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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第4章 聖人シモンと竜王国の謎
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第4章 19話 竜殺しとの手合わせ

 僕たちは順調に竜の巣の最深部へと近づいていた。

 蜥蜴人(リザードマン)との散発的な戦いはあったけど、ジークさんによって全てあっさりと倒された。

 そのジークさんは「おかしい……なぜ竜が現れないんだ?」と時々首を傾げていたけど、とりあえずスルー。


 結局、僕たちはこれといって苦労するようなこともなく、古竜の棲み処にほど近い場所まで辿り着くことができた。



「もうすぐ古竜の棲み処です。ここから先には僕ひとりで行きます」



 僕の申し出に、ジークさんは怪訝そうな表情を浮かべる。



「君を古竜のもとに送り届けるのが俺たちの任務だ。その責任を放棄しろと?」


「これ以上進むと、古竜が暴れた時に巻き添えを喰らいますから」


「エルム王国の守護竜が、なぜ暴れだすんだ?」


「それは……」



 そう言われると返す言葉が無い。



「ジークよ、ワシはここに残るぞ」


「おい爺さん、本気で言ってるのか?」


「本気じゃとも。そもそも、シモンにワシらの護衛なんぞ必要ないわい。恐らく、ワシとお主の二人がかりでも、シモンには指一本触れられまい」


「なんだと!?」



 いきなり何を言い出すんだこの爺さんは!

 ジークさんがおっかない顔でこっちを睨んでるんですけど!?



「爺さん、彼は銀級冒険者だったよな?」


「階級など実力を測る物差しにはならん。疑うなら軽く手合わせをしてみたらどうじゃ?」


「ちょっと師匠、何を勝手に話を進めてるんですか!?」


「なんじゃ、事実じゃろうが」


「面白い、是非とも手合わせ願おうか」



 ジークさんは獰猛そうな笑みを浮かべ、指をボキボキと鳴らしながらにじり寄ってくる。

 ドウシテコウナッタ?



「よし、ではシモンに指一本でも触れることが出来たらジークの勝ち、ジークに尻餅をつかせたらシモンの勝ちじゃ」


「ルールが不条理すぎません!?」


「ジークよ、お主が勝ったらシモンについて行くがよい。じゃが、負けたらワシと一緒にここで居残りじゃぞ」


「随分と舐められたものだな……覚悟はいいか」


「僕はなにも言ってませんよね!?って、話聞いてます!?」



 ジークさんはいきなり有無を言わさず飛びかかってきて、僕の身体に腕を伸ばしてくる。

 僕はその手を紙一重で躱すと、そのままバックステップで距離をとった。



「ほう、見事な身体強化だ。言うだけのことはある」


「だから、僕は何も言ってないんですけど!?」



 そこからジークさんの連続攻撃が始まった。

 高度な身体強化とハイレベルな体術が組み合わさった一連の攻撃はまさに芸術品。拳撃、肘撃ち、蹴り、足払いといった多彩な攻撃があらゆる角度から間断なく襲ってくる。普通の人間だったらただの一撃すら躱せずに、一瞬で殴り倒されていたことだろう。

 というか、おかしくない?触るだけで勝ちなのに、思い切り殴ろうとしてるよこの人!?



「ちいっ、よく躱すな。だが、そのレベルの身体強化をいつまで続けられるかな!」



 いや、まだ身体強化は使ってないんだけど……。


 グウェンの聖痕から戻ってきた聖なる力と〝星の銀貨〟によるステータス補正によって、今の僕のステータスは並みの人間の70万倍にもなろうかというレベルに達している。ジークさんの冒険者としての実力は大陸全体でも最上位だけど、それはあくまで()()()()()という枠の中での話。このステータスの差を覆すには至らない。

 い、いや!もちろん僕も普通の人間だけどね!なんというかその……特別枠?


 それからもジークさんが一方的に攻め続け、僕がそれを悉く躱すという展開が延々と続いた。



「くそっ、ちょこまかと!」


「だーから無理だと言ったじゃろうが。ほれシモンよ、お主も避けてばかりおらんで反撃せんか。こんなくだらん勝負など、さっさと終わらせてしまえ」


「言い出しっぺは師匠でしょうが!」



 駄目だ、ジークさんは完全にムキになってるし師匠にも話が通じない。このままじゃ埒が明かないぞ。



「ジークさん、ごめんなさい」


「!?」



 僕はほんの少しだけ力を入れて前に踏み込み、ジークさんの攻撃の隙間を縫うようにして瞬時に懐へと入り込んだ。そして、ジークさんが驚きに表情を変えるよりも早く、その両肩をチョンと押す。すると、彼はあっけなくバランスを崩して後ろに尻餅をついた。



「…………え?」



 ジークさんは何が起こったのか分からないといった態で、尻餅をついたままの姿勢で茫然としている。



「シモンよ、お主また強くなったのではないか?どんどん人間離れしていくのう」


「失礼な!僕は歴とした人間ですよ!……多分」


「身体強化もせずにジークを圧倒するなど、とうに人間の域を超えておろうが」


「なんだと!?君は身体強化を使っていなかったのか!?」



 師匠、余計なことを……。



「あの動きを生身で……まさに化け物だな」


「言い方ァ!」



 まったく、なんて失礼な人達だ。寄ってたかって他人様を人外だの化け物だのと。


 憤慨する僕をよそに、ジークさんはさっさと立ち上がって服についた埃を払っている。手合わせはもう終わりってことでいいのかな?



「君はどうやってそのような力を身に着けたんだ?」


「え?そ、それは……」


「シモンは神の祝福を受けておるからのう」


「ちょ、ちょっと、師匠!?」


「神の祝福?一体何の話だ?」



 師匠の余計な一言のせいで、僕はジークさんに秘密を明かすことになってしまった。

 人を助けたことで聖人になってしまったこと。神様から頂いた祝福によって、癒しの力と規格外のステータスを得たこと。

 ジークさんは僕の話を興味深げに聞いていた。



「──成程な。それが事実なら、今の君の能力は常人の数十万倍にも及ぶことになる。俺が子ども扱いされるのも無理はない」


「すみません」


「謝ることはないさ。しかし、俺も長い冒険者生活の中で結構な人数を助けてきた筈なんだがな。君が聖人になるまでの間、一体何人の命を救ってきたんだ?」



 言われてみると、具体的に何人の人を助ければ聖人になれるんだろうか。

 考えてみたら、僕が聖人について知ってることって殆どないな。一定量の人助けをした人だけが聖人になれること。聖人には神様から祝福が与えられること。僕が知ってるのはこの二つだけだ。

 過去にはどんな聖人がいたんだろう。彼らにはどのような祝福が与えられていたんだろう。ステラにちゃんと聞いておけばよかった。



「まあいい。とにかく、君に護衛など不要だってのは良く分かった」


「じゃあ──」


「ああ、ここで大人しく爺さんの話し相手でもしてるさ」



 そう言うと、ジークさんはその場にどっかりと腰を下ろした。

 よかった、これで少なくとも二人を巻き添えにせずに済む。



「しかし、それだけの力が君にあるなら、古竜に触れるくらい朝飯前だろう」


「いえ、残念ながら向こうのほうが遥かに格上です」


「なんと……それ程の相手か」


「なんでも、この世で最も神に近い存在だそうですよ」



 それを聞いたジークさんは、腕組みをして黙り込んでしまった。



「師匠、頼みがあるんですが」


「分かっておる。お主が戻らなかったら、ジークと二人で脱出しろと言うんじゃろ」


「仰る通りです」


「承知した。そのような事にならんよう祈っておるぞ」



 そして僕は二人と別れ、竜の巣の最深部へと再び歩き出す。

 古竜との二度目の遭遇はもうすぐだ。

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