃった。

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