第2章 20話 聖人の帰還
「それでは、こちらが銅級の認定証となります」
「おおお、これが……」
「ほう、銅級か。久々に見たのう」
謁見の翌朝早くに呼び出しを受けた僕は、師匠とともに王都の冒険者ギルドに顔を出したのだが、なんと銅級冒険者の認定証が既に出来上がっているというので驚いた。国王からの承認が下りたのはつい昨日のはずなのに。
「いえ、認定証自体は既に準備していたのですよ。功績の大きさからいって、承認が下りるのは分かっていましたから」
「そうなんですか……バレンタインさん、ありがとうございました」
ギルドマスターのバレンタインさんから受け取ったのは銅級冒険者の認定証と銅製の認定バッジ。この認定バッジは銅級冒険者であることを示すものであり、裏側には僕の名前が彫られている。冒険者ギルド秘伝の魔法で刻まれた、偽造防止のための刻印だ。
この認定バッジを着けている者は超国家的な存在と見做されることになり、大陸中の国に自由に入国することができ、特定の国に税を納める必要もなくなる。その代わり、何らかの重大な危機が発生した際には指名の強制依頼を出されることがあり、正当な理由なくそれを拒否すると認定証剥奪の憂き目に遭うことになる。
しかし、冒険者になってから2ヵ月も経っていない僕が銅級冒険者とは自分でも驚きだ。といっても、全ては神様から頂いた祝福の力があっての事なので、大っぴらに自慢できるような話ではないんだけど。
「これでシモン様はモルトに戻られるんですか?」
「はい、荷物も指輪に収納してきましたし、このまま発つつもりです」
「シモン様がいなくなるのは寂しいです……」
バレンタインさんとの話に割り込んできたのはノーラさんだ。僕に話しかけながらも、その横にいる師匠には決して視線を向けようとしないあたり、〝暴君〟の異名を余程恐れているのだろう。
「師匠にも色々とお世話になりました」
「師匠と呼ばれる割に、あまり大したことは教えられんかったがのう。むしろ毎日美味いものを食えたワシの方が礼を言わねばならんわい」
そう言って照れ臭そうにする師匠の手を半ば強引にとって握手をする。
この人がいなければ身体強化……もとい、仙術を身に付けることはできなかっただろうし、転移魔法をはじめとする数々の魔法を学ぶこともできた。老いてなお盛んなマッドサイエンティストというどうしようもない側面もあるが、僕にとっては間違いなく大恩人だ。ここで学んだことは、モルトに戻ってからのグウェンさんとの仕事においても大いに助けになるだろう。
「それでは、師匠、バレンタインさん、ノーラさん。お世話になりました」
「うむ、またいつか戻ってくるのじゃぞ」
「王都に来たときは必ず顔を出してください」
「さようなら、シモン様!」
ギルドの入り口まで見送ってくれた3人に手を振りつつ、僕は王都を後にした。
いい街だったな。なんだかんだで師匠にはお世話になったし、バレンタインさんもノーラさんもいい人だった。王様には今後色々と助けてもらうことになりそうだ。色々なことが落ち着いたら、また皆に会いに王都に戻ってこよう。
でも、その前にグウェンさんとの約束を果たさなきゃ。さあ、目指すは故郷モルトの街。グウェンさんと一緒に犯罪組織を壊滅させるという大仕事が僕を待っている!
《感傷に浸ってるとこ悪いんだけど、転移魔法を使えばあっという間だと思うの》
《あ、言われてみれば……目標、森の自宅!転移門!》
空中に開いた転移門をくぐると、そこは勝手知ったる森の我が家。
生家の雰囲気が作り出す圧倒的な生活感の前には、もはや王都を離れる感傷や旅の情緒などあったもんじゃなかった。
《ほんと魔法って凄いよね。森で狩人をやってた時はこんな事をできるようになるなんて思いもよらなかった》
《空間魔法を長年研究してきた大賢者のお爺ちゃんに感謝なの》
《うん……そうだね……》
《ん?シモン様どうしたの?》
《いや、その〝空間魔法〟っていう括りに疑問があるんだよ。頭の中で作ったイメージに魔力を流して発動させるって点では、どんな魔法でも同じなわけでしょ?》
師匠の書庫で読んだ本には、信仰がなくても神聖魔法や暗黒魔法を使えるって書いてあった。つまり、これらの魔法も恐らくイメージと魔力次第で誰でも発動できるものであり、神への信仰は魔法の効果をイメージしやすくするための触媒に過ぎないんじゃないだろうか。それに、魔法が今のような体系に分かれたのは古代王国の中期。ということは、それ以前の魔法は特に細分化なんてされてなかったわけで──
《つまり、どんな魔法であっても原理としては同じものなんじゃないかなあ……なんてね》
《シモン様、正解!》
《へ?》
【放出系魔法の全技能 が 根源魔法 に昇華しました(Lv75)】
《えっ、ちょっと待って!今何か出たんだけど!?》
《さあ、このままステータスチェックになだれ込むのー》
《人の話を聞いて!?》
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名 前:シモン
種 族:人間(聖人)
性 別:男
年 齢:18
生命力:12 (+654314)
魔 力:14 (+654298)
筋 力:11 (+654409)
体 力:12 (+654418)
精神力:17 (+654089)
知 能:12 (+654162)
感 覚:15 (+654213)
器用度:16 (+654132)
敏捷度:14 (+654427)
祝 福:聖人の奇跡 星の銀貨
技 能:仙術Lv35
根源魔法Lv75 付与魔法Lv32
剣技Lv9 槍技Lv1 弓技Lv6 格闘技Lv36 盾技Lv1
物理耐性Lv4 石化耐性Lv16
魅了耐性Lv16 混乱耐性Lv16 恐怖耐性Lv16
狂化耐性Lv10 毒耐性Lv20 麻痺耐性Lv16
気配探知Lv58 危険感知Lv32 隠密Lv12 解体Lv8
地図作成Lv14 罠解除Lv7 開錠Lv5
料理Lv54 交渉Lv2 推理Lv4
称 号:悪魔殺し 魂の救済者
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《…………おかしい。絶対におかしい。何かが間違っている》
《シモン様、落ち着いて。残念ながらこれが現実なの》
《これが落ち着いていられる!?今回はトマ村の30人しか助けてない筈なのに!》
そう、ステータスが上がり過ぎている。
いや、吸血鬼による未来の被害を防いだことになる訳だから、トマ村の生存者30人だけでなく、それ相応の上積みがあるのは覚悟してたんだ。しかし、パナシエの一件で3万以上の命を救った時よりもステータスの上り幅が大きいってのは明らかに変だ。神様、これ計算ミスじゃないですかね!?
《今回、シモン様は不死の呪いに侵された魂を沢山救ったの。シモン様のお陰で、彼らは輪廻して別の人に生まれ変われるの》
《えっ……ひょっとして、あの吸血鬼達もカウントされるの!?》
《当たり前なの。大量の魂を救ったことで称号も追加されてるの》
うわ、本当だ。〝魂の救済者〟とかいう大仰な称号が付いてる……。
いやいや、それにしたって吸血鬼の数は5千程度だった筈だ。それだけじゃまだ足りないぞ!
《本来なら不死の魔物の魂を救済するなんて不可能なの。だから凄くレアな称号なの》
《いや、特にレア度とか興味ないんだけど……》
《さらに言うと、あの地下迷宮はもう吸血鬼で溢れる寸前だったの》
《うん、そりゃそうだろうね。10歩歩けば吸血鬼って感じだったし》
《あのまま事が進めば、外に溢れだした吸血鬼が王都に押し寄せて、さらに大勢の犠牲者を出していたところだったの》
《ええーー…………》
確かに、吸血鬼の呪いに侵されたトマ村の人達も、迷宮に居着くことなく村に戻ってきてたもんな。あの時点で、既にあの地下迷宮は飽和状態になっていたのかもしれない。
でも、それにしたってこんな数字になるもんかね?ちょっと計算してみよう。
まず、吸血鬼の数だけで5千人、その吸血鬼が1人あたり5人の命を奪うとしたら、被害者の数は合計2万5千人。この両者を合わせると3万人……うん、案外妥当な数字かもしれない。
いやでも、絶対に納得はできないけども!
《というわけで、シモン様が救った人の数は、今回で延べ65438人になったの!おめでとさんなのー!》
《めでたくない!ちっともめでたくないんだよ!それに、技能のレベルだって色々とおかしくない!?》
《ちっとも変じゃないの。まず、シモン様はこっそり不老の術を使ってるから、仙術のレベルが上がってるのは当然なの》
うっ……気付いてたか。仙術を習得してからというもの、なんとなく氣を練り続けてるんだよな。だってほら、〝不老〟ってなんとなく憧れるじゃない?普通に歳をとって死にたくなったら、その時点で氣を練るのをやめればいいわけだし!
《…………ま、まあそれはいいとして、この〝根源魔法〟ってのは一体何なのさ?これ以外の魔法技能がごっそり消えてるのも気になるんだけど》
《ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれたの。〝根源魔法〟とは全ての魔法の原点にして究極!これまで身に付けてきた魔法なんて〝根源魔法〟から派生した枝葉に過ぎないの。太古の昔、人間が神の御業を模倣して作り出した技能。それこそが〝根源魔法〟なの!》
ステラは得意満面の表情でビシッと熱いポーズを決めてみせる。しかし、残念なことに僕の気分は冷え込む一方だ。
《いや、神の御業だなんて、まさかそんな大げさな…………勿論、実際は別物なんだよね?》
《うーん……頭で考えたことをそのまま実現できるという意味では、確かに近しいものかもしれないの》
《そこは嘘でも否定して欲しかった……ッ!》
〝原点にして究極〟だとか〝神の御業〟だとか、これもう明らかにヤバいやつじゃないか!しかも天使のお墨付きとか、本当に有難迷惑なんですけど!
《というわけで、シモン様はこれでまた一歩人間から遠ざかったの》
《遠ざかった先には何があるんだろう……》
《迷わず行けよ。行けばわかるさ!》
《いや、どこにも行かないよ!?ていうか、それ誰のセリフ!?》




