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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第1章 聖人シモンと魔界の脅威
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第1章 08話 討伐の報酬

「ですから、本当に新人なんですってば!冒険者ギルドに登録したのもつい一昨日のことですし!薬草採取の依頼をひとつこなした以外には何の経験も無かったんです!」



 町への帰り道で、僕は必死に弁解していた。自ら志願して〝幸運の星(ラッキースター)〟に弟子入りしておきながら、その初日にゴブリンキングを単独討伐してしまったことで、色々と誤解が生じてしまったのだ。



「お前が新人だあ?ゴブリンキングを単独討伐する新人なんて聞いたことねえぞ」


「新人のフリしてあたいらをコケにするつもりだったんじゃないの?」


「二人とも落ち着け。どちらにせよ、ギルドで確認すれば分かることだ」



 どうにかデレクさんが宥めてくれたが、皆さんからの疑いの眼差しが痛い!いや、僕は正真正銘の新人ですってば!ただ、ちょっとだけステータスが高いだけなんです!


 とにかく、町に戻りさえすればギルドマスターのアーロンさんが僕の潔白を証明してくれるはず。僕は居心地の悪さに耐えながら、〝幸運の星(ラッキースター)〟の皆さんの後ろをとぼとぼと歩いていく。



「シモン君の経歴については置いておくとして、今のうちに報酬や素材の分配について決めておきたい」


「僕は弟子の立場ですし、分配の相場も分かりません。デレクさんの判断にお任せします」


「分かった。パーティで討伐した魔物については、報酬も素材も山分けするのが相場だ。最初に戦ったゴブリン5匹については、観戦していたシモン君を除く4人で等分に分配しようと思う」


「はい、それで構いません」


「しかし、その後で戦ったゴブリンキングを含む8匹についてはシモン君の単独討伐扱いだ。その報酬は君の総取りになる」


「えっ、それは駄目ですよ!」



 確かに僕ひとりで全滅させた形にはなったけど、そのために必要な技術は〝幸運の星(ラッキースター)〟の皆さんから教わったものだ。僕にはその成果を独り占めにするような真似はできないよ。



「我々はあの戦いで何もしていない。それで報酬だけ受け取るってのは筋が違うだろう」


「いえいえ、僕の剣はデレクさんの真似をしてるだけですし、槍使いのゴブリンを完封できたのも事前にエディさんの動きを見ていたからです。マルコムさんに教わった魔法も役に立ちました」


「……あたいは?」


「ジェニーさんの指導は……えーと、今回の戦いでは特に……」



 あ、ジェニーさんがやさぐれた。



「と、とにかく、皆さんの指導があってこその勝利だった訳ですから、討伐報酬は山分けということでお願いします」


「……分かった。ゴブリンキングの討伐報酬が入れば我々も助かる。ここは甘えさせてもらおう」



 よかった。どうにかデレクさんが納得してくれた。今回は皆さんの指導のお陰でやたら沢山の技能を習得しちゃってるから、その皆さんにもきちんと利益を分配しないとね。



「ただ、ゴブリンキングの素材だけはシモン君に取ってもらう。ここは譲れない」


「えっ、ゴブリンから素材なんて取れるんですか?」


「普通のゴブリンからは取れないが、ゴブリンキングのような強力な魔物は体内に〝魔石〟というものを持っているんだ」


「〝魔石〟……?」



 デレクさんは腰に下げた皮袋から直径3~4センチ程度の緑色に輝く石を取り出した。



「これが魔石だ。さっきのゴブリンキングから採取したものだよ。ほら、後でギルドに買い取ってもらうといい」



 僕はデレクさんから魔石を受け取る。へー、こんなの初めて見たな。


 なんでも、強い魔物の体内に溜め込まれた大量の魔素が、時間の経過とともに結晶化したものを魔石というそうだ。付与魔術師が魔道具を作る際の必需品であり、流通量の少なさも相まって良い値段が付くとのこと。そんな貴重そうなものを僕が受け取っちゃっていいのかな?



 町に辿り着いた時には、既に日が暮れかかっていた。僕たちは町の門をくぐると真っすぐギルドに向かう。今日もギルドのカウンターには強面ギルドマスターのアーロンさんがどっかりと腰を落ち着けていた。


 そのアーロンさんは、僕らを見つけると気安く声をかけてくる。



「おう、戻ったか。何匹倒した?」


「ゴブリン12匹と、ゴブリンキングが1匹だ」



 デレクさんの返答に、ざわついていたギルドが静まり返った。アーロンさんは驚愕の表情を浮かべて固まってしまい、居合わせた他の冒険者達も一様に黙り込んで、こちらの様子を窺っている。



「……ゴブリンキングだと?証明できるもんはあるのか?」


「討伐証明部位の右耳がある。あとはシモン君の持っている魔石だな」



 デレクさんが背負っていた麻袋から取り出したのは、討伐したゴブリン達から切り取ってきた右耳だ。その中にはひと際大きいゴブリンキングのものもある。そして、その横に僕がゴブリンキングの魔石を添えてみせる。



「……認めよう。ゴブリン12匹とゴブリンキング1匹の討伐報酬を出す。あとは、ゴブリンの大量発生(アウトブレイク)を未然に防いだことに対する特別報酬も出してやる」



 アーロンさんが後ろに目配せすると、ギルドの職員さんが頷いて別室へと消えていく。


 でも、ゴブリンキングが含まれていたとはいえ、僕らが倒したゴブリンは13匹ぽっちだ。アーロンさんの言ってることはちょっと大袈裟すぎやしないかな。



大量発生(アウトブレイク)を防いだって、どういうことです?ゴブリンはまだまだ沢山いると思いますが」


「新人のお前は知らねえだろうが、ゴブリンキングにはゴブリンの大集団を従える性質があるんだよ。討伐せずに放っておけばゴブリンの〝国〟ができるとすら言われるくらいだ。一旦そうなっちまったら、こっちが受ける被害も洒落にならねえ。俺たち人間にとって、最優先で潰すべき魔物なんだよ」


「そ、そうなんですか。知らなかったなあ。はははは……」



 なんだか猛烈に嫌な予感がする。僕の〝星の銀貨〟が大暴れしてなきゃいいんだけど……。



《後で恒例のステータスチェックをするのー》


《チェックしたくない……》



 その時、アーロンさんの発言を聞いていたエディさんが身を乗り出してきた。



「アーロンさんよ、いまシモンのことを新人って言ったか?」


「ああ、こいつが冒険者になったのはつい一昨日のことだからな。しかし、その新人を抱えてゴブリンキングを討伐するとは驚いたぜ。お前ら、また認定証に一歩近づいたんじゃねえか?」


「マジかよ……こいつ本当に新人だったのかよ……」


「あん?どうしたエディ、頭なんか抱えやがって」



 話についていけず戸惑うアーロンさんに、デレクさんが決定的な一言を放つ。



「アーロンさん、ゴブリンキングを倒したのは俺たちじゃない。シモン君が一人でやったんだ」


「な、何だとぉッ!???」



 アーロンさんがこちらにぐるんと向き直る。えっ、何?この人なんか怒ってない?目がギラついてて怖いんですけど!?



「ひっ……!」


「……薬草採取の時も妙だとは思ったが、お前いったい何者だ?」


「い、嫌だなあ。僕はごく普通の新人冒険者ですよ」



 アーロンさんが物凄い目でこっちを睨んでくる。もともとの強面と相まって物凄い迫力。怖い!ただひたすら怖い!僕は必死で目を逸らし続ける。



「お話し中すみません。報酬をお持ちしました」



 そこにギルドの職員さんが報酬を運んできた。ナイスタイミング!



「内訳を説明します。ゴブリン1体の討伐報酬は銀貨2枚なので合計24枚。さらにゴブリンキングの討伐報酬として金貨20枚と、特別報酬が金貨30枚ですね」



 ()っか!ゴブリンキングの報酬、()っか!



「合算で金貨50枚と銀貨24枚になります。ご確認ください」



 ギルドの職員が差し出したお盆には、小さいながらも重そうな皮袋が乗せられている。デレクさんは中身を手早く確認すると、各メンバーに手際よく分配していく。



「シモン君の取り分は金貨10枚、銀貨2枚、銅貨80枚だ。確認してくれ」


「うわああああ、凄い大金!冒険者になって良かったなあ」



 これでウチの暴食天使をしばらく養ってあげられるよ!本当に……本当に助かった!


 ひとり感動に打ち震える僕を、〝幸運の星(ラッキースター)〟の皆さんは微笑ましいものを見るような目で見つめている。



「この反応は新人だな」


「だな。俺が初めて大金を稼いだ時と変わんねえや」


「疑って悪かったね、シモン」



 えっ、僕そんなに分かりやすく舞い上がってました!?あらやだ恥ずかしい!



「まだ魔石も持っているだろう。買い取ってもらってはどうかな」


「あ、そうでした!」



 さすがマルコムさん。危うく忘れるところだった。



「アーロンさん、この魔石って買い取ってもらったら幾らになります?」


「ふむ……属性は無し。質は上々。サイズは下の上ってとこだな。これなら金貨15枚で買い取らせてもらう」


「えええええ!??売ります売ります!今すぐ売ります!」



 なんと、今日一日で金貨25枚以上の荒稼ぎ。金銭感覚がおかしくなりそう。ゴブリンキング様様だわー。ありがたやありがたや。

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