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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第2章 聖人シモンと王都の大賢者
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第2章 13話 王都への帰還

 僕たちが地下迷宮から出てくると、外は既に深夜だった。森に住まう獣たちも寝静まっているようで、耳に聞こえてくるのは梟の囀りと虫の声だけだ。



飛翔(フライト)



 僕は魔法で空高く舞い上がり、王都の方角に向かって滑空を始めた。その後ろから、ステラがしっかり付いてくる。



《もう遅いし、ギルドに行くのは明日の朝にしようか。トマ村の人たちも寝ちゃってるだろうし》


《それがいいの。今日のシモン様はたくさん働いたの。今夜はゆっくり休んだほうがいいの》


《そういえば、ご飯はどうする?こんな時間に店を開けてる食堂なんか無いと思うけど》


《それなら大賢者のお爺ちゃんの家でシモン様が作ればいいの》


《──へ?『今夜はゆっくり休め』って言ってなかった?》


《可愛いステラのためと思えば、最後にもうひと働きできる筈なの》


《聖人使いの荒い天使だなあ……》



 たいして時間もかからず、僕たちは師匠の家に辿り着いた。ちなみに、扉に鍵はかけられていない。大賢者様の家に入ろうとする盗賊などいないからだ。



「む、帰ってきたかの」


「師匠、まだ起きてたんですか?」


「うむ、研究に没頭してたんじゃが、気付いたらこんな時間になっとった」


「こんな時間に申し訳ないんですけど、台所をお借りしますね。ステラが腹を空かせてまして」


《ごーはーんー!ごーはーんー!》


「ほっほ、構わんよ。なら、ついでにワシの分も作ってくれんかの。よく考えたら飯を食っておらんかったわ」


「えーっ、朝食から何も食べてないんですか!?急いで作りますから、ステラと一緒に食堂で待っててください」



 まずは食材保管庫の食材を眺めながら、何を作るか考える。

 あまり時間をかけられないから品数は作れないな。こんな時間だけど、ステラと師匠の腹ペコぶりを考えると、ある程度腹に溜まるものがいいかもしれない。となると……よし、アレにしよう。


 まずは猪肉をミンサーに放り込んでひき肉を作る。師匠は料理なんかしないくせに、なんでこんなデカいミンサーがあるんだ……一度も使ってないだろこれ。

 鍋を火にかけてトマトを煮込み、その間に挽肉、玉ねぎ、ニンニク、卵などを塩胡椒とともに混ぜて捏ね上げタネを作る。そのタネでひと口大のボールを大量に作り、それをオーブンでじっくり焼く。

 煮込まれたトマトに油で炒めたニンニクと塩、ハーブを放り込み、トマトを潰しながらさらに煮込む。そこに焼きあがったミートボールも放り込む。

 そして、出来上がったものを茹で上げたスパゲティに絡めたら──肉団子トマトソーススパゲティの完成だ!



《うまっ!うまっ!》


「この肉団子とソースの相性が抜群じゃの!」


「ほらほら、そんな慌てると喉に詰まりますよ。まだまだお代わりありますから……」



 二人とも猛烈な勢いでパスタを腹の中に収めていく。ステラはもとより、師匠まで口の周りがトマトソースでベタベタだ。いい年して何やってるんですか師匠……。

 しかしまあ、これだけ美味しそうに食べてもらえると、こっちも作った甲斐があるってもんだな。



「そういえば師匠、今日は古代王国の書物を大量に入手してきましたよ」


「ほう、それは(もぐもぐ)興味深いのう(もぐもぐ)」


「……師匠、話す時くらいは食べるの止めません?」


「う、うむ。あまりに美味いもんじゃから、ついの……」



 なんだか子供を叱る母ちゃんにでもなった気分だ。



「で、その本を指輪に収納するときに何となくタイトルだけ流し見てたんですけど、空間魔法に関する魔法書が何冊か──」


「何いっ!???本当か!!!????す、すぐに見せてくれ!!!!」


「うわっ、汚っ!?ちょっと、ソースを飛ばさないでくださいよ師匠!」


「そんなもんどうでもいいわい!早く!早く魔法書を出すんじゃ!!!」



 師匠はもはや食事のことなど完全に忘れ切ってしまった様子で、血走った眼を剥いてずいずいと迫ってくる。ちょっと師匠、落ち着いて!怖いから!


 僕が収納の指輪から魔法書を取り出すと、師匠はそれをひったくるように奪い取り、目を皿のようにしながらページをめくっていく。



「この本は『魔素観測から解き明かす、空間と重力の相関』か……ふむふむ、ベクトルは違うが、以前読んだ本と似たような内容じゃの……」


 ぶつぶつと呟いた師匠は、もはや用済みとばかりに本を閉じる。



「次ィ!」


「は、はいぃ!」



 さっきのとは別の本を収納の指輪から取り出し、慌てて師匠に手渡した。



「次は『新・重力理論 ~重力と時間~』か。これは既に読んだことがあるな」



 師匠は本を開くこともせず、先ほど閉じた本の上に積み重ねる。



「次ィ!」


「はいぃ!……って、これいつまでやればいいんですか!?」


「次は『図解:転送門を構築する魔法式の全て』……こ、こ、これじゃあああああああ!!!!」


「ひぃっ!?すいません!??」



 師匠はその本を引っ掴んだまま、猛烈な勢いで食堂から走り去っていった。……とりあえず、食事の方は御馳走様ってことでいいんだろうか。

 しかし、空間魔法のこととなると師匠のエキサイトっぷりは半端ないな。見てるこっちはドン引きだけど、あれだけ夢中になれるものがあるってのはちょっと羨ましいな。



《お代わりなの!肉団子多めでお願いなの!》


《はいはい、肉団子を多めね》


《むしろスパゲティより肉団子のほうが多いくらいで丁度いいの》


《どんだけ肉食系なの!?あ、こら、勝手によそうな!僕の分がなくなるだろ!》



 しかしステラの食欲を止めることなど出来るはずもない。僕の必死の抵抗も空しく、肉団子の大部分はステラの腹の中へと消えていった。



《はー、お腹ぱんぱんなの》


《僕、肉団子ひとつしか食べられなかったんだけど……》


《仕方ないの。世の中弱肉強食なの》


《それ天使のセリフとしてどうなの!?って、口の周りどころか顔中トマトソースでベタベタじゃないか。一体どんな食べ方をしたらこうなるのさ》



 濡らしたハンカチで顔を拭いてやると、ステラはにんまりとした笑みを浮かべた。



《んふふー。なんだか家族みたいなの。ステラ、天使なんかよりシモン様の子供になりたかったの》


《そう?そんな風に言われるとなんか照れるな》


《でも、それは叶わぬ夢なの。生涯純潔のシモン様に子供なんかできっこないの》


《やかましいわ!折角ほのぼのしてたのに台無しだよ!》

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