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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第3章 聖人シモンと精霊姫の復讐
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第3章 09話 苦い記憶

 ディアボロが王都の地下に構えた拠点の薄暗い通路を、僕が先頭に立ってそろそろと進んでいく。以前潜入したダナンの拠点よりもかなり広く、網の目のように入り組んだ通路がどこまでも続いている。



《かなり複雑な造りになってるのね……迷ってしまいそうだわ》


《大丈夫ですよ。さっき先に入っていったダナンのボスの気配を辿ってますから》



 ダナンのボスは僕たちの10メートルほど前を歩いている。今のところ僕らに気付いたような様子はない。



《それにしても広いな……地下に降りてからもう30分は歩いてるぞ》


《ここって地上だとどの辺りなのかしら?》


《この上は王様のお城なの》


《えっ……ってことは、ここって王城の地下なの!?それが本当なら大問題だよ!》



 王城の地下に通路が張り巡らされている……それはつまり、城内のどこにでも組織の連中が顔を出せるということだ。当然、機密など筒抜けだろうし、下手をすれば城内の誰かが連中に誘拐されて、地下に引きずり込まれる可能性すらある。まさに国を揺るがす一大事だ。



《この分だと、城の中にもディアボロの息がかかった奴がいるかもしれないわ》


《そうですね……この件、僕が思ってたよりもずっと根が深そうです》



 病巣が国の上層部にまで伸びていたらかなり厄介だな。僕らが必死で組織の連中と戦っている間に、国の偉い人から背中をぶっすりと刺されたりしたら堪らない。



《誰が敵だろうと、どのみちシモン様が全員殲滅するんだから関係ないの。さあさあ、二人ともきりきり歩くのー》


《ステラにかかると、国家の大問題すらエラく簡単な話に思えてくるよ……》



 それから程なくして、ダナンのボスが通路の突き当りにある扉を開け、その中へと入っていく。開け放たれた扉の奥からがやついた喧騒が微かに聞こえてくるが、扉が閉まると元の静寂が戻ってくる。



《あの扉の奥が月例会の会場みたいですね》


《よーし、カチ込みかけて殲滅するのー》


《違う!今回は様子見だけって言ってるだろ!》



 不満そうなステラを無視して扉に張りつき聞き耳を立てると、中の話し声が漏れ聞こえてくる。



「ダナンの。景気はどうだ?」


「おお、アバーテの。久しいな。こっちはまあボチボチってとこだ」


「ウチはサッパリだぜ。今月に限りゃ、()()()になりそうなのは1人か2人ってとこだな」


「そいつぁ厳しいな。()()()()()()は大丈夫か?」


「勿論それは別枠さ。お前のとこだってそうだろ?」


「まあな」



 こいつらの言う売り玉ってのは攫った子供達の事か?くそっ、人を商品扱いしやがって!



《売り玉……》



 ポツリとした呟き声に隣を見ると、グウェンさんが蒼白な顔で硬直していた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ──ああ、またここか。

 何度も繰り返し夢に見た風景。

 冷たく色のない世界。



 物言わぬ骸の傍に、幼いグウェンはへたり込んでいる。

 その周りを堅気とは思えない風体の男たちが取り囲んでいた。


 男たちの手は血に染まっている。

 それはグウェンにとって一番大切だった人の血。

 生々しい傷をグウェンの顔に刻み付けていった人の血。


 その無残な切り傷から流れ出た血が、彼女の服に沁み込んでいく。

 それを見た男たちは、焦りに満ちた様子で怒鳴り合う。



「おい、早くこいつの顔の傷を治せ!」


「駄目だ、治癒魔法が全く効かねえ!何なんだこの傷は!」


「御託はいい。ボスの怒りを買いたくないなら早く何とかしろ!」


「へ、へい!おい、街一番の治癒師を連れて来い!」


「……ちっ、これじゃボスへの手土産どころか、売り玉にもなりやしねえぜ」



 男が苛立たし気に吐き出した唾がグウェンの顔を汚す。

 しかし、もはやグウェンには全てがどうでもいいことだった。

 刻々と流れ出ていく己の血の温もりさえも──




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




《……グウェンさん?》


《!》



 僕が声をかけると、彼女は少しビクッとして硬直する。



《大丈夫ですか?少し震えてましたよ》


《……大丈夫よ》



 彼女は僕から目を逸らし、また扉の向こうに聞き耳を立て始めた。


 グウェンさんは銅級認定を受けた腕利きの冒険者。

 それなのに──その時の彼女は、何かに怯える小さい女の子のように見えた。

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