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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第3章 聖人シモンと精霊姫の復讐
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第3章 24話 天使のネタばらし

 僕の前々々世がエルマーさん?

 エルマーさんって、ディアボロからグウェンさんを守って逃避行を続け、死ぬ間際に謎の傷を彼女の顔に残していったという、あのエルマーさんだよね?


 そういえば、前々々世の僕はディアボロの連中に殺されたって以前ステラが言ってたな。でも、まさかそれがエルマーさんのことだったとは……。


 グウェンさんは僕以上に驚き、興奮していた。



「ちょっと、ちょっと待って!つまりシモンはエルマー兄さんの生まれ変わりってことなの!?」


《その通りなのー。エルマーの魂はシモンの魂であり、その逆もまた然りなの》


「そんな……まさかそんなことって……!」


《でも、輪廻すると人の記憶は失われてしまうの。だから同じ魂であってもエルマーとは別人なの》


「そんなの関係ないわ!エルマー兄さんの魂が私の傍にある……私にはそれだけで充分よ!」



 上気した顔を隠そうともせずそう言い切ると、グウェンさんは僕に駆け寄り抱き着いてきた。



「グ、グウェンさん!?」


「ごめんなさい……でも今だけ……今だけは私のエルマー兄さんでいて……お願い!」



 彼女の喉から嗚咽が漏れ、その両瞳から滂沱として流れ落ちる涙が僕の服を濡らしていく。



「兄さん……!兄さん……!ごめんなさい、私のせいで……!」

「ずっと会いたかった……!一人ぼっちで寂しかった……!」

「兄さん……!ううっ……」



 グウェンさんが泣きながら語る言葉に耳を傾けつつ、僕はどうすることもできずにただ抱きしめられていた。



《んもー、シモン様ってば積極性が足りないの。男ならそこで抱きしめ返してブチュッと……》


《ステラ、頼むから空気を読んでくれ》




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 そのまま暫くして漸く感情のうねりが落ち着いたグウェンさんは、小声で「ごめんなさい」と一言呟くと、長い耳の先まで真っ赤にしながら僕から離れていった。


 どうしよう、グウェンさんが可愛い。いつも張り詰めていた表情からはすっかり険が抜け落ち、今の彼女はまるで少女のような可憐さだ。なんだか僕の顔まで赤くなってきた。


 僕とグウェンさんの間に少し微妙な空気が漂ったが、ステラはそんなのまったくお構いなしで話を続ける。



《で、あとは何を説明すればいいのー?》


「あ、ああ。それじゃ例の傷のことを教えてよ。僕が預けた力ってのもそれに関係してるんでしょ?」


《あーアレね。シモン様も薄々分かっているとは思うけど、あの傷は呪いの傷なんかじゃなくて()()。聖なる守護の祝福が与えられたことを示す()なの》


「聖痕って、ステラに噛みつかれた時についた歯形と同じやつ?」


《分類としては同じだけど、グウェンの傷はあんなのよりもずっと強力な()だったの。もうすぐ聖人に手が届くほどの善行を積んでいたエルマーが、自分の命と〝聖なる力〟のすべてを捧げて作ったもの。だからこそ、あのダンテすらグウェンには手が出せなかったの》


「やっぱりエルマー兄さんは私を呪ってなんかいなかったのね……」



 グウェンさんの目からまた涙が零れ出す。

 しかしその〝聖なる力〟ってのは何なんだ?



《〝聖なる力〟は聖人の力の源。シモン様の魂が持っていた〝聖なる力〟は、エルマーとしての命が尽きた時に全てグウェンの聖痕へと移されたの。だから、ぶっちゃけ今までのシモン様は()()()も同然だったの》


「ぬ、抜け殻……」



 あまりにも酷い言い様に、もはや言い返す気力すら湧いてこない。


 前々々世の僕がグウェンさんに聖痕として遺したのが聖人の力の源である〝聖なる力〟であり、それが〝聖人の奇跡〟を通じて僕の許に戻ってきた。そして僕は聖人本来の力を発揮できるようになった……ってことか。



「横からごめんなさい。シモンのオーラと額の紋章も、その〝聖なる力〟のせいで現れたの?」



 そういえば、僕の身体はさっきからずっと虹色のオーラに包まれたままだし、額の中心にも太陽の紋章が燦然と輝いている。

 ……ちょっと待って、これ消せるんだよね?ずっとこのままの見た目で生きていくとか罰ゲームでしかないんだけど。



《その通りなの。ちなみにそのオーラは聖人が邪悪を滅するときに発現するもので〝聖戦の衣〟と呼ばれるものなの。それを纏っている間は、自分より魂の位階が低い相手からの攻撃は全て無効化されるの》


「それ反則過ぎない!?」



 攻撃無効化って、物理攻撃も魔法攻撃もすべて?それって()()っていうんじゃないかな?

 ……いや、魂の位階が僕以上の相手からの攻撃は通るのか。でも、聖人よりも上の位階にいる奴ってどんな化け物なんだ?


 とにかく一つだけハッキリしているのは、これで僕がまたまた一歩人間から遠ざかったということだ。ちくしょう。



《そしてその額の紋章は、シモン様が聖人であることをアピールするだけの只の飾りなの》


「ええええ、只の飾り!?これが!?」


《そうなの。これといって特別な機能はないの。あ、でも夜道を歩く時なんかは重宝するかもしれないの》



 そりゃこれだけ光ってれば足元もバッチリだよね!……って、そうじゃないよ!

 〝聖人の額に浮かび上がる紋章〟なんて如何にもファンタジー的な要素なのに、それが只の飾りってどういうことなの?もっとこう……あるだろう!?



《あ、シモン様。眩しいからそろそろ消してほしいの》


「え、これ消せるの!?」


《消えろって念じればオーラも紋章も消えるの》


「消えろ消えろ消えろ──よかった、消えた!助かった……!」



 軽く念じただけで虹色のオーラも額の紋章もあっさりと消え失せ、無事に元の自分の姿へと戻ることができた。よかった、あのままじゃ歩く安眠妨害だったよ……。



《という訳で、説明はおしまいなの!シモン様は強くなったしグウェンの復讐も終わったし、八方よしの万々歳なのー》


「いや、ちょっと待って。説明してほしいことがあと一つだけある」


《ん?》


「あのダンテって奴は、一体何者だったの?」



 ダンテ自身は自らが悪魔であることを否定し、元は古代レムリア王国に生きる人間だったと言っていた。

 でも、悪魔でも人間でもないのなら、あいつは一体何者だったんだ?

 聖人のことも妙によく知っていたのも気になるところだ。



《んー……悪いけど、それを教えるのはまだ早いの》


「今教えると、例の〝約束の未来〟って奴に影響が出るとか?」


《……今は何とも言えないの。ただ、あいつが人間でも悪魔でもないという話は本当なの》


「そうか……分かったよ。色々教えてくれてありがとう」


《……無理に聞こうとは思わないの?》


「本当に必要になったら教えてくれるんだろうし、それまで気長に待つよ。どうせステラとはこれからも長い付き合いになるんだろうしさ」



 なんたって僕専属の守護天使だもんなあ。僕が天に召されるその時まで、この子はぴったりとくっ付いてくるに違いない。

 もはや僕にとってステラは守護天使というよりも家族みたいなイメージだ。差し詰め、手のかかる妹ってとこかな?



 なんにせよ、ディアボロとの長い戦いもこれでお終いだ。

 苦労の末に目的を達成した僕たちを、満ち足りた気分が包んでいる。


 謎に包まれたダンテの正体。

 そして、そのダンテが自らの眼球を送った相手。

 まだまだ今回の件に関わる謎は残されている。


 でも、そんなのはひとまず後回しでいい。皆でモルトの家に帰ってひと休みしよう。

 柔らかいベッドでひと眠りしたら、僕たちの無事とグウェンさんの大願成就を祝ってパーティでも開こうか。大食らいのステラがいるから、帰りがけに食材をたくさん買い込んでおかなきゃな。さて、そうと決まったら早速転移門(ポータル)を開いて──



《シモン様、帰る前にやるべきことが残ってるの》


「へ?やるべきこと?」


《シモン様とダンテが街中で戦ったせいで、ヴァレリアの街が滅茶苦茶なの。ここの領主様への報告とか街の復興作業の手伝いとか、きちんと後始末をするまでは帰れないの》


「うっ……こんな時に限ってステラが正論を……」



 その後、ヴァレリアの冒険者ギルドに事情を説明して領主様への報告を頼んだり、街の復興のために少なからぬ義捐金を包んだり、飛び散った瓦礫で怪我を負った人々を祝福の力で治癒したりと慌ただしく動き回っていたら、あっという間に日が暮れてしまったのであった。


 つ、疲れた……。

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