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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第3章 聖人シモンと精霊姫の復讐
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第3章 13話 監獄不足

 グウェンさんが過去を語ってくれた日から一夜明け、僕たちは朝食のテーブルを囲みつつ今日の予定について話し合った。



「各地の拠点を回るのは明日からにしましょう」


「どうして?」


「そろそろオールストン伯爵の許に国王陛下からの報せが行ってる頃合いですから」



 国王陛下に謁見した際、ディアボロの連中を捕えたら伯爵様に引き渡して裁きを受けさせるよう申し渡されている。となると、伯爵様とは早いうちに今後の行動をすり合わせておいたほうがいい。



「約束もしてないのに、領主様が会ってくださるかしら?」


「普通なら非礼にあたるんでしょうけど、あの人なら多分大丈夫ですよ」



 オールストン伯爵自身も温厚な人だし、奥方のセルマ様に至ってはお忍びで街に繰り出すこともしばしばというくらい気さくな人だ。急な訪問に目くじらを立てるようなことはないだろう。



《えー、なんだか面倒なの。悪い奴らなんか、片っ端から叩き殺しちゃえばいいの》


「天使のくせに発言が不穏当すぎない!?」


「でも、国王陛下からは『賊の生死は問わない』ってお墨付きを頂いてるんでしょう?」


「グウェンさんまで……。言っときますけど、それは最終手段ですからね。基本的には捕縛する方向でお願いしますよ」



 ウチの女性陣はなんでこうも攻撃的なのか……。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 オールストン伯爵の屋敷を訪ねると、すぐさま出迎えのバーナードさんが駆け寄ってきた。



「バーナードさん、こんにちはー」


「シモン様!それにグウェン様も!よかった、ちょうどお二人に使いを出そうとしておりました」


「ということは、もう国王陛下からの使者が見えられたんですか?」


「お察しの通りです。ささ、中へどうぞ。主人がお待ちです」



 伯爵の屋敷にお邪魔するのはこれで何度目だろう。すでに見慣れた感すらある応接間に通されると、オールストン伯爵、セルマ婦人、パトリシアお嬢様の御三方が揃い踏みで僕たちを待っていた。



「やあ、シモン君。よく来たね」

「いらっしゃい。新しい家はどう?」

「シモン様、お久しゅうございます」



 オールストン伯爵とセルマ様はにこやかにこちらを手招きし、パトリシアお嬢様は可愛らしいカーテシーで僕たちを出迎えてくれた。バーナードさんは音もなく部屋から出て行き、お茶の支度に向かう。



「本日は急に推し掛けてしまい申し訳ありません」


「いや、構わないよ。こちらも丁度君たちに用があったところだ」


「僕らが追っている犯罪者の引き渡しの件ですよね?」


「それだ。昨日陛下から使いが来て、ひと通りの話を聞かされたよ。我が国にそのようなならず者が根を張っているなど、許し難いことだ」



 オールストン伯爵の表情に怒りが滲む。

 伯爵様は領民に優しい反面、悪人に対しては滅法厳しいと定評のある人だ。領内ではいつも衛兵が厳しく悪事を取り締まっている。しかし、その伯爵様の領地にすらディアボロの拠点が複数あるのが現実なのだ。


 夫の勘気をとりなすかのように、セルマ様が悪戯っぽい笑みを浮かべつつ話を継いだ。



「それにしてもシモン君は人が悪いわね。陛下とそんな話をしていたなんて、こないだウチに来たときは一言も言ってなかったじゃない」


「すみません。頂戴した新しい家に舞い上がってしまって、他のことが頭からすっかり抜け落ちてしまってました」


「あら、モルトの英雄様がそんなことではいけないわね」


「英雄?まさかそれって僕のことですか?」


「ええ。貴方、この街じゃちょっとした評判になってるわよ。『グローヴ子爵のご子息を悪魔から救った若者がパナシエと王都でも功績をあげて、一気に銅級冒険者にまで駆け上がった』って」


「そんな噂が!?……いやしかし、耳が早すぎませんかね?銅級の認定をいただいてから、まだ半月と経ってない筈なのに」


「まあ、その辺は私も積極的に触れ回ってるから」


「セルマさん!?」


「当然でしょう?領民を安心させるためにも、地元にいる優秀な冒険者の存在はどんどん広めなくちゃね」



 そう言って片目をつぶって見せるセルマさんに、僕は何も言えなくなってしまう。なんというか、一生かかってもこの人には敵いそうにないな……。



「──で、今日は今後の話をするために来たんだろう?」


「はい。あと1週間程度でこちらの下準備が終わるので、オールストン伯爵にはそれまでに犯罪者達を収監する準備を整えて頂きたいのです」


「ふむ。して、どの程度の人数を想定すればよいのかな?」


「それについては私から説明いたします」



 オールストン伯爵の質問を受け、グウェンさんが前に出る。ディアボロの組織構成については、彼らを長年調査してきた彼女が一番よく知っている。



「敵の拠点は60箇所。それぞれ規模の大小はありますが、各拠点ごとに10~15人程度の人員がいると思っていいでしょう」


「なんと……。つまり、その全てを捕縛したら600~900人にもなるということか」


「はい。それだけの人数を収監する設備と、それらを監視する看守が必要になります」


「ううむ、参ったな。この街の地下牢に収容できるのは、せいぜい300人がいいところだ。しかも、そのうちの半分ほどが既に埋まっている」


「この国にそれほど巨大な犯罪組織があるなんて……」



 オールストン伯爵が頭を抱え、パトリシアお嬢様は絶句する。

 しかし、セルマ様だけは余裕の表情を崩さなかった。



「まあ、なんとかなるんじゃないかしら」


「セルマよ、何を根拠にそのような……」


「だって、シモン君が何の考えもなしにこんな話を持ってくる訳がないでしょう?」



 セルマ様はそう言うと、期待するような視線を僕に送ってくる。いや、本当に敵わないな。



「はい。僕の魔法なら監獄を地下に拡張できると思います」


「魔法で?一体どういうことだ?」


「伯爵様、説明するよりも実際にやってお見せした方が早いかと。つきましては、どなたかに監獄まで案内をお願いしたいのですが」


「それなら主人と私が同行するわ」



 横から即座に言い切ってみせたセルマ様に、僕と伯爵様は揃って仰天した。



「おい、セルマ……」


「領主様ご夫婦が監獄に出向かれるというのは流石に──」


「あら、監獄の増築に許可を出せる人間が私たち以外にいるの?」


「…………」

「…………」



 言い返せずに沈黙する僕たちをよそに、セルマ様はさっさと召使を捕まえて外出の支度を始める。



「伯爵様……」


「シモン君、諦めよう。我々には最初から勝ち目などない」



 僕と伯爵様は少し目を見合わせ、どちらからともなく苦笑を漏らし合った。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 伯爵夫妻と僕たちは揃って街の監獄にやってきた。

 領主様の思わぬ訪問を受けた獄長が、直立不動で出迎える。



「ご訪問いただき光栄に存じます。本日はご視察にございましょうか?」


「いや、今日はここを拡張するために来た。近々大量の犯罪者を収監することになるのでな」


「拡張……というと、今から工事を始めるおつもりですか?しかし、その割には随分と人手が少のうございますが」



 獄長は僕たちの顔を見渡しながら首を傾げた。

 その疑問に答えたのはセルマ様だ。



「それはこの子が魔法でやってくれるわ。貴方も噂くらい聞いてるでしょ?目覚ましい活躍で一気に銅級冒険者まで駆け上がった、この街の小さな英雄の話を」


「なんと!?ま、まさかこの少年が〝悪魔殺し〟のシモン様なので!?」


「ええー……本当に知ってるんだ……」


「この街の者なら誰でも知ってますよ!ウチの娘も貴方の大ファンでしてね。今日こうしてお会いしたことを話したら、さぞかし羨ましがるでしょうなあ。それに、よく見ると隣のエルフの女性の顔の傷……まさか貴女は〝精霊姫〟グウェン殿では!?まさか銅級冒険者のお二人と一度にお目にかかれるとは!こりゃ一生分の幸運を使い果たしたかもしれませんな!」



 獄長さんは上機嫌でそう捲し立てた。

 この街で僕のことが評判になってるってのは冗談じゃなかったのか。セルマ様、一体どれだけ触れ回ってるんだ……なんだか心配になってきた。



《シモン様に女性ファン……これは寂しい独り身生活から卒業するチャンスなの!》


《いきなり失礼だな!今はグウェンさんと一緒に暮らしてるから、少なくとも独り身生活じゃないだろ!?》


《昨日グウェンから『結婚は無理』って言われたのを忘れたの?》


《僕がプロポーズして断られたみたいな言い方はやめて!!》

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