第3章 27話 冒険者の叙勲
謁見の間に通された僕たちは跪いて陛下に敬礼する。
皆を代表して口を開いたのはオールストン伯爵だ。
「国王陛下にはご機嫌麗しゅう」
「オールストン伯、よく参った。奥方も壮健のようで何よりだ」
「有難きお言葉」
セルマ様がさらに深々と頭を垂れる。
「そこなエルフの女性はどなたかな?」
「冒険者のグウェンと申します」
「おお、其方がモルトの〝精霊姫〟か。シモンから話は聞いておるぞ。此度の協力、この通り深く感謝する」
「……勿体なき仰せに御座います」
陛下に頭を下げられたグウェンさんは少し驚いているようだ。
いち冒険者を相手に礼を尽くして頭を下げられる王様なんて、大陸中を探してもこの方くらいしか居ないだろうな。
「しかし巷のの噂だと、其方の顔には大きな傷があった筈だが……」
「シモンが癒してくれました」
「ほう……シモンよ、お主が回復魔法まで使えるとは知らなかったぞ」
「は、はあ」
回復魔法じゃありません。〝聖人の奇跡〟っていう神様の祝福です。
「リチャードよ、それくらいで驚いてはいかんぞ。シモンならば回復魔法どころかあらゆる魔法をワシ以上に使いこなすじゃろう」
「なんと、バルタザール殿がそこまで仰るとは」
さしもの国王陛下も驚きを隠せない様子だ。
師匠の言う通り、根源魔法の使い手となった僕の方が魔術師としての力は上かもしれない。
でも、僕が師匠に弟子入りしてからまだ2ヶ月も経ってないんだよなあ。バツが悪いというかなんというか……。
「あのう、僕のことはいいですからそろそろ本題に……」
「おお、そうであったな。オールストン伯よ、本日の用向きは何であるか?」
「はっ。件の犯罪組織ですが、その覆滅が終わりましたことをご報告にあがりました」
「おお、それは重畳。しかし随分と早いではないか。余が命を下してからひと月程度しか経っておるまい」
「全てはここにいるシモンとグウェンの目覚ましい働きに拠るものです」
「ふむ……両名とも大儀であった。これからも我が国民のため、その力を振るってくれよ」
「ははっ」
平伏する僕たちにひとつ頷いた後、陛下は再びオールストン伯爵に顔を向けた。
「さて……報告はそれだけではなさそうだな」
「お分かりですか」
「うむ。お主は昔からすぐ顔に出るからな」
陛下が笑い声をあげると、オールストン伯爵は降参するかのように両手を上げてみせる。
「お察しの通りですが、私の話を聞けば笑っていられなくなるかもしれませんぞ。実は──」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふむ……悪魔どもに指導者がいると申すか」
「ダンテとかいう悪魔が最期に漏らした言葉からいって、間違いなき事かと」
「それが真なら由々しき事態よな。最悪、悪魔どもの軍勢が魔界から侵攻してくる可能性もあるだろう」
「はっ。もしそうなれば、我々に打つ手はありませぬ」
国王陛下の懸念を聞いて思い当たるのはパナシエ森林迷宮に開いた〝魔界の門〟だ。あの門がもっと大きかったら、魔界の悪魔どもが大挙してこちらの世界へやって来ることも可能だったかもしれない。
「しかし、今は何を言っても憶測にしかならぬのも事実。さて、悪魔どもに一体どのような意図があるのか……」
国王陛下が思わず天を仰いだ。
相手の意図を読み解こうにも情報が足りなさ過ぎる。しかし悪魔の情報なんてどうやって入手すればいいのか見当もつかない。
「リチャードよ、悩む必要などあるまい」
「バルタザール殿には考えがおありか」
「悪魔の側にこちらの世界に対する野心があるのなら、近いうちまた現れるじゃろ。そうしたらシモンを差し向けて生け捕りにすればよいのじゃ」
「…………はい?」
ちょっと、何を言ってくれちゃってるんですか師匠!?
「なるほど!確かに、生け捕りであれば情報を引き出すことも可能ですな」
「ちょ、ちょっと待ってください!悪魔って結構強いんですよ?それを生け捕りだなんて──」
「シモンよ、その強力な悪魔が大挙して侵攻してきたらどうなるかの?」
「えっ……そ、それは……」
「被害はこの国に止まらず、大陸そのものの存亡に関わる事態となるじゃろうな。勿論、人も大勢死ぬじゃろう」
「…………」
ダンテは本当に強かった。屈強な王国騎士団の面々が束になっても敵わないであろう強靭な肉体に、一瞬で街ひとつを吹き飛ばしかねない強大な魔法力。僕が生き残れたのは、ひとえにグウェンさんの聖痕から聖なる力を取り戻したお陰だ。
あんな奴がもし数千……いや数百人もいれば、この世界の国々を滅ぼし尽くすのにさして時間はかからないだろう。
「大賢者様の仰る通りだ。我々はなんとしても連中の思惑を暴かなければならない。困難な依頼であることは分かっているが、なんとか協力してはもらえぬか」
「分かりました、できるだけのことはします。でも確約はできません。もし仲間に危険が及びそうになったら、僕は迷わず悪魔を倒します」
「シモン……」
彼女は僕の大切な仲間だ。彼女を危険な目に遭わせてまで悪魔に情けをかけるつもりはない。
グウェンさんはそう言った僕をみて、嬉しそうに微笑んだ。
「陛下、シモンとグウェンの功績に国として報いねばなりますまい」
これまで黙っていたセルマ様が口を開いた。
「そうよな。巨大犯罪組織の掃討に強大な悪魔の討伐。いずれか一方でも叙勲に値する大功だ。さて、何を以て報いればよいか」
「陛下、彼らは冒険者です。ならば冒険者の叙勲で報いるのが良いでしょう」
「冒険者の叙勲……なるほど、それは良い考えだ」
陛下とセルマ様はにっこりと笑い合った。
冒険者の叙勲だって?そんなの聞いたことないんだけど。セルマ様は何のことを言ってるんだろう。
きょとんとした様子の僕たちに、陛下は急に厳かな口調になって語りかける。
「冒険者のシモンとグウェンよ、面を上げよ」
「はっ」
「其方ら両名の働き、真に見事である。その功績を王国として正式に認めよう」
「有難き幸せに御座います」
「ついては其方らを銀級冒険者として認定するよう王家から推薦状を出す」
「……ええええええ!!??銀級!!??」
「私達が……銀級……」
正式な認定は冒険者ギルドの承認を得た後のことになるが、王家からの推薦ともなればギルドの審査など通ったも同然だ。実質、この時点で僕たちの銀級昇格は確定したといっていい。
銀級認定を受けた冒険者は、その国においてトップレベルの実力者と認識される。エルム王国の銀級冒険者は〝氷花〟ミリアムさんただ一人だったが、今後はそこに僕とグウェンさんが加わることになるわけだ。
でも、本当にいいのかな。〝精霊姫〟と称される有名冒険者のグウェンさんの昇格は妥当だけど、僕なんか銅級になってからまだ1ヶ月くらいしか経ってないのに。
《シモン様、銀級認定おめでとさんなのー》
《正直、実感が全くない……》
《シモン様もそろそろ自分の二つ名を考えるべきなの》
《二つ名?》
認定冒険者は大抵カッコいい二つ名を持っているものだ。グウェンさんの〝精霊姫〟とかミリアムさんの〝氷花〟とか。そういえば師匠の〝大賢者〟ってのも二つ名だったか。
でも、僕にはその二つ名が無い。ステラの言う通り、晴れて銀級冒険者になった今なら二つ名で呼ばれたとしてもおかしくない筈だ。
《じゃあ〝血みどろ聖人〟なんてどう?》
《却下で》
《じゃあ〝血塗れ魔術師〟とか》
《却下!そんな二つ名がついてたら人間性を疑われるだろ!》
《〝至高の料理人〟》
《却下。それもう冒険者の二つ名じゃないよね?》
《〝童帝〟》
《却下却下!完全に下ネタじゃないか!そんなん呼ばれる度に心が折れるわ!》
念輪の腕輪を通して僕とステラのやり取りを聞いていたグウェンさんがポツリと呟いた。
《そもそも、二つ名って自分で考えるものなのかしら……?》




