第4章 03話 エルム王国の一大事?
ドラゴンと戦って勝てるか?
ロデリック様から唐突に投げかけられた問いに思考が固まる。
ドラゴン……って、あのドラゴンだよね?世界最強の生物であり、神話の時代から生き続けている個体もいるという生ける伝説。エルム竜王国の守護者にして象徴でもある至高の存在。そのドラゴンと戦うだなんて考えたこともなかった。ロデリック様はどういうつもりでこんな質問をしてきたんだろう?
《ステラ、実際に僕がドラゴンと戦ったらどうなる?》
《んー、ドラゴンにも色々いるから一概にはいえないの。でも、相手が若いドラゴンなら問題なく勝てると思うの》
なんてこった……神話級の生物にも勝てるとか、それもう完全に人間じゃないだろ。
──いや、ちょっと待てよ?そういえば、竜を殺してそうな人間に一人だけ心当たりがあるぞ。
《金級冒険者に〝竜殺し〟のジークフリードって人がいるけど、彼は竜を倒したことがあるんだよね?》
《彼はパーティを組んで下位種の若いドラゴンを倒したの。それでもパーティ5人のうち3人が死んじゃったの》
下位種でそれって、ドラゴンさん強すぎませんかね……。金級冒険者のジークフリードさんが組むパーティといったら、全員が一騎当千の猛者だった筈だろうに。
そして、そんなドラゴンにすら勝てるという自分はドラゴン以上の化け物ということに……いや、これ以上考えるのはよそう。考えるだけ無駄だし、精神衛生上よろしくない。
《でも、上位種の古竜は別格なの。多分、今のシモン様でもけちょんけちょんにやられちゃうと思うの》
《古竜?》
《神話の時代から生き続けている長命種。現世において最も神に近い生物なの》
《ひょっとして天使のステラよりも格上?》
《んー、ほぼ同格なの》
ステラも天使としてはかなり高い位階にいる筈なのに、それと同格ってのは凄いな。
しかし、僕も人間としてはかなり規格外な強さを身に着けている筈だけど、その僕ですら勝てない奴がいるんだから世の中は広い。あのダンテにしても、グウェンの聖痕から力を取り戻していなければ勝てなかっただろうし。
《ちなみに古竜の一段階上には神竜というのがいるの。そいつは神様すら滅ぼせるほどの力を持ってるの》
《なんだそりゃ!?そんなのが1匹いるだけでも世界が滅びるだろ》
《大丈夫なの。神竜は神界の生き物だから、現世に現れることはまず無いの》
《いやでも、神界の人たちは大丈夫なの?》
《神竜は寝てばかりいるから基本無害なの》
《ええー……》
神竜ともなると例え世界が滅んでも生き続けることができるそうで、皆さん浮世離れした性格をしていらっしゃるとのこと。ごく稀に目を覚ましても特に何をするでもなく、下界の様子を眺めるなどしているうちに再び眠りについてしまうらしい。
それって要するに、神界における猫みたいなポジションってこと?神をも滅ぼす存在がそんなユルい感じの扱いでいいの?
「あの……シモン様?」
「うわっ!?は、はい。質問の答えですよね。えーと……」
考え事に耽っているところに声をかけられて慌てていると、ロデリック様は苦笑を浮かべた顔を横に振った。
「いえ、忘れてください。詮無い事を申しました」
「それならいいのですが……何かあれば遠慮なくご相談ください。私で力になれることなら助力は惜しみません」
「ありがとうございます。しかし、これは本来我々騎士団が──ひいては我が国が解決すべき問題。それを勝手にシモン様に諮ったとなれば、姫君に叱られてしまいますから」
「姫君に……?」
しかしロデリック様は固く口を噤んでしまい、結局それ以上のことは聞けなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
子爵一家の歓待を受けた僕たちは、転移門を潜ってモルトの自宅に戻ってきた。食事の席では例によってステラが大食漢ぶりを発揮。ステラの存在を認識できない子爵一家の皆さんは、僕の前に並んだ料理がどこへともなく消えていくのを不思議そうに見守っていた。
きっと僕が目にもとまらぬ速さで食べたんだって勘違いされてるんだろうなあ……実際はひと口も食べられなかったのに。
それにしても気になるのはロデリック様の話だ。彼は何故ドラゴンの話なんかを持ち出したんだろう。
「ステラ、何か思いつくことはない?」
《なんのこと?》
「ロデリック様の話だよ。ほら、ドラゴンに勝てるかって聞かれたでしょ」
《ああ、あれね》
「なになに?何の話?」
ステラの訳知り顔の反応に、グウェンも興味を持ったようだ。
《んー……ステラが教えることもできるけど、ここは大賢者のお爺ちゃんに聞いた方がいいと思うの》
「師匠に?なんでわざわざそんな──」
《ロデリックの悩みはお爺ちゃんの悩みでもあるの。どうせなら当事者から聞くべきなの》
あの師匠に悩み……?正直、全く想像がつかない。むしろ悩みの方が裸足で逃げだすんじゃないか。
そんな事を取り留めもなく考えている僕に、グウェンが厳しい表情を向けてくる。
「シモン、何を呆けてるの。これって大問題よ」
「えっ?」
「大賢者様は金級冒険者にして国王陛下のご友人。そんな方が騎士団に所属しているロデリック様と同じ悩みを抱えているということは──」
「……そうか、国の一大事ってことか。それも、大賢者様ですら解決が難しいほどの」
《流石はグウェンなの。それに引き換え、シモン様はまだまだ修行が足りないのー》
「ぐっ……」
しかし、国の一大事でありかつドラゴンが絡むとなると、僕にもなんとなく話が見えてくる。
我がエルム王国は〝守護竜ユリシーズ〟に護られていることで竜王国とも称されている。その国でドラゴン絡みの問題が起きているとなると、このユリシーズが関わっていると考えるべきだろう。
《シモン様もなかなか鋭いの》
「でも〝守護竜ユリシーズ〟なんて本当にいるの?お伽噺の中にしか出てこないものだとばかり思ってたよ」
「あら、ユリシーズなら実在するわよ。私の両親もそう言ってたから間違いないわ」
「グウェンの両親が……?」
エルム王国の遥か西方にある森で暮らしていたというグウェンの両親とその一族。
災厄により一族全て滅びてしまい生き残ったのはグウェンだけだというが、それがどんな災厄だったのかは僕も知らない。いつかそれも彼女の口から語られる時がくるんだろうか。
「とにかく、大賢者様のところに行って聞いてみましょう」
「そうですね。じゃあ早速転移門で──」
《ちょっと待つの》
「ん?どうしたステラ?」
《この問題に首を突っ込んだら、シモン様でも命がけになるの。その覚悟はあるの?》
「えっ……真の聖人として覚醒したシモンでも命がけ!?」
僕のステータスを知っているグウェンが驚きの声を上げる。
しかし、森羅万象の記憶を閲覧できるステラの言葉に間違いはない。彼女がこう言う以上、今の僕でも敵わないかもしれないほどの強敵が出てくるってことだ。そして、その強敵は恐らく〝守護竜ユリシーズ〟に違いない。そうでないと、ロデリック様のあの質問に説明がつかない。
この世界に存在し、今の僕では敵わないほどの強さを持つ竜……。
「ステラ、まさか〝守護竜ユリシーズ〟ってのは──」
《そう。古竜なの》




