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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第2章 聖人シモンと王都の大賢者
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第2章 21話 オールストン伯爵の御礼

 天界の玉座にある創造神がふと眉をあげる。



「ステラエルか」


「はい。報告にあがりました」


「シモンがまた力を伸ばしたか」


「ええ。ステータスを大幅に伸ばしただけでなく、根源魔法にまで辿り着きました。もっとも、本人はとても嫌がっていますが」


「変わった奴じゃのう。力を嫌うなら、人助けなんぞやめてひっそり生きるという道もあるじゃろうに」


「たとえ自らの身がどうなろうと、目の前の人が苦しみ悲しんでいれば手を差し伸べずにはいられない──彼はそういう人間です」


「ふむ……あれを長年見てきたお前が言うからには、そうなのであろうな」


「…………」



 ステラエルは否定も肯定もしない。

 彼女にとって、今さら答えるまでもないことだからだ。



「しかしステラエルよ、本当にお主はこれで良いのか?」


「はい」


「今ならまだ取り返しがつく。お主が望むならシモンの魂だけでも引き上げてやって──」


「熟考を重ねた上で決めた事です。今さら曲げるつもりは御座いません」


「……そうか」


「それでは、引き続き任務にあたります」



 ステラエルの姿が薄れるように消えていき、溜息をついた創造神の口から独り言が漏れた。



「──ステラエル、お主も相当の変わり者じゃ」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




《シモン様ー、朝なの!朝ごはんの時間なの!》


《……んあ?もうそんな時間……って、まだ日が昇り切っていないじゃないか!もう少し寝かせてよ!》


《駄目なの。ステラはもうお腹ペコペコなの》


《ぐふぉっ、ちょ、腹の上で飛び跳ねなるのはやめて!分かった!起きる、起きるから!》



 早朝に腹を空かせて給餌人を叩き起こすとか、もはや完全に猫の行動だろこれ……。


 まだ眠い目をこすりながらベッドから這い出した僕は、朝食の支度を始める。師匠からお裾分けしてもらった食材が収納の指輪に沢山入っているので、今日はかなりまともな料理を作れそうだ。でも、師匠の家に比べると調理器具が貧弱なんだよなー。お金はあるわけだし、今後の事(主にステラの食欲)を考えたら色々と買い足しといたほうがいいのかも。



《ステラー、朝食ができたよ》


《いやっふー!ん?シモン様、この黄色いパンは何なの?》


《そのまま食べるのは味気ないから、卵と砂糖を溶いたミルクに漬けてからバターで焼きあげてみたんだけど、どうかな》


《ん!甘くて美味しいの!これ凄いの!》


《ちゃんとスープも食べてね。今日はコーンと鶏肉をミルクでじっくり煮込んだポタージュだよ》


《はわ~……ステラは幸せなの》



 ステラがパンを10枚ほど食べたところで漸く朝食が終わり、満腹になって落ち着いた僕たちは今後のことについて話し合う。



《まずはグウェンさんに繋ぎをつけなきゃ。でも、肝心の連絡手段を決めてなかったんだよなあ》


《伝手はあるの?》


《ギルドに頼めば連絡がつくと思う。あとは孤児院に行ってみるくらいかなあ》



 銅級冒険者のグウェンさんには、ギルドから指名依頼が出されることがある。となれば当然、ギルドの側ではその所在を把握している筈だ。あとは彼女の育った場所でもあるモルトの孤児院に姿を現すかもしれないが、こちらはちょっと望みが薄い。



《というわけで、まずはギルドに行こう》


《おっけーなの。じゃあシモン様はさっさと支度するの。兵は神速を貴ぶの》


《それは戦争の時に使う言葉だよ!それに、こんな時間じゃまだギルドは開いてないよ》



 ギルドが開くのはどんなに早くとも日が昇った後だ。こんな朝早くから開いてるわけがない。腹を空かせた誰かさんに叩き起こされてなければ、僕だってまだ寝ていたはずの時間なんだから。



《ふーん。それじゃあ仕方ないの。ベッドに戻って二度寝するの》


《食べてすぐ寝ると太るよ?》


《天使は太らないの!》



 本当かなあ。既に脇腹の辺りがぷよぷよしてるような気が……うん、すっごく怖い顔して睨んでるから、あんまし見ないでおこう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 その後、結局二人揃って二度寝を満喫していまい、ギルドにやってきたのはすっかり日が昇り切ってからのことであった。

 ギルドの受付では相変わらずギルドマスターのアーロンさんが駄弁っており、目ざとく僕を見つけて声をかけてきた。


「お、シモンじゃねえか。大賢者様のとこに弟子入りしたって聞いてたが、どうしてここにいる?休暇でも貰ったのか?」


「ご無沙汰してますアーロンさん。修行が終わって戻ってきたんですよ。またこっちで仕事させてもらいますから、よろしくお願いします」


「修行が終わった?おいおい、冗談言っちゃいけねえ。お前が王都に旅立ってから、まだひと月も経ってねえだろうが」


「アーロンさん、これを見てくださいよ」



 僕は胸のあたりに着けた銅製のバッジを指し示す。



「お前、もう銅級冒険者に!?ってことは、この短期間で本当に身体強化を身に付けたのか!信じられねえ奴だな、おい!」


「痛い!そんな思いっきり背中を叩かないでくださいよ!」


「悪い悪い、つい嬉しくてよ。自分とこの冒険者が出世するってのは、やっぱり良いもんだぜ」



 なんだか母ちゃんみたいなこと言うな、この人。



「そんなことより、最近グウェンさんは顔を出してませんか?依頼されてることがあるので、できるだけ早く会いたいんですけど」


「んー、ここ1週間は見てねえな。よし、顔を出したらお前が探してるって伝えておいてやろう」


「お手数かけます」



 とりあえず、グウェンさんの件についてはこれ以上やれることがない。今後二人で組んで動くことを考えると、通信用の魔道具でも作っておいたほうが良さそうだな。



「おっと忘れるところだった。シモンよ、領主様がお前に会いたがってるぞ」


「オールストン伯爵が?」


「ああ、お前が顔を出したら屋敷に寄越すようにと仰せつかってる。暇なら今からでも行ってきたらどうだ?」


「分かりました。早速行ってみます」



 伯爵が僕に何の用だろう?悪魔の件は解決したし、特に急ぎの用事なんか無いはずだけど。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 伯爵の屋敷に着き門番に訪いを告げると、家宰のバーナードさんが急ぎ足で出迎えにやってきた。



「シモン様、お久しぶりに御座います」


「バーナードさんこんにちは。お呼びとのことで伺いましたが、一体どういった用件でしょうか」


「詳しくは主人より話があるかと。さあ、こちらへどうぞ。皆様がお待ちです」



 バーナードさんの案内で居間に通されると、ソファに落ち着いていたオールストン伯爵と奥方のセルマ様、さらにお二人の一人娘であるパトリシアお嬢様が立ち上がり、笑顔で僕を迎えてくれた。



「シモン君、久しぶりだね。大賢者様の修行はどうだい?」


「ご無沙汰しております伯爵様。お陰様で、修行は無事に終わりました」



 アーロンさんの時と同じように、胸の銅バッジが皆さんの目に入るようにする。



「なんと、もう銅級冒険者になったのかい!?ついこの間、修行を始めたばかりじゃないか!」


「シモン様、凄いわ!」


「いえいえ、全ては大賢者様の御指導の賜物です」



 オールストン伯爵とパトリシアお嬢様からやたら大袈裟に騒がれて照れ臭くなった僕は、とりあえず師匠に手柄をなすりつけておいた。二人ともそれをすっかり信じ込み、「流石は大賢者様!」と師匠のことを持て囃している。うん、無茶な話を信じてもらうには師匠の名前を出すのが一番だな。



「いや驚いた。間違いなく銅級認定の最短記録だろう。しかし、セルマは驚いていないようだが」


「ええ、多分こうなるだろうと思っていましたから」



 セルマ様はまったく動じることなく、こちらに意味ありげな視線を送っている。この人、一体どこまで見通してるんだろう……。



「と、ところで、私を呼ばれたのは一体どのようなご用件でしょうか?」


「ああ、例の悪魔の件の礼がずっと延び延びになっていただろう?それを渡したくてね」



 オールストン伯爵が目配せをすると、セルマ様がこちらに何かを差し出してくる。



「これは……?」



 それはこれといって特徴のない銀色の鍵だった。

 え?悪魔退治の報酬がこの鍵?いや、そもそもこれって何の鍵なの?



「モルトの街で空き家が1軒出たの。それはその鍵よ」


「空き家……?」


「私達からの御礼はその家よ。気に入ってくれるといいんだけど」


「えええええええええ!???」

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