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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第4章 聖人シモンと竜王国の謎
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第4章 08話 災厄の正体を求めて

「全ての民が〝死に絶える〟……!?」



 オーレリア姫が語った真実は、僕の想像を遥かに超えた衝撃的なものだった。

 盟約を維持するには国王の子が贄にならなければならず、それを違えると国民すべてが死に絶えるほどの災厄に襲われる……竜の守護を受けた国として栄えてきたエルム竜王国の裏側で、こんな凄惨な盟約が連綿と受け継がれていたなんて。



「竜はこの国を守護してなんかいない。これは国と王家にかけられた呪いなんです」



 ロデリック様が悔しげな表情で吐き捨てた。



「だから貴方は姫を連れて逃げたのですね。姫を贄に差し出されないように」


「そうです。近衛騎士に選任された以上、王家が絶えようとしているのを見過ごすことはできません」



 僕が投げかけた問いに、ロデリック様は明確に答えた。

 しかし、彼に生命を救われたオーレリア姫の表情は晴れない。



「でも、私が贄にならなければ災厄で民が犠牲になるのですよ?」


「姫が生命を落として王家の血が絶えれば、どのみち盟約も終わりです。単に災厄を数十年先延ばしにできるだけではないですか」


「私ひとりの生命で民が数十年の安息を得られるのなら、私は喜んで贄になりましょう」


「姫……」



 姫の凛とした言葉を受け、ロデリック様の言葉が詰まる。


 でも、そのオーレリア姫もこうして逃避行に身を委ねている以上、喜んで贄になるという訳ではないのだろう。王家に生まれた者の義務として、どうにか自らの境遇を受け入れている、といったところだろうか。



「以前ロデリック様から〝竜を倒せるか〟と質問されましたが、その意味がやっと分かりました」


「……はい。あの守護竜がいなくなれば、この国は盟約という名の呪いから解放されます。悪魔すら倒したというシモン様なら可能性があるのではないですか?」


「いえ、古竜が相手となると、恐らく私でも敵わないでしょう」



 僕よりも相手の方が力が上だということはステラの情報でハッキリしている。あの子はこういう事で嘘をつかない。



「シモン様でも敵わないとは……やはり〝竜殺し〟ジークフリード様をどうにかして探し当てるしかないか」



 暗い表情を浮かべたロデリック様が思わずついた呟きが耳に入る。

 でも、いかに〝竜殺し〟といえども古竜を倒すのは不可能だろう。古竜は神に最も近い生物。とても人間に倒せるような相手ではない。



《古竜が相手じゃ、ジークフリードも大賢者のお爺ちゃんも話にならないの。多分、近づくことすらできないと思うの》


《そんなにか……古竜ってのは凄いんだな》



 考え込む僕に、姫がおずおずと話しかけてきた。



「ところでシモン様、私達をどうされるつもりですか?」


「それなんですよね……本来なら依頼主のグローヴ子爵にお二人の居場所を報告しなければならないところですが」



 グローヴ子爵に報告すれば、その内容はきっと国王陛下の耳にも伝わるだろう。そうなれば姫は連れ戻されることになるだろうし、ロデリック様も姫を拐かした罪で捌きを受けることになる。



「私は贄として連れ戻されても構いません。ですが、ロデリックの一命だけは助けとう御座います」


「姫!それはなりませぬ!」


「ロデリック、ここで貴方と二人で暮らした日々は短いものでしたが、私はこれほど幸せだったことはありません。ここでの思い出を胸に、私は喜んで竜の山へ向かいましょう」


「ひ、姫……」



 オーレリア姫の愛情に満ちた視線をロデリック様は正面から受け止め、必死に涙をこらえている。


 あれ……?お二人ってそういう関係だったの?



《案外シモンって鈍いのね》


《ほーんとシモン様ってば鈍ちんなの。こんなんじゃ嫁の来手がないのも当然なの》


《えっ、グウェンとステラは気づいてたの?》


《当たり前でしょ。愛もない相手に、一国の王女がついて行く訳がないじゃない》



 グウェンにズバリと指摘されて何も言い返せなくなり黙り込んだ僕に、姫とロデリック様が縋るような視線を向けてくる。

 そうだ、まずはこの二人の処遇を考えなきゃ。



「……まず、グローヴ子爵への報告は暫く見合わせます」


「それは私達を見逃すということですか?しかし、それでは災厄が──」


「姫、その災厄ですが、具体的にどのような事が起こるのかご存知ですか?」


「それは……残念ながら存じ上げません」



 姫の話で一番の疑問だったのがそこだ。

 盟約を破ると〝災厄〟が起こるというけど、具体的に何が起こるっていうんだろう。



「まず、その災厄の正体を知るのが大事だと思うんです。何が起こるのかが分かっていれば対策の練り様もある。ひょっとしたら盟約を違えても民が死なずに済む道があるかもしれない」


「そうです!シモン様の言う通りです!」


「でも、どうやってそれを知るのです?竜と盟約を結んだ建国王は、とうの昔に亡くなってしまわれましたし……」



 ロデリック様は我が意を得たりと立ち上がったが、オーレリア姫が投げかけた疑問も尤もだ。

 でも、僕にはひとつだけアテがあった。



「確かに建国王はこの世にいません。でも、古き盟約を結んだ()()()()()()()はまだ生きている筈です」


「もう一方……まさか!?」


「そう、守護竜ユリシーズです。僕はまず、守護竜に会いに行こうと思います」



 ロデリック様とオーレリア姫はぽかんと口を開けたまま動かない。

 エルム竜王国広しといえど、竜が棲むという霊峰ヘルラト山に好んで入り込もうとするものなど誰一人としていない。竜だけでなく、その眷属ともいえる魔物が大量に生息しているという国内屈指の危険地帯。それが霊峰ヘルラト山なのだ。



「シモン様、本気ですか!?かの建国王に付き従ったという十二勇士すら、古竜の巣に辿り着くまでに尽く生命を落としたという、超が付くほどの危険地域なんですよ!?」


「それに、竜に会っても真実が分かるという保証はありません。あまりにも無謀過ぎます」



 ロデリック様とオーレリア姫がどうにか引き止めようとするが、僕の決断は変わらない。



「貴方達二人と国の両方を救うには避けて通れない道です。確かに危険かもしれませんけど、そもそも〝危険を冒す〟のは僕たち冒険者の本分ですよ」


「シモン様……」


「大丈夫、無理はしません。危なくなったらさっさと逃げ帰ってきますから」



 これで守護竜の許に辿り着けなかったら、その時はその時だ。そしたら、また別の手を考えればいい。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 二人の隠れ家を辞去した僕たちはクレマンの街をそぞろ歩いていた。

 霊峰ヘルラト山に向かうとなると、一旦王都に戻らなきゃならないな。とはいっても、戻るのは転移魔法で一瞬だ。旅の支度を整える時間を考慮しても2日後には出発できるだろう。



《シモン様。前にも言ったけど、改めて念押ししとくの。もし古竜と戦ったら、今のシモン様でも命の保証はないの》


《分かってるよ。僕は戦いに行くんじゃない。ただ守護竜と話をしたいだけだよ》


《……そう上手くいくとは思えないの》



 心配そうなステラをよそに、グウェンはすっかり同行する気になっている。



「まさか私が霊峰ヘルラト山に入ることになるなんて、夢にも思わなかったわ」


「……あのさ、グウェンには家で待っていてほしいんだけど」


「えっ……どうして!?」


「ロデリック様の言う通り、今回の行き先はとんでもなく危険な場所だ。グウェンは強いけど、万一ってこともあるかもしれない」



 僕の言葉にグウェンはムッとしたような表情を浮かべる。



「それって、足手まといってことかしら?」


「そ、そんな事はないよ!でも……もしグウェンが先に死んだりしたら、僕はものすごく後悔すると思うんだ」


「失礼ね、私はそう簡単に死なないわよ!ねえ、ステラからもなんとか言ってよ!」


《……ステラも、グウェンはお留守番してたほうがいいと思うの》


「……!」


「グウェン。ステラもこう言ってることだし、今回は──」


「嫌よ、私も絶対に行くわ!危険を冒すのが冒険者の本分って言ってたじゃない!私だって冒険者よ!」



 グウェンの頑なさに、僕とステラは思わず顔を見合わせた。

 普段はこんな意地を張るような人じゃないのに、今回に限って一体どうしたんだろう?



《ははーん、さてはシモン様が浮気しないよう近くで見張るつもりなの》


「はあ!?そんな訳ないでしょ!」


《グウェンったら心配性過ぎるの。シモン様に限ってそんなモテるわけないの》


「おい……ちょっと待て」


《まあ、そんなどうでもいい話は脇に置いとくの。二人とも、今はもっと大事なことを考えるべきなの》


「大事なこと?」


《これから私達が向かうのは、人里離れた霊峰の奥深くなの》


「そうだね」


《つまり、道中で食糧の調達ができないってことなの!これは死活問題なの!》



 ……いや、拳を握りしめて力説するような内容か、それ?、

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