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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第1章 聖人シモンと魔界の脅威
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第1章 07話 師匠に学ぼう!戦闘編

「これ、さっき教えてくれたオニササタケとかいうキノコですよね?触っただけでも毒を受けるんでしたっけ」


「そうだけど……アンタたったあれだけの説明でよく覚えてたね」


「あ、あっちに水場がありますね。マッピングしておきます」


「う、うん。頼むわ」



 ジェニーさんは引き攣ったような笑みを浮かべている。



 小休止を終えた僕たちは、再びゴブリンの生息地に向かって移動中だ。その道中では、スカウトのジェニーさんから冒険者の必須知識を教わっている。地図の作り方、魔物や野草などの見分け方や探知方法、気配を殺して移動する方法、迷宮や遺跡でよく見かける罠の種類や解除方法、鍵のこじ開け方など、ジェニーさんの知識は多岐にわたっていた。僕も長いこと狩人をやってたから野外活動の知識にはそれなりに自信があったんだけど、ジェニーさんにはまるで敵わない。やっぱしプロの冒険者は違うなー。


 ただ、教わったことを恐ろしい勢いで吸収していく僕に、ジェニーさんは若干引き気味になっている。自分でも不思議なんだけど、教わったことがどんどん頭に入ってくるんだよなあ。それもただ覚えるだけじゃなく、完全に身に付いてしまうというか……まあ、その理由はなんとなく分かるんだけど。



《知能570という変態的なステータスのせいなの》



 うん、知ってる。知ってるから、とりあえず変態扱いはやめて。



【技能 気配探知 のレベルが上がりました(Lv3→4)】

【技能 隠密 のレベルが上がりました(Lv1→2)】

【技能 地図作成 を習得しました(Lv1)】

【技能 罠解除 を習得しました(Lv1)】

【技能 開錠 を習得しました(Lv1)】



 うん、そうなると思ってたよ、思ってたけどさあ!

 いくらなんでも一気に来すぎだよね!?有難みってもんがまるで無いよね!?



 小休止をとった場所から森の中を歩くこと2時間、僕たちはゴブリンの生息地に到達した。デレクさんとエディさんが背負っていた武器を手に取り、ジェニーさんは警戒を強める。



「さあ着いたぞ。ここはレーニア山の麓。俺たち冒険者の界隈ではゴブリンの生息地として知られている森だ。シモン君、君はゴブリンが出たら後ろに下がってくれ。まずは僕たちの戦いを見て、武器の使い方を学ぶといい」


「分かりました」


「いつも通りマルコムさんは魔法で後方支援。ジェニーはマルコムさんを守りつつ、敵の隙を狙ってくれ」


「心得た」


「あいよー」



 〝幸運の星(ラッキースター)〟の4人は臨戦態勢を維持しつつ木々の間を移動していき、僕もその後ろについていく。なんか緊張するなあ。こないだイビルウルフと戦ったとはいっても、あの時は皆さんを助けようと無我夢中だったからなー。自分から危険な魔物を探して歩くのは今回が初めてだ。


 ──むっ、右手のほうで魔物の気配を感じる。500メートルほど先だろうか。数は1、2、3・・・5匹か。



「デレクさん、右手500メートルほど先に魔物がいます。数は5匹程度だと思います」


「500メートル?なんでそんな離れた場所のことが分かるんだ?」


「リーダー、こいつの探知能力はぶっ壊れだから信じていいよ」


「……分かった、右手に向かおう」



 野外活動の師匠であるジェニーさんからお墨付きを頂いてしまった。ただ、ぶっ壊れっていう表現にはちょっと釈然としないものがある。


 僕たちはデレクさんに続いて右手に移動していく。すると、あまり間を空けずに魔物たちの姿が見えてきた。緑色の肌に小柄で醜い姿。ボロボロの衣服をだらしなく纏い、手にはこん棒や錆びた剣などを携えている。間違いない、ゴブリンだ。



「驚いたな、本当にゴブリンが5匹いる……よし。マルコムさんは連中の真ん中に〝炎の玉(ファイアボール)〟を撃ち込んでくれ。奴らが混乱したところに俺とエディが突っ込む」


「うむ、くれぐれも無理はするなよ」


「大丈夫だって旦那。見とけよシモン、槍の扱い方ってもんを見せてやるからな!」



 デレクさんとエディさんが武器を構え、マルコムさんが呪文の詠唱を始める。いよいよ戦闘開始だ。



「マルムーク・ヴォルーフ・ファレ 出でよ〝炎の玉(ファイアボール)〟!」



 マルコムさんが放った〝炎の玉(ファイアボール)〟が綺麗な放物線を描いてゴブリンの群れの中央に炸裂する。運悪く直撃を喰らった1匹は倒れて動かなくなり、他のゴブリンたちも少なからぬ火傷を負って悲鳴をあげている。そして、そこに間髪入れずデレクさんとエディさんが突撃していく。おお、ナイス連携!



「槍ってのは間合いが命だ。こうして一定の距離を保ちながら、突く!」



 エディさんの槍がゴブリンの胸を貫き絶命させる。しかし、その槍を引き抜く間もなく他のゴブリンが襲い掛かってくる。危ない!



「そして、槍ってのは突くだけじゃないんだぜ!」



 エディさんはゴブリンの突進を槍の柄で綺麗に受け止め、そのまま足を払って転ばせる。そして、槍を手放して短剣を抜くと、倒れたゴブリンに止めを刺す。ゴブリンが断末魔の悲鳴を上げて絶命した時には、立ち上がったエディさんの手に槍が戻っている。おおお、エディさんカッコいい!


 エディさんだけじゃない。デレクさんも凄かった。



「身を守るだけが盾じゃない。敵を払いのければ隙を作れる」



 デレクさんが盾を構えて正面のゴブリンに体当たりを仕掛ける。それをモロに喰らったゴブリンは大きくのけぞり、デレクさんから目を離してしまった。そこにデレクさんの剣が一閃する。



「斬撃の瞬間に生まれる隙には要注意だ」



 デレクさんがゴブリンの首を斬り落としたところにもう一匹のゴブリンが襲い掛かるが、それを予測していたデレクさんは盾で上手く攻撃をいなし、体勢を整える。こうなってはゴブリンに勝ち目などある筈も無い。最後のゴブリンも、デレクさんの剣に胸を貫かれて倒れた。



「よし、とりあえずこれで全部だな」


「へっへっへ。シモン、勉強になっただろ?」


「はい!二人とも凄かったです!」



 戦ってるところを見せてもらって本当によかった。武器の扱いだけじゃなく、間合いの取り方や足の運びまで、色々と細かいところまで考えられてることが凄くよく分かった。二人とも、これまで色々な経験を積み重ねて必死に技を磨いてきたんだろうなあ。僕も頑張らなきゃ。



【技能 剣技 を習得しました(Lv1)】

【技能 槍技 を習得しました(Lv1)】

【技能 盾技 を習得しました(Lv1)】



 ……って、おい!

 そうやって努力とか経験とかをすっ飛ばすのはやめようよ!僕まだ見てただけで何もしてないよ!?



「ん?どうしたんだシモン君、顔色が悪いぞ。次は君にも実戦を経験してもらおうと思ってたんだが、大丈夫か?」


「……あ、はい。大丈夫です。ちょっとボーッとしちゃって」


「そうか。イビルウルフを問題なく倒した君のことだから大丈夫だとは思うが、もし危険を感じたら僕らの後ろに隠れてくれ」



 デレクさんはいい人だなあ。よし、僕も気を取り直して頑張らなきゃ。冒険者に必要な技能を身に付けるって決めたのは僕自身なんだし、技能の習得が早まるぶんには何の問題も無いじゃないか。前向きにいこう、前向きに。



「前方300メートル付近に魔物がいます。数は8匹ですね」


「ちょっと多いが、なんとかなるだろう。今度はシモン君も前衛に参加だ。俺たちがフォローするから安心して戦ってくれ」


「分かりました!」



 気配を殺して魔物の群れに近づいていくと、さっきと同じ緑色の小鬼どもが見えてきた。またゴブリンの集団だ。本当に増えてるんだな。こりゃ討伐依頼の報酬に色が付くのも納得だ。



「また〝炎の玉(ファイアボール)〟と同時に突撃するんですか?」


「そうするつもりだ。マルコムさん、いけるか?」


「あ、僕がやりますよ。〝炎の玉(ファイアボール)〟ならさっき教わりましたから」


「えっ……?」


「えいっ、〝炎の玉(ファイアボール)〟!」



 僕の指から激しい輝きを放つ球体が飛び出す。高温化と爆発力強化のイメージを込めたカスタム版の〝炎の玉(ファイアボール)〟だ。青白い炎の球体がゴブリンどもの中央に着弾すると、そこを中心に激しい爆発が起き、周囲の木が何本かなぎ倒される。この一撃で8匹のゴブリンのうち4匹までは即死し、残りの4匹もかなりの手傷を負ったようで混乱している。



「今です、突っ込みましょう!」


「ちょ、ちょっとおい!」



 僕は地面を蹴ってゴブリンの群れに飛び掛かる。魔法で大ダメージを負っているゴブリンの動きは鈍い。これはチャンスだ!


 迎え撃とうと武器を振り回すゴブリンの脇を通り抜け、すれ違いざまに剣を走らせてゴブリンの首を斬り落とす。まず1匹。


 そのまま、後ろにいたゴブリンに斬りかかる。こいつは両手に短剣を握っていた。二刀流のゴブリンか、攻撃が読みづらいな。ならば!



「〝足払い(トリップ)〟!」


「キィ!?」


 さっきマルコムさんから教わったばかりの土魔法〝足払い(トリップ)〟で、ゴブリンは地面に足を取られて前につんのめる。バランスを崩したところに僕の斬撃が綺麗に入り、またゴブリンの首がひとつ飛ぶ。これで残りは2匹。



【技能 土魔法 のレベルが上がりました(Lv3→4)】



 ……ええい、うるさい!


 次のゴブリンは槍を持っている。槍の間合いで勝負したらこっちが不利だ。僕は地面を蹴って一気に距離を詰める。しかしその動きは読まれていたようで、相手はこちらに槍先を向けてカウンターを狙っている。


「シモン、危ねえ!」


 ゴブリンが繰り出してきた突きを剣で払い、さらに距離を詰める。ここまで来ればもう僕の間合いだ。必死になったゴブリンは槍の柄の側を使って僕を打ち払おうとしてくる。しかし残念だったな、それはさっきエディさんに見せてもらった動きだ!

 僕は柄の一撃を軽々と交わし、ゴブリンの胸に鋭い突きを放って息の根を止めた。よーし、これでラスト1匹!



「おい、あのゴブリン、ひょっとして……」


「に、逃げようよリーダー!あたいらには無理だ!」


「何言ってんだ、シモンを見殺しにはできねえだろ!」


「くっ、ゴブリンが増加しているという情報から察するべきであった……」



 デレクさん達が何やら深刻そうな顔をしてるけど、暇なら手伝ってくれないかな。もう1匹しか残ってないよ。


 最後のゴブリンは、仲間が全て殺されたというのに、どこか余裕げな雰囲気を漂わせている。なんかコイツ、妙にデカいな。頭には随分と立派な角が生えてるし、割とまともな剣と鎧を身に付けている。この辺りのゴブリンたちのボスってとこかな?


 そんなことを考えていると、いきなりボスゴブリンの姿が視界から消えた。



 ガキィン!


「うおっ、なんだコイツ!?めちゃくちゃ速いぞ!」



 一瞬で距離を詰めてきたボスゴブリンが放つ斬撃をなんとか打ち払って体制を立て直す。ボスゴブリンはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。いかにも「ほう、よくぞ避けおったな」的なことを言ってそうな感じだ。なんか腹たつなコイツ。ゴブリンのくせに。



「よーし、ちょっと本気を出すよ」



 手のひらにペッと唾を吐いて剣を握りなおし、足に力を込めて一気に大地を蹴る。

 ギュン!!という音がしそうなくらい勢いよく飛び出した僕は、耳元に風の唸りを感じながら、一気にボスゴブリンの横を通り過ぎた。



「…………キッ?」



 ボスゴブリンは何が起こったのかすら分からずこちらに視線を向けようとするが、その目からは見る見る生気が失われていく。そして、ヤツの体全体がブルッとひとつ痙攣すると、その首がポトリと地面に落ちた。



【技能 剣技 のレベルが上がりました(Lv1→3)】



 あああああ、もう!いい加減このメッセージ機能やめて!僕の精神が死ぬ!

 しかもなんか一気に二つもレベル上がってるんだけど、どうなってんのこれ!?


 いかんいかん、落ち着け僕。これは決して悪いことじゃない。こうしてゴブリン8匹をほぼ単独で討伐できたんだし、冒険者として一人でやっていける見通しが立ったじゃないか。ネガティブな考えは捨てよう。大丈夫、僕はまだ人間。



「……………………」



 あれ?〝幸運の星(ラッキースター)〟の皆さんが固まってる。



「あ、皆さんすいません!僕一人で出しゃばり過ぎちゃいました」


「いやいやいやいや、ちょっと待て!今お前が倒したのはゴブリンキングだぞ!?」


「えっ?デレクさんそんな興奮してどうしたんですか?他のよりちょっとデカくて速かったけど、ただのゴブリンですよね?」


「シモン君、ゴブリンとゴブリンキングには蟻と象ほどの差があるのだよ……」


「あたいらが束になっても敵わない災害級の魔物だよ!?」


「ええええ!?いや、確かにちょっと強いなーとは思いましたけど……」



 マルコムさんとジェニーさんが興奮しながらドン引きするという器用なことをしている。動きが妙に速くて面食らいはしたけど目で追えない程ではなかったし、災害級とまで言われるような力強さも感じなかったけどなあ。



《シモン様の化け物じみたステータスを基準にしちゃいけないの》


《うっさいよ!……って念のため聞くけど、ゴブリンキングって()()()()()だとどの程度の強さなの?》


《銅級以上の冒険者じゃなきゃ討伐できない程度なの》


《思った以上の強敵だった……!?》



 あれ、ちょっと待てよ。〝幸運の星(ラッキースター)〟の皆さんに弟子入りしてる新米冒険者が、そんなに強い魔物を倒しちゃったのって、なんか明らかにマズくない?立場的に、色々と問題が──



「ていうか、お前には師匠とか要らねえだろマジで……」



 ですよねー。

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