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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第4章 聖人シモンと竜王国の謎
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第4章 17話 護衛

国王陛下に謁見してからというもの、僕は王都で足止めを食らっていた。



─────────────────────



「シモンよ、一体どうやって古竜にかけられた呪いを解くのだ?」


「古竜に触りさえすれば、僕の力で呪いを解けます。善は急げと言いますし、明朝すぐに王都を発とうかと」


「なんと、明朝いきなりだと?まさかお主、単身であの竜の巣に向かうつもりか!?」


「はい。前回もほぼ一人でしたし、特に問題はありません」


「駄目だ!国王として、お主一人にそのような危険な真似はさせられん」


「しかし、それでは──」



 反論しかけた僕の言葉にかぶせるようにして、陛下はさらに言葉を継いだ。



「勘違いするでない。行くなとは言っておらん。ただ、万全の体勢を整えてから向かえと言っておるのだ。お主の供として信頼できる冒険者を早急に手配する故、彼らの準備が整うまでは出立は見合わせよ。よいか、くれぐれも一人で行ってはならぬぞ。万一事成らずしてお主を失うようなことになれば、我が国は滅ぶしかないのだからな」



─────────────────────



 そんなやり取りがあった末、冒険者が僕の護衛につくことを承諾させられてしまった。

 僕がすぐに竜の巣に向かわずに王都で時間を潰していたのも、この護衛の冒険者達が王都に集結するのを待っていたからだ。冒険者ギルドから「冒険者が集まった」との報せが来たのは、謁見から半月ほどが経った今朝早くのことだった。


 正直に言えば、竜の巣には僕一人で行きたかった。竜の巣には凶暴な蜥蜴人(リザードマン)の大群や下位種の竜といった強力な魔物達が待ち受けている。護衛どころか、僕のほうがその人達を守りながら戦わなければならなくなる可能性が高い。



 冒険者ギルドの入り口を潜ると、中は大勢の冒険者で賑わっていた。僕は彼らの間を縫うようにして受付のカウンターに向かう。すると、カウンターに並んだ受付嬢の中に見知った顔を見つけた。



「ノーラさん、お久しぶりです」


「あっ、シモン様じゃないですか!」


「覚えていてくれたんですね」


「当たり前ですよ!シモン様の噂は王都にもよく伝わってきてますから。人攫いの組織を潰して、銀級冒険者になられたんですよね?」


「ええ、まあ……」


「おめでとうございます!トマ村の吸血鬼騒動を解決された時から只者ではないと思っていましたが、私の見込みに間違いはありませんでしたね!」



 目をキラキラと輝かせてまくし立てるノーラさんの話に、聞き耳を立てていたギルド内の冒険者達がざわめき出す。



(おい、聞いたか?ひょっとして、あれが例の?)

(デビュー間もなく銀級冒険者まで一気に駆け上がったという──)

(そうか、あれが噂の〝出鱈目〟シモンか)


「全部聞こえてるよ!?」



 その〝出鱈目〟とかいう二つ名はいい加減やめてくれない!?いつの間に王都のギルドにまで広まってたのさ!?


 僕の突っ込みで冒険者達が静まり返った丁度その時、奥から壮年の男性が現れた。黒髪と白髪が混じり合った髪に整った口髭。ここのギルドマスターであるバレンタインさんだ。



「何の騒ぎですか?……おや、シモンさん。早速のお出ましですね」


「バレンタインさん、ご無沙汰してます」


「さっそく護衛の冒険者を紹介します。奥へお通り願えますか」


「分かりました」



 僕はバレンタインさんに連れられて奥のギルドマスターの執務室へと通される。以前来たときと変わらない、大臣の執務室とでもいいたくなる厳かで落ち着いた雰囲気の部屋だ。


 部屋のソファには先客が二人いた。使い込まれた革鎧に身を包んだ戦士風の男が一人。そしてその横にいるもう一人の人物は、僕がよく見知った顔だった。暗灰色のローブに身を包んだ初老の魔術師、僕の魔法の師匠である〝大賢者〟バルタザールその人だ。



「師匠じゃないですか!まさか師匠が僕の護衛を!?」


「うむ。なにせ護衛対象が銀級冒険者のお主じゃからな。金級のワシら以外に適任はおるまい」


「え……金級のワシ()って……?」



 その言い方だと、師匠の隣にいる人も金級冒険者ってことになる。

 でも、金級冒険者はこの大陸に二人だけしかいない筈だ。一人は〝大賢者〟バルタザール。そしてもう一人は──


 呆気にとられて固まっている僕に、バレンタインさんが声をかけてくる。



「シモンさん、紹介しましょう。こちらは金級冒険者の〝竜殺し〟ジークフリード様です」


「えええええええええ!??」



 〝竜殺し〟と呼ばれた男は音も立てずにソファから立ち上がると、僕に握手を求めてきた。



「ジークフリードだ。道中よろしく頼む」


「は、はい!こちらこそ!」



 差し出された手を僕が慌てて握り返すと、ジークフリードさんはにやりと笑みを浮かべた。



「君が噂の〝出鱈目〟冒険者か。随分と若いんだな」



 ジークフリードさんは40歳を少し越えたくらいだろうか。燃えるような赤い髪に透き通った青い瞳が印象的な、戦士らしい精悍な顔立ちをした人だった。身体はさほど巨大という訳でもないが、身のこなしからは鋼を幾重にも撚り合わせたような強靭さが感じられる。



「ところで、目的地は竜の巣だと聞いているが、そんな所に一体何をしに行くんだ?」


「余計な詮索は無用じゃ。ワシらはシモンを守護竜のもとに届けるだけで良い」


「ふむ……何か隠してるな、爺さん」


「ジークよ。本来、竜の巣はエルム王家に縁のある者しか立ち入れぬ神聖な領域じゃ。くれぐれも任務から離れた行動をするでないぞ」


「分かっているさ。俺とてエルム王家を敵に回す気はない」



 ジークフリードさんは大げさに両手を挙げて降参のポーズをとってみせる。



「お二人は知り合いなんですか?」


「ああ、爺さんとは古い馴染みだ。以前はパーティを組んでいたこともある」


「ええっ、金級のお二人がパーティを!?」



 この二人が組んでただなんて!それこそ大陸最強のパーティじゃないか!



「いやいや、まだワシらが駆け出しだった頃の話じゃよ」


「でも、どうしてパーティを解消しちゃったんですか?」


「爺さんが妙な研究に没頭しだしたせいで、冒険者稼業が滞ってな」


「ああ、なるほど……」



 間違いなく空間魔法の研究だな。

 転移魔法を完成させた今は随分とおとなしくなったけど、出会った当初の師匠はマッドサイエンティストっぽかったもんな。



「金級冒険者お二人が護衛なら僕も心強いです。早速出発しましょう」


「デナリ山まではギルドの馬車を使われますか?」


「ありがとうございます。でも、その必要はありません」



 バレンタインさんの申し出を断った僕は転移門(ポータル)を開いた。



「なっ……!?」


「……おい、なんだこれは?」


「あ、バレンタインさんとジークフリードさんは初見でしたっけ。これは転移門(ポータル)という魔法です」



 僕が作り出した転移門(ポータル)の向こう側には、竜の巣の入り口が黒々と口を開けている。

 古竜がいる部屋まで直接転移できればラクなんだけど、転移門(ポータル)を潜っている最中に例の〝空間固定〟とかいう技を喰らったら大変なことになりそうなので、転移先は竜の巣の入り口に止めておいた。



「……なるほどな。〝出鱈目〟という二つ名に、漸く合点がいったよ」


「いや、そこは合点がいかなくてもいいんですよ!?」

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