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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第4章 聖人シモンと竜王国の謎
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第4章 01話 うっかりシモン

 悪魔ダンテを倒して国王に謁見した日からおよそ1ヶ月が過ぎた。家の外の空気は日に日に冷たさを増している。間近に迫った本格的な冬の訪れに備え、街の中では薪を積み込んだ荷車がそこかしこを行き交っている。



「ごちそうさま。今日のご飯も美味しかったわ」


《はーい。洗い物は僕がやるから、グウェンはお皿だけキッチンに運んでおいて》


「ありがとう。助かるわ」



 朝食の席から立ち上がったグウェンが自分の食器をキッチンに運んでいく。


 僕とグウェンは相変わらずモルトの家で共同生活を続けている。一緒に暮らし始めたころは呼び捨てにするのに抵抗があったけど、最近はすっかり慣れてしまった。人間の適応力ってすごい。



《シモン様、おかわりなの!》



 口の周りをソース塗れにしたステラが空になった皿を差し出してくる。この様子だと、まだまだ食事を終えるつもりは無いらしい。



「いくらなんでも食べ過ぎじゃないか?これでお替り12回目だぞ」


《シモン様の料理が美味しいのがいけないの》



 今日の朝食はパンとミルクと目玉焼き。それから、すり潰したじゃがいもとひき肉にバターと塩胡椒を混ぜ込み衣をつけて揚げた料理を作ってみたのだが、ウチの女性陣はこれをいたく気に入ったようだった。しかし、相変わらずステラの食欲は底なしだ。この小さい身体の一体どこにこれだけの食べ物が入るのか。


 その後、食事を終えた僕たちはリビングに集まって今日何をするか話し合う。



「そろそろ食材を買い足しておきたいし、今日は市場に行きませんか」


《賛成なの。久々に市場の屋台で串焼きを食べたいの》


「その前にギルドに行かなきゃ駄目よ。緊急の依頼がなかったら、その足で市場に行きましょう」


《めんどくさいのー》



 冒険者たるもの、本拠地にいる時はなるべくギルドに顔を出さなければならない。特に僕たちのような認定冒険者には指名依頼が入ることもあり、それを理由もなく長期間ほったらかすとペナルティを食らうことだってあるのだ。


 僕たちはのんびりと支度を済ませてギルドに向かった。


 でも、最近の僕たちはあまり依頼を受けていない。王都で吸血鬼(ヴァンパイア)の魔石を大量に売り払ってからはお金にも不自由してない。ディアボロの掃討という大仕事を終えて少し気が抜けたというのもあり、どうもがっついて仕事をする気になれない。ステラは《ごく潰し聖人》と揶揄ってくるけど、聖人になってからずっと働き詰めだったわけで、たまにはのんびりしてもいいんじゃないかな。



 冒険者ギルドの入口を潜ると、受付に駄弁っていた筋骨隆々の男がいち早く声をかけてくる。



「おう、銀級冒険者のお出ましか。今日も冷やかしか?」



 モルトの冒険者ギルドを束ねているギルドマスターのアーロンさんだ。ギルド内に屯していた冒険者たちが彼の胴間声を聞きつけて俄かに騒めきだす。



(おい、見ろよあの二人)

(ああ、こないだ銀級冒険者になった奴らだろ)

(〝精霊姫〟は今日も綺麗だなあ……)

(あれが〝出鱈目〟シモンか?見た感じただのひょろい坊ちゃんじゃねえか)

(しいっ、馬鹿!聞こえたら殺されるぞ!?)



 ──いや、全部聞こえてるんだけど。


 銀級冒険者の認定証を彼から受け取ってから半月ほど経ち、冒険者界隈ではすっかり僕の顔と名前が広まってしまった。しかも、いつの間にか〝出鱈目〟とかいう有難くない二つ名まで付けられている。僕のどこが出鱈目だっていうんだ。



《むしろシモン様以上に出鱈目な人がいたら見てみたいの》


《いやいや、まだ僕の上には金級冒険者だっているんだよ?》


《冒険者デビューから銀級認定までたったの2ヶ月半。ぶっちぎりの史上最速記録なの》


《え…………》



 そうなんだよなあ。冒険者の中では僕なんてまだまだ新人なんだよ。それが銀級認定を受けたりしたら出鱈目に感じるのも当然だろうな。まあ理解はできる。納得はできないけどな。



「アーロンさん、おはようございます。何か良い仕事はありますか?」


「割の良い仕事なんてもんはな、日の出とともに無くなるって相場が決まってんだよ。本気で仕事をするつもりがあるならもっと早く来やがれってんだ」



 まるで取り付く島が無い。アーロンさんはいかつい外見のわりに面倒見がいい人だが、仕事をしない冒険者には割と冷淡だ。



「じゃあ認定冒険者向けの指名依頼とかは?」


「今んとこ無えな。お前らじゃなきゃ頼めねえような難しい依頼も無え。押しなべて世は事もなしってやつだ」



 そう言ってアーロンさんは肩をすくめて見せる。平和がなによりには違いないが、それも過ぎると冒険者は仕事の口を失うことになる。ギルドマスターである彼にとっては心中複雑なところだろう。



「ああそうだ、依頼ってわけじゃねえんだが、お前ら宛てに書状が届いてるぞ」


「手紙ですか?」


「ああ、ご丁寧に封蝋までされてやがった。こりゃ身分ある人間からの便りだな」



 アーロンさんがカウンターの奥から1通の書状を取り出してきて、僕たちの方に放ってよこす。



「ありがとうございます。代金はいくらですか?」


「お前らが金を払う必要は無えよ。ギルドを介した郵便の手数料は送り手持ちだ」



 僕たちはギルド内のテーブルに席を取り、早速手紙を紐解いた。



「どれどれ……ああ、グローヴ子爵からの手紙か。『拝啓シモン様 冬が近くなり朝夕の寒さが身に染みる季節になりました』──」



 何の気なしに手紙を読み進めていた僕の顔から次第に血の気が引いていく。手紙を持つ手が小刻みに震え、額には脂汗が光りだす。

 まずい……これはまずいぞ。完全にやらかしたッ!



「ねえシモン、一体何が書いてあったの?」



 僕の様子に只ならぬものを感じたグウェンが不安げに問いかけてきた。



「……二人ともごめん。今日は市場に行けなくなった」


《えええええええ!?屋台の串焼きは!?食材の買い出しは!?》


「それどころじゃないんだよ!グローヴ子爵との約束をすっかり忘れてた!」



 その手紙の内容を要約するとこんな感じだった。



──────────

シモン君、最近すっかり寒くなってきたが如何お過ごしかな。

王都での修行中に吸血鬼を退治した話や国に蔓延る犯罪組織を掃討した話などが噂になって私の耳にも聞こえてきている。

相変わらずの君の活躍ぶり、私も陰ながら誇らしく思っている。


ところで、王都での修行が明けたら私の許に立ち寄るという約束があったはずだが、よもや忘れてはいないだろうか。

先の噂話によれば君の修行はとっくに終わっている筈なのだが、いまだ来訪を受けた覚えはない。

となると、何か重大な事件にでも巻き込まれたか、それとも重篤な病に罹ったか……。

私も家族も心配しているので、この便りが届いたら是非そちらの状況を報せてほしい。

それでは。

──────────



「これ、どう思う?グローヴ子爵、怒ってるかな?」


「うーん……丁寧で落ち着いた文面だけど、怒ってないとも言えないわね」


《貴族相手の約束をぶっちするなんて、シモン様ってば豪胆すぎるの》


「言っとくけど、わざじゃないからね!?」



 覚えたての転移門(ポータル)で王都から直接モルトに戻ってきちゃったから、グローヴ子爵のとこに寄り道するって発想自体が無かったんだよなあ。うわー、本当にやらかした。すぐに謝りに行かなくちゃ。



「というわけで、今日は予定を変更してグローヴ子爵の御屋敷に急行するよ」


「仕方ないわね」


《屋台の串焼き……》



 若干1名の不満に耳を塞ぎ、僕たちは転移門(ポータル)でパナシエの街に移動したのであった。

ストックを貯めるためにしばらく投稿をお休みしていましたが

本業のほうが忙しくなってしまい、筆がなかなか進まずにいます。


とりあえず見切り発車で投稿を再開しますが

以前ほどの投稿ペースを維持するのは無理そうです。

予めご承知おきくださいませ。

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