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イッ死んドウタひ 〜欠落少女と亡者の道連れタび〜  作者: ナカノ人
一章 少女は彼をバケモノと呼ぶ
5/12

五、血濡レタ笑


 ——きたか。

 よほど、俺を仕留めたいらしい。追手からはまだ充分に距離がある。このまま迎え討つのは下策だろう。チコを守りながらの戦闘は、剣士には不利だ。

 今、宮殿を襲撃したときのような馬鹿力はない。あの、刀を振るえば間合いの遥か先まで消し飛ぶような斬撃。かつて邪竜と対峙したときを思い出す。シリウスから支援魔法エンチャントを刀に受けたのが、まさに同じような感覚だった。その馬鹿力は、宮殿で目が覚めたと同時に消えている。

 ……囲まれたら終わりだな。ふたりして片腕かつ、自分の意思で動かせぬチコが弱点となっては、戦い方がわからん。


 先手を打つ。


 敵——エルフの戦い方は種族特性の【魔法】による遠距離攻撃が主体だ。近距離に持ち込めば、種族特性上、ヒューマンに軍配が挙がる。更に、俺には火属性魔法が効かない。これは、俺が生まれながらにして持っていた天賦エラーだった。

 ……だが、まさかの死ノ遣イには全属性の魔法耐性が標準装備らしい。俺の天賦エラーとはなんだったのか。おまけに、物理攻撃で体に受けた傷は再生する。()()だ。エルフ陣営も手を焼く訳だな。


武芯ぶしん


 倭ノ国、ヒューマンの種族特性。体躯の「しん」にて「たん」を練り、それを身体機能や感覚を強化する、「わざ」として成す。


 止水しすい


 気配を察知する技だ。聴覚や視覚に付随して、直感のイメージが浮かぶようになる。


 ……敵は全部で八人。四人ずつ二部隊ごとに固まって行動している。斥候隊の規模だ。歩みは慎重かつ遅い。まだ散開していない、ということはこちらの正確な位置まで掴めていないか。俺の足跡を追ってきたのか? 速さ重視の はやて で移動してきたが、隠密の かすか に切り替えた方が良さそうだ。


 片方ずつ、潰すしかない。

 近い部隊で距離にして200歩ほど、もう一方は迂回していて300歩ほど離れていようか。


 ……スゥ。


 深く呼吸をし、より密にたんを練る。


 ……。


 ——はやて


 200歩の距離を、20歩で駆ける——敵を視界に捉えた。抜刀——


 二足一撃ふそくひげき


 一歩のに二足蹴る。瞬間をはしる技。距離を一息に詰める——


「「——!?」」


 袈裟斬り。

 斬り上げ、振り下ろし。

 薙ぎ。


 ……残心、血振り。


 序、破、急。

 音無おとなしの斬撃、辻風つじかぜの連撃、迅雷じんらいの強撃を一連とした剣技。


 血飛沫が既に絶命した四体から上がる。……驚愕。そんな表情かおだった。


 四体目が、辛うじて上空へ掲げた手から光弾が打ち上がる。


 信号か。もう一方の部隊が散開する気配。厄介だ。二人がこちらに向かい、一人が離脱、一人はチコの寝る方角へ移動している。おおよその位置は掴めているらしい。離脱した者は報告に走ったのだろう。無理に追う必要はない。《《興味ない》》。


 もう不意打ちは通用しない。まずは向かって来ている二人からだ。たんを練り直し、 はやて を発動する。


 接敵。前衛が土壁魔法アースウォールを展開する。目眩めくらましか? それを一太刀で破壊する。土煙が舞う——


 金色の縄。俺を捕らえようと前衛の手元の魔法陣から複数本伸びていた。

 ——これが、捕縛魔法キャプチャーか。400年前にはなかった。あくまで足止めのつもりらしい。


 ——陽炎ゆらぎ


 縄の間隙かんげきを縫うようにかわしていき、間合いに入る。

 刀を薙ぐ。赤い飛沫と共に首が跳んだ。五人目——


 矢。六本。


 速い——風の支援魔法エンチャントで射出を強化しているのか? ……まあ、受けたところでこの身はすぐに再生するが。《《つまらない》》。

 体を捻り、矢を刀で弾く——が、一本が頬を掠めた。顔に巻いていた布がはだけて落ちる——


 二足一撃ふそくひげき


 後衛までの距離を一瞬で詰める。振りぬく。肉を断つ手応え。六人目——


 あと一人。チコを狙う奴だ。


 再び丹を練り、はしる——相手もずいぶんと移動が速い。チコの寝ている場所までもう射程圏内だろう。


 ——視えた。


 相手は俺に目もくれず、弱点チコに向かい赤い光弾を発射した。


 二足一撃ふそくひげき——!


 俺は光弾と弱点チコのあいだに身をていす——光弾は俺の体に弾かれ、爆散した。


 すんでの所で間に合ったか。

 ……あとは奴をるだけだ。


「……んう?」


 背後で声がする。今の音だと流石に起きるだろう。


 最後の一人は何発か光弾を放つ。効かない。相手は角度をかえ、回り込んで弱点チコに攻撃を当てようとするが、ことごとく俺の体に弾かれ、届かない。

 俺はただ、《《待った》》。

 埒が明かない。ようやく相手は遠距離を諦め、短剣を抜いて向かって来た。


 ——そうだ、それを待っていた。俺に刃を向けろ。


 序。


 距離を詰め、短刀ごと叩き斬る。生温かい返り血を一身で浴びる。


 七人目。


 刀に目を向ける。人を斬った血と脂で、妖しく艶めく。


 それにしても……。




 《《久々》》の戦闘たたかいだった。




「……え……え?」


 背後から困惑の声がする。俺は振り返る。


「追手だ。危なかったな。じきに増援が来るだろう。すぐ離れるぞ」


「……!」


 チコは何も言わない。ただ目を見開いて息を呑む。


「……驚いたか? 生きる為には仕方ないことだ。死にたくないんだろう?」


「……ねえ」


「なんだ?」




「……どうして、《《笑ってる》》の」




 ……。


 なに?


「……。バケモノ」

一区切りでございます。

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