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お茶会に初参加(過去)



 


 私が同年代の貴族の子女と交流を図る機会を設けるために、父が用意した場はなんと王宮だった。

 

 ちょうど王太子殿下が私と同じ年の頃らしく、歳の近い貴族の子ども達が定期的に王宮へ集められお茶会が開かれているという。それなりの爵位を持つ我が家も実は何度もお誘いの手紙が届いていたようなのだが、父は今まではまるっと無視していたらしい。

 そんなわけで、ちょうどいいイベントがあるぞと父はこの王宮のお茶会に私を参加させることに決めたのだ。

 


 初めて参加する王宮のお茶会というものは、一言でいうと奇々怪々。としか言いようがない場所だった。

 図らずも、満を持しての初参加となってしまった私は色んな意味で注目の的となってしまったのだが、そのため皆がヒソヒソヒソヒソとこちらを見ながら何かを話しているのに話しかけるとスササッと逃げられてしまうという不思議な現象に見舞われていた。


 まだ一言も会話していないのだからひととなりなどまだ判明していないはずなのに、顔を見ただけで避けられるとはコレ如何に。虫や動物とばかり過ごしていたから私の容姿もおかしくなっているのだろうか。そういえば最近鏡を見ていないので自分がどういう顔をしているか思い出せない。ちらっと近くに居る女子の集団に目線を投げると、こちらをガン見していた集団がマスゲームのようにズザッ!と後ろを向いた。統率力すごい。


 人間と適切な交流を図るという目的で来ているのに一言も喋ることが出来ず、私はかなり早い段階で交流を諦めた。用意された椅子に座りお茶をすすりながら色とりどりの菓子を摘まんで時間を潰す事に決めた。


 幸いこの日は天気が良いため、美しい庭を眺めながらのガーデンパーディーだ。手入れの行き届いた季節の花々と美しい木々の緑を愛でていれば時間が過ぎるのを忘れてしまう。少し暑くなってくる時期だから虫たちも甘い匂いにつられてだんだん姿を現してきている。それを眺めているだけでも楽しい。私はいつも通り自分だけの世界を過ごしていた。




 そよ風が奏でる心地良い葉擦れの音に耳を澄ませ、風が運んできた森の少し湿った匂いを嗅いでいると心が弾む。この森にはどんな生き物がいるのだろう。王宮の管轄地だから番犬もいるし野生動物はあまりいなそうだけど、鳥や昆虫はたくさん生息してそうだ。ああ、こっそりこの場を抜け出して森をひと廻りできないものか……。



 そんな事をぼんやりと考えていると、一匹の大きくて肉厚な白い蛾がふよふよと森のほうから飛来してくるのが目に入った。

 毛がふかふかでちょっとしたネズミくらいの大きさのそれは、パタッと音を立ててお菓子が並べられているテーブルに着地した。


 おお、可愛い。図鑑でしか見た事が無い初めて生で見る個体だ。


 ちょっとよく観察させてもらおうと私が椅子から立ち上がったその時、同じタイミングでそれに気が付いた女の子が音波のような叫び声をあげた。


「きぃやいやあ―――――――!!! むしィ―――――!!!」


 その叫び声でその場にいた子ども達が一気に大混乱に陥った。

 

「なにあれ! 何あの虫!」

「いやあああ気持ち悪い!」

「やだあ押さないで!」


 ただの蛾なのに、一人が叫んだことでパニックが伝播して収拾がつかなくなってしまった。何が起きたかわからないけれど叫び声が聞こえ恐怖の表情で駆けだす子を見て訳も分からず泣き出す子や、押されて転んだ子にまた躓いて転ぶ子が出て子ども達は大混乱に陥った。周りに居た大人達はな何が起きたのか分からずオロオロとしていた。

 

 毒もないただの蛾なのだからなんの危険も無いというのに、みな我先に逃げ出そうとするので、このままでは誰かしらケガをしてしまうと思った私は、大声で叫んだ。


「―――静かにッ!!!」


 思ったより大きい声が出せて自分でもびっくりした。

 私の大声に驚いた子どもたちがビクッと驚いたように動きを止め静かになった。


 私はスタスタと蛾の元へ向かい、ひょいっと両手で蛾を捕まえた。『ひいっ!』とまた叫び声があがるのでさっさとその場を走って離れて、木々が多い場所を目指す。


 庭の奥へ進むと林のような人の手があまり入っていない場所を見つけたのでそこでポイと蛾を放した。放りあげられた蛾はふよふよと森の奥へ飛んでやがて見えなくなってしまった。


 真っ白でフカフカして可愛い蛾だったな……もっと観察したかったなあと思いながら戻ろうとすると、後ろに騎士がひとり私についてきていた事にようやく気が付いた。

 そういえばここは王の住まう王宮内だった。招待された場所以外へ勝手に入り込んでしまったので、見張りのため騎士がついてきたのだろう。私はすぐに頭を下げ騎士に謝罪する。


「勝手にお茶会の席を離れて招かれていない場所へ入り込み申し訳ありません。もう戻りますので」


「いえ、とんでもない。あの場を収めて頂いて助かりました。お嬢様は、虫が苦手ではないのですか? 素手で掴んでいらしたので驚きました」


「はあ、まあ別に毒もないですし」


 私の受け答えが面白かったようで騎士は『ふはっ』と噴き出した。鳶色の強そうな瞳が笑った形になるのを見て、なんとなく私も笑ってしまった。


 騎士に連れられお茶会の場所に戻ると、みんなが逃げ出すなか、なんと王太子殿下が私を出迎えてくれた。


「君が皆を落ち着かせてくれなかったら怪我人が出ていたかもしれない。大人達もとっさに行動できなかったというのに君はひとり落ち着いて正しい行動をしてくれた。本当にありがとう。君は今日初めて参加した子だね?」


「はい、カレン家が娘、ヴィヴィアナと申します。王太子殿下にお声掛け頂けて光栄の至りでございます。差し出がましい真似を致しまして申し訳ありません」


「僕の事はミカエルと呼んで。なんの躊躇いもなく蛾を掴むなんて普通の女の子には出来ないよ。蛾を持って歩いて行く君を見送るみんなの顔を見たかい? 全員ぽかんと揃って口を開けていて間抜け……見たことの無い顔をしていたよ。君は面白いねえ。他の子みたいに群れないしおしゃべりもしないし、変わっているね」


「恐れ多くもミカエル殿下のお名前を呼ぶ栄誉を賜りまして恐悦至極に存じます。私としましてはどなたかと交流を図ろうと努力していたつもりだったのですが、失敗に終わりました。人と関わらなさすぎて変わり者に成り果てた私の行く末を心配した父に、人間関係を学んで来いと言われお茶会に参加する事になったのですが、もう手遅れだったみたいですね。変わり者のオーラが出てしまっているのでしょうか? 誰も私とお話をしていただけませんでした」


 私がそういうとミカエル殿下はゲラゲラとお腹を抱えて笑っていた。殿下のそばに立つ先ほどの騎士も横を向いて笑いを堪えている。何故。




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