現代から過去へ、そして現代へ
初の時代劇+現代もののなんていったらいいのかわからないジャンル達成!!
「拙者、斗賀野藩士、冨士原九十九之守利光と申す。いざ、尋常に勝負っ!!」
「来いっ!」
利光は己の刀を抜刀し、対峙していた他の男に踊りかかった。
交差する日本刀、奏でられる鋭い音と見える火花はお互いがそれほどまでの腕の立つものだということを物語っていた。
「お主、やるなっ!」
「お主こそっ!」
二人は一旦距離を置き、互いに構い直し、雄叫びを上げながらまたも突進した。
両者とも刀を中段に構え、すれ違う際にお互いの刀を一閃に薙いだ。
踏みしめられた雑草が冷たい風によって揺らぎ、決戦の場である平原には日本刀を持する二人の男が沈黙を纏い立ち尽くしていた。
「見事っ! ぐはっ……!」
二人の内の男が倒れた。
そしてその男は先程自ら名を上げた利光であった。
「お主もな、さすがは冨士原の先祖だ」
対峙していた男は死した利光に声を掛け、歩き出した。
男が向かう先は誰も、知らない。だが男が向かう先には必ず闘いがある。
それは本人自身なのか、先程死した利光らしき輩なのかは皆無である。
男は片手に持った刀を空に差し、小さく呟いた。
そしてその男は風のように消えた。いや、時空の狭間の中へと消えたと行った方がいいのかもしれない。
ここは現代の警視庁、捜査課の事務所。
「何!? またか!」
「は、はい。今日で五件目になりますね」
「なんだっていうんだ、このご時世に日本刀を持ち歩いてる奴がいるんだ?」
「わかりません。どうします? 現場に行きますか?」
「行くしかないだろう。ほら、行くぞっ!」
「は、はい」
俺の名は○×警視庁、捜査課の路哉祐志。
そしてこいつが二年後輩の久保田信弥である。
ここ最近、一つの連続殺人事件が話題となっている。
その殺人事件は不可解な点が多く、今日で五件目になるというのに解ったことは犯人の凶器が日本刀だけだということだけだ。
そしてもっと不可解なのが、全員が身元もわからない連中ばかりということだ。
遺体の所持品を調査しても身元のわかるようなものは出てこず、すべての遺品が室町時代の物ばかりなのだ。
そう、殺された連中の全員が歴史の教科書で見るかのような服装に所持品を持ち歩いていたのだ。
最初はマニア同士の口論の末の殺しだと思われてはいたが、あまりにも共通点のない被害者が続出したため、捜査は尚難航している。
「先輩、今回も同じだと思いますか?」
「ああ、恐らく、いや絶対そうだろうな」
「でも、可笑しいですよね。全員が昔の服装をしていて、しかも身元がわからないなんて」
「ああ、それに……」
「それに?」
「お前は知っているか? 今、全国的に起きている怪事件のことを?」
「あ、はい。一族喪失事件ですね。あの、一日にして特定の血族者が消失してるって言う」
「ああ」
「この事件とその事件がつながりがあるのですか?」
「いや、まだわからん。だが俺の推理が正しければ辻褄が合う」
「え? どんな推理ですか?」
「もし、ここいら付近で見つかった遺体が本当に室町時代で殺され何らかの原因で現代に飛ばされていたとしたら……」
「飛ばされていたとしたら?」
「としたら、その亡くなった人物のその後の血縁者がすべて消えたことも納得がいく。タイムパラドックスの一種だ」
「先輩、そんなSFじゃないんですから」
「ああ、でもそれしか説明ができない」
俺たちの車が現場に到着し、俺は手袋を両手に装着しながら身近の警官に問うた。
「それで? 現状は?」
「はっ。現場は前に起きた四件とほぼ同じであります」
「ほぼ? なら今回はなにか不審な点でもあるのか?」
「はい、鑑識の報告によりますと今回はもっと派手な戦闘があったとのことです」
「そうか、わかった。ありがとう」
「はっ」
俺は黄色いテープで囲まれた殺害現場の中へと潜り、信弥も続いた。
俺が遺体の傍まで歩くと、確かに戦闘があったとされる痕跡が残っていた。
なぜなら今までも遺体の全員は日本刀を握りながら死んではいたが誰もが手際よく切られていたのだ。
しかし今回は、平原の草を何回も踏んだ痕、つまり両者とも足裁きを行ったということになる。
そして今回の遺体はかなり名のしれた人物でありそうだ。
被害者の羽織る袴には蟷螂の紋章に冨士原と書かれていた。
そして冨士原と言えば、今や日本の政治を牛耳っているとも言われるほどの大物の苗字だ。
俺は一種の不安と焦燥を感じ、気がつけば叫んでいた。
「信弥! ニュースを点けろ!」
「え? あ、はいっ!」
信弥は携帯を取り出し、十秒間の操作の後、俺の下へと持ってきた。
最近の携帯はワンセグも備わっているので便利極まりない。
そして俺の予想通り、そのニュースはやっていた。
『先程入りました速報によりますと、冨士原氏とその家族、並びに冨士原氏の血族者が全員行方不明になったということです。これは今朝、冨士原氏の妻が朝になり家に家族がいなくなったことを知り警察に捜索以来を申し出たことにより発覚いたしました』
くそっ! やはりか!
「せ、先輩っ!」
「ああ、どうやら本当にいるようだぞ。過去と現在を行き来できる凄腕の日本刀使いがな」
俺は口の中で自らの怒りと憤りを閉ざし、拳を爪が皮膚に食い込みそうになるほど強く握った。
時は室町時代のある山の麓―――。
「お主か? 私をここまで呼び寄せたのは?」
「ふっふっふ、お主が金城か?」
「左様、私の名は……」
「良い、お主が金城の先祖だということがわかればそれだけでな」
「何を戯言を。私に子はおらぬぞ」
「いや、いる。今から○○年後の世界にはな」
「なに!?」
「いざ、勝負っ!」
男は己の刀を抜刀した。
その刀は紅紫に輝き、刀身は滑らかで誰もが見入ってしまうほど妖麗な形をしていた。
金城という名の男も抜刀し、対峙した。
しかし金城という男は長年の剣の道で養ってきた直感で悟った。
自分はこいつに斬られると。
「来ぬか。ならば我から参るぞ」
「くっ!」
金城は顔を険しく変えつつも隙のない構えで対峙する男の出方を窺ったがそれは意味のない行為であった。
なぜなら男が視界から消えたのだから。
「なにっ!?」
金城は辺りを見回したが男の姿はおらず、頭上を見上げるとそこには太陽を背に跳躍した男の姿があった。
「くっ!?」
逆光の為に視界は一瞬麻痺し、それを見逃さずして男は上段に構えた刀を振り下ろした。
「ぐあっ!!」
金城は反抗することも叶わず一刀のもと、両断された。
金城は頭から股間まできっかり真っ二つにされ、ぐしゃり、という不快な音と共に地面に崩れた。
まだ動いていた心臓が最後に送り出した血液が切断された血管から放出され、金城は己の内にあった地を浴び、真っ赤になった。
「ふっふっふ、これで六人目。日本最後の侯爵か、他愛ない奴だったな」
男は刀を一振りし、金城の血を払い飛ばした。
そして刀を空に向けて、
「転移」
すると一瞬、空が歪んだ。
そして男と金城の死体、そして周りの木々が現代の同じ場所へと時空転移した。
それを確認した男は自らの袴から携帯を取り出し、
「警察ですか? ××山の麓で真っ二つになった人の死体があります。早く来てください」
それだけ言い、男は携帯を閉じて、嗤った。
そして男はまたも刀を上空に持ち上げ、
「転移」
今度は男の姿だけが消えた。
現代、路哉祐志の視点
く、くそ……またか。
一体何だって言うんだ、この事件?
俺は今までかき集められた資料を両手に持ちながら凝視していた。
ちっ、やっぱ夕方近くだとこの部屋は暗くなるな。
「先輩、目が恐いです」
「あ……?」
「こ、こわっ」
俺の横では後輩の信弥がコーヒーを手に怯えていたが、俺の目は睨んではいない……はずだ。
「そうか?」
「はい、っというより先輩最近寝てないですよ? それに目が充血しててより一層普段よりインパクトが」
「気のせいだ」
「そ、そうですか?」
「そうだ」
「はぁ。それにしてもここは暗いですね」
「ああ」
「提灯鮟鱇みたいに頭に電気点いたら良いですよね」
「お前、頭大丈夫か?」
「え? ちょっと先輩、そんな冷ややかな目で見なくたって」
こいつは一回精密検査受けたほうが良いな。
俺がそんなことを思っていると、すべての資料である共通点に気がついた。
「これだっ………!!」
「えっ?」
「行くぞっ、信弥!」
「はい??」
俺は信弥を無理矢理引き連れて捜査課の部屋からでて銃器類保管庫へと向かった。
そして時はまた室町
「これで七人目」
男は狂喜じみた笑いを浮かべながら己の刀を上に掲げながら
「転移―――」
そして男は先程池に切り落とした男の死体と一緒に現代へと跳躍した。
そして男は顔を歪めながら嗤おうとしたが止まった。
「な、に?」
そう男の目の前では茶色のロングコートを着た男が不適な微笑いを作り立っていた。
「ほう、よくぞ気が付いたな。我が宝刀の特質に」
すると男の前方にいた男、路哉祐志が答えた。
「ああ、俺も半信半疑だったぜ。でもな、この国の政体が変わるほどの殺人に加えその血族の消失。すべてが室町時代からの物。まあ、幼稚園児でも解るようなことだな」
「なに?」
男は自分の策略が幼稚だといわれたことに腹立たしい憤りを覚えていた。
「でもお前の狂犯もここまでだってことだ」
祐志は拳銃を持ち上げながら男に銃口を定めた。
「ほう、我に銃で立ち向かうか。だが勝てるかな?」
「へっ、教えてやるぜ。今の世の中、銃の方が刀より上なんだよ」
「では、参る!!」
男は舐めるように地面を駆け祐志に向かって刀を一振りした。
「ちっ!!」
祐志は男の尋常ならない動きに最初驚いた為、銃を撃つことができず男の一振りを祐志は拳銃一丁で受け止めていた。
現代では聞くことの無い鉄と鋼のぶつかった音が重なった。
しかし、鋼のほうが強度が高いのか祐志の拳銃は両断された。
「くそっ!」
祐志はそのまま男が横に一閃した一撃を下にかがんで避けた。
祐志はそのまま新たな拳銃を取り出してトリガーを引いた。
乾いた銃声が轟き男の横腹を抉った。
「ほう、やるな」
しかし男はその傷に動じることもせずに目下の祐志を狂った目で見ていた。
「お前、異常者以外にもドMじゃねぇだろうな?」
「ふん、現代の言葉は難しいな」
「お前、ホントはこっち側の人間だろ? まったくお前達みたいな奴らをはぐれ者っていうんだよ」
「ほう、ま、そうだがな。だが心は室町だ」
「そうか」
祐志は手にした拳銃の弾を全部撃ち出し、男はそのすべてを刀で弾いていた。
祐志は弾の切れた拳銃を男に投げつけて今度はロングコートの中から小刀を取り出してそれも投げた。
しかし男はいとも簡単にそれをも弾いた。
「これだけか?」
「ちっ」
祐志はいかにも苦やしいといった表情を浮かべ息を荒げているかのように見えたがそのすべては演技であり、男はそんなこととも知らず自ら祐志に向かって歩を向けた。
男は祐志の目の前で立ち止まり嗤いながら刀を振り上げた。
「死ね、お前が八人目になる」
「いや、お前が初めで最後の八人目だ」
祐志は地面に座したまま男を見上げていた。
祐志はロングコートからまた小刀を取り出して目前の男を刺した。
「ふん」
しかし男はそれをも見越して刀で祐志の小刀を弾き飛ばして祐志を肩から刀を斬った。
しかし、男の一刀は祐志の肩に食い込んで止まった。
「ぐふっ」
そう言葉を漏らしたのは男であった。
男は驚愕した顔で己の腹部まで視線を下ろし、そこからは一本の小刀が生えていた。
そう、祐志の拳には小刀が握られ、男の腹に深く抉りこんでいた。
「へっ、こういうのを肉を切らして骨を断つっていうんだよ」
祐志はそのまましかし血を大量に流しながら倒れこんだ。
「先輩!」
祐志の傍には後輩の信弥が駆けつけてきた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「へ、お前な、自分が大丈夫じゃない状況だと思ったらそりゃ大丈夫じゃ、ねぇんだよ」
そのまま祐志は昏睡してしまった。
そして祐志が目覚め、回復する頃までに事件は片付き、上のほうでは適当に執着心の高い連続殺人犯として世間に公告された。
犯人の男が所持していた日本刀はある某美術館で保管されることになり、男の思惑通りになったのか日本の政体は著しく一変したことのみだった。
余談ではあるが祐志は昇格した。しかし祐志は現場にいることを選び、それに益々惚れた信弥も昇格した位を戻し祐志の下に就くことにしたのであった。