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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第4章 聖人シモンと竜王国の謎
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第4章 16話 竜王国の真実

 モルトの冒険者ギルドを飛び出してから1週間後、僕はエルム竜王国の王宮にある謁見の間にいた。


 そこにはオールストン伯爵とその夫人であるセルマ様、さらにグローヴ子爵と、僕の師匠である大賢者バルタザール様が顔を揃えており、一段高い王座には国王リチャードⅡ世陛下が腰を落ち着けている。転移門(ポータル)で各地を飛び回って皆さんをここに集めてきた僕が言うのもなんだけど、まさに錚々たる顔ぶれだ。


 国王陛下がゆっくりと口を開く。



「さてシモン、余の前に皆を集めた理由を聞こうか」


「はい。他でもない、守護竜ユリシーズのことで報告が御座います」


「ほう……」



 その名を聞いた途端、陛下の表情が引き締まった。



「実は、その話を一緒に聞いていただきたい人がいます。転移門(ポータル)でここにお連れしてもよろしいですか?」


「許そう」


「では、失礼します」



 僕はすぐに転移門(ポータル)を開いた。繋がった先には、正装に身を包んだオーレリア姫とロデリック様が控えている。


 ここに皆さんを集める前に、お二人には今日のことを予め伝えておいたんだけど、流石に高貴な血筋のお二人だけあって、こういう格好をすると見違えるなあ。


 その二人の姿をみて、グローヴ子爵が歓喜の声をあげた。



「おお、ロデリック!無事であったのか!しかし、姫様もご一緒とは一体……?」


「報告もせず申し訳ありません。お二人のことも後ほど説明いたしますので」



 僕の言葉を受け、グローヴ子爵はすぐに引き下がった。国王陛下の御前で騒ぎ立てるのは流石に憚られたのだろう。



「陛下からはお許しを頂いております。お二人ともこちらへおいでください」



 二人は恐る恐る転移門(ポータル)を潜り、クレマンの街の隠れ家から王宮の謁見の間へと一足にやってくる。

 すると、ロデリック様が突然床に平伏した。



「陛下、姫を無理やり連れ出したのはこの私です。如何様にもお裁きください」



 その言葉に驚いたのは隣のオーレリア姫だ。



「ロデリック、一体なにを言い出すのです!?貴方は私を助けようと──」


「いえ、私が抵抗する姫君を無理に連れ出したのです。罰を受けるのはどうか私一人に──」


「よいよい、二人とも少し黙りなさい」



 陛下が柔らかい口調で言葉をかけると、二人はそのまま押し黙った。



「ロデリックよ、お主の心は分かっておる。娘のことで世話をかけたな」


「陛下……」


「これは余の責任だ。守護竜ユリシーズとの問題を解決できないばかりに──」


「待つのじゃ、リチャード。守護竜との問題は王家の秘事であろう」



 古竜の名を出した陛下に、師匠がそう言って釘を刺す。

 すると、陛下は僕のほうに視線を向けてきた。



「バルタザール殿、今さら隠し立てもあるまい。彼は既に全てを知っているだろうからな」



 陛下だけでなく、その場にいる全員の視線が僕に集まってくる。



「はい、確かに存じております」


「やはり。して、どこまで知った?」


「古竜がこの国を守護しているという伝説がまやかしであること。代々の王家が古竜に贄を差し出していたこと。そして、既に贄となれる者がオーレリア姫しかいないということ」


「……流石だな」



 僕の言葉に陛下は納得したように頷くが、オールストン伯爵夫妻とグローヴ子爵は驚愕の表情を浮かべている。それもそうだろう。国の守護者として崇められている古竜ユリシーズが逆に王家から贄をとっていただなんて、容易に信じられるような話ではない。



「シモンよ、お主はどこでそれを知ったのじゃ?」


「グローヴ子爵の依頼を受けて探し当てたオーレリア姫から、凡そのところは伺いました」


「そうじゃったか……他に誰かこの事を知っているの者は?」


「一緒に話を聞いた仲間のグウェンだけです。他には一切漏らしていません」



 師匠は僕の返答に露骨に安堵した様子をみせる。〝古竜の守護を受ける国〟という看板が外れてしまったら、エルム竜王国は最大の抑止力を失うことになる。そうなったら、周辺国がいつ牙を剥いてくるか知れたものではない。



「して、お主の話はそれだけではないのじゃろう。お主が姫を連れ戻したということは、贄の問題に片がつく見込みが立ったという事じゃろうが」


「流石は師匠。〝大賢者〟と呼ばれてるだけありますね」


「それくらい誰でも分かるわい。のう、リチャードよ」


「うむ。古竜への贄は、我が国にとって喫緊の課題。是非とも話を聞かせてもらいたい」


「畏まりました。姫の話を伺った後、私とグウェンは古竜と離すためにデナリ山へ向かったのですが──」



 僕は古竜との間に起こったことを包み隠さず話した。贄を出さなければ古竜自身によって国が滅ぼされてしまうこと。王家の血が絶えようとも贄が免じられることはないこと。そして、古竜が()()を目の敵にしていること。



「聖人……というと、大神殿の教皇様に認められた人のことか?」


「いえ、そういった俗世の称号ではありません。善行を積み重ねることで到達する、魂の位階のことです」


「魂の位階……はて、さっぱり分からん」


「簡単にいえば〝神様の祝福を受けた善人〟が聖人です。その祝福により、聖人は普通の人間にはない異能を持っています」


()()()()()()()ね……それなら、私に一人心当たりがいるわ」



 セルマ様がまっすぐに僕を見つめてくる。この人はもう見抜いてるな。

 勿論、ここまで話した以上、僕の側にもこれ以上隠し立てをするつもりはなかった。



「……はい。セルマ様が想像された通り、僕は〝聖人〟です。僕がセルマ様の病を癒やしたのも、グローヴ子爵のご子息であるエルネスト様にかけられた呪いを解いたのも、そして悪魔との戦いに勝利することができたのも、全ては神様から授かった祝福の力によるものです」



 僕の告白を聞いた一同は静まり返った。

 ただ一人、もともと僕が聖人であることを知っていた師匠だけは、平然として僕の話を受け止めている。


 このことを明かすべきか、それとも隠し続けるか、悩みに悩んだんだけど、これを明かさずに古竜とのことを説明できるとは思えなかった。



「そういえば、さっき〝古竜が聖人を目の敵にしている〟と言っていたわね。まさか貴方、古竜を相手に戦ったの?」



 セルマ様の問いに僕は頷いた。



「はい。僕が聖人であることに気付いた古竜に襲われて、危うく殺されそうになりました」



 セルマ様だけでなく、この場にいる全員が息を呑んだ。この国に暮らす者にとって、古竜ユリシーズは神にも等しい力の象徴。それに襲いかかられるなど、想像だにできない事だろう。



「……しかし、これでますます謎が深まったのう」


「大賢者様、謎とは何のことですか?」


「オールストン伯よ、リチャードからこの秘事を明かされてからというもの、ワシにはずっと疑問に思っていることがあるのじゃ。古竜といえば神に最も近しいとされる偉大な存在。それが、なぜ人の生命を弄ぶような真似をする?」


「それは……言われてみれば、確かにその通りですな」


「聖人にしたところで人は人。古竜に敵対する存在というわけでもあるまい。それをわざわざ目の敵にするというのも、どうにも納得がいかんのじゃ」



 そこまで話したところで師匠は溜息をひとつつくと、僕の方に向き直る。



「シモンよ、お主はその謎の答えを得ているんじゃろう?そうでもなければ、これほど大勢の人間をリチャードの前に集める必要もなかろうからな」


「──はい。そして、その答えは王家の問題を取り除くことにも繋がります」



 僕がそう言うと、皆が身を乗り出してくる。



「師匠の言う通り、あの古竜は贄など必要としていません。王家に贄を出すよう迫り、それを怠れば国を滅ぼすと脅しているのは、()()()()()()()()()()()なんです」



「なんと……つまり、奴の目的は聖人を抹殺することか!?」


「はい。でも、それは古竜の意思じゃありません。古竜を操っている存在がいるんです」



 僕はあの古竜と対峙したときの会話を思い出す。


─────────────────────


「待ってくれ!僕に貴方と戦うつもりはない!」


《貴様の意思も我の意思も関係ない》


─────────────────────


 そう。あの時の古竜は、僕の意思だけはなく、自身の意思すら関係ないと言っていた。つまり、僕を聖人と知って襲いかかってきたのは、あの古竜の意思じゃない。そこには別の意思が働いていた筈だ。



「古竜の意思ではない……?しかし、古竜に何かを命じられる者など、この世にはおるまい」


「陛下の仰る通りです。古竜が人間に従うなど、普通は考えられません。少なくとも、()()()()()()()()()



 そこまで僕が話したところで、急に師匠が叫ぶような声をあげた。



「そうか、そういうことじゃったのか!確かに、今の時代の人間には思いもつかない話じゃ。しかし古代なら……古代レムリア王国の魔術師どもであれば、古竜を従えることすら出来たやもしれん!」


「……そうか!古代レムリア王国の〝儀式魔法〟か!」



 古代レムリア王国が魔法王国として栄えるに至ったのは、魔術師たちの個々の力の力もあるが、それ以上に大きかったのが〝儀式魔法〟の創出だ。複数の魔術師が協力して術式を形成するという特殊な魔法技術であり、これによってそれまで成し得なかった大魔法を次々と実現させたレムリア王国は、繁栄の極みに達したという。しかし、レムリア王国の消滅とともに、儀式魔法の秘儀もまた失われることになる。



「師匠と陛下の推測通りです。恐らく、あの古竜は古代レムリア王国時代の魔術師達によって呪いを受け、彼らのために働かされているんです。魔法を使えない人々を苦しめ、義憤に駆られた聖人を炙り出して抹殺するための道具として」



 要するに、あの古竜は古代レムリア王国の魔術師達が残していった()()なんだ。ただ、唯一違うのは狩りの対象が獣ではなく聖人──つまり、今の僕と同じような存在ってことだ。僕もそうだったけど、聖人というのは他人を助け続けることで行き着く存在。そんなお人好しが、国中の人間に害を及ぼし続ける古竜の存在を知れば、黙っていられるわけがない。


 恐らく、あの古竜のもとを訪ねた聖人は僕だけじゃなかった筈だ。過去に幾人もの聖人が国と王家の危難を救うべく古竜との対話に臨み、あえなく命を散らしていったに違いない。



「しかし、古代レムリア王国の魔術師がそうまでして聖人を排斥しようとしたのは何故なんだ?」


「それは僕にもわかりません。でも、推測できる材料はあります」



 国王陛下の疑問に答える形で、僕はこれまでの冒険の話を始める。


 図らずも、僕はこれまで幾度か古代レムリア王国の残党と関わってきた。

 一人はトマ村に悲劇をもたらした吸血鬼ファウスト・モンタネリ伯爵。

 一人は人身売買組織ディアボロを率いていた悪魔ダンテ・サンタンジェロ子爵。

 この二人は恐らく古代レムリア王国の貴族だったに違いない。


 彼ら二人に共通していたのは、平民を徹底的に蔑視しているという点。

 そして、そのダンテは僕との戦いの中で聞き捨てならない言葉を放っていた。



─────────────────────


『数百年に一度現れ、我らの王国を幾度となく危殆に陥れてきた忌まわしき存在、それが聖人だ』


─────────────────────



 これは僕の推測だけど、古代レムリア王国では魔術師達が絶対的な支配階級にあり、平民達は極度に虐げられた暮らしを強いられていたのではないだろうか。


 そんな酷い世の中に聖人が誕生すればどうなる?


 その答えは火を見るより明らかだ。聖人になるほどの善人であれば、きっと苦しむ平民の側について王国に立ち向かったことだろう。超人的なステータスと祝福の力をもった聖人は、古代の優秀な魔術師たちにとっても恐るべき驚異だった筈だ。



「──なるほど。選民思想に染まった古代レムリア王国にとって、聖人は憎むべき敵だったわけだな」


「悪魔であるダンテが古代王国の末裔を名乗るのも妙な話じゃが、筋は通っておるのう」


「はい。そして、王国の魔術師達が聖人を排除するために作り上げた仕掛け──その中心にいるのが古竜ユリシーズだったのではないかと」


「そして我々は古竜の前に聖人を釣り出すための囮というわけか」



 国王陛下はそう言って深い溜め息をついた。この話が本当であれば、代々語り継がれてきた建国伝説は虚構に過ぎなかったということになる。

 いや、全てが虚構というわけではないのだろう。建国王エルムⅠ世が古竜の討伐に出向いたのは恐らく事実。しかし、王国の魔術師によって使役されている古竜に会ったことで自らもその仕掛けに絡め取られてしまい、己の子孫から贄を差し出し続けるという憂き目に遭った──恐らく、そういうことなのだろう。


 今のところ、状況証拠から辿り着いた推測でしかない。でも、もしこれが本当にエルム竜王国の真実を言い当てていたとしたら、こんな救いのない話もないだろう。古竜は自らの意思に反した殺戮を強いられ、エルム竜王国の王家と民は不幸を背負わされ、それを救わんとした聖人は尽く死に絶える。そして極めつけは、それらの状況を生み出した古代レムリア王国はとうの昔に消滅してしまっているという事実だ。



「シモンよ、礼を言うぞ。余はこんな馬鹿馬鹿しい事のために、危うく大事な娘を差し出すところだった」


「陛下……!」



 僕にそう言って頭を下げた国王の姿に、ロデリック様は感極まったように涙を流すと、より深く平伏した。事ここに至り、国王陛下はオーレリア姫を贄に差し出すことを明確に拒否したのだ。それはそのままロデリックの望みであった。


 しかし、その横にいるオーレリア姫の表情は晴れない。



「しかし父上、私が贄にならなければ、古竜に国を滅ぼされてしまうという事実は変わりません」


「いえ、その必要はありません」


「シモン様……もしや、何か策がお在りですの?」


「あの古竜の行動は、古代王国の魔術師によってかけられた呪いによるもの。ならば、その呪いを解いてやればよいのです」



 そう、古竜と戦ったら万に一つも僕に勝ち目はない。

 でも、呪いを解くだけであれば話は別だ。



「さっき皆さんにも話しましたよね。聖人となった僕に与えられた祝福は、あらゆる病や()()を打ち破る癒やしの力なんですよ」

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