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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第2章 聖人シモンと王都の大賢者
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第2章 10話 吸血鬼の巣窟

 吸血鬼(ヴァンパイア)の気配を頼りに、屋敷の地下へと通じる入り口を探す。光球(ライトボール)の淡い光に照らされた屋敷の中はどこも荒れ果てており、歩を進めるたびに埃と蜘蛛の巣が身体に纏わりつく。



《気配を感じるのはここの真下だな》



 恐らく、昔は倉庫として使われていたのであろう地下の大きな空間。その更に下から夥しい数の吸血鬼(ヴァンパイア)の気配を感じる。


 しかし、入口らしきものが見当たらない。どこかに隠し扉があるのではと考えた僕らは地下室の中をくまなく調べたが、手掛かりは何も見つからなかった。



《何にもないのー。八方塞がりなのー》


《……なんか面倒になってきた。もうこの床ぶち破ろう》


《えっ、シモン様ちょっと待つの!?》



 ステラの制止の声は一瞬及ばず、僕は振り上げた足を地面に向かって思い切り踏み下ろした。正真正銘、常人の3万倍の筋力を全開にした本気の踏み込みだ。



バリッ!!ズゴオオオオオオオン!!!



 空気がひび割れるような音の一瞬後、轟音が地下室中に響き渡り、床面が崩壊する。いや、崩壊したのは地下室の床だけではない。僕の踏み込みによって生じた衝撃は、その床の下に広がっていた地下空間をも直線的に突き抜けていき、その床面を完全に破壊。さらにその下の階層、また次の階層へと、階層構成の地下空間を巨大なエネルギーが次々に伝播していき、僕の足元には一瞬にして底が見えない程の巨大な穴が出来上がったのだった。


 そして、直下の床がなくなった僕は当然のことながら──瓦礫と共に地下の空間へと自由落下していくことになった。



「うわあああああ!フ、飛翔(フライト)ォ!」



 すんでのところで唱えた飛翔(フライト)により落下は止まり、僕はどうにか空中で体制を立て直した。宙に浮かぶ僕の足元には巨大な穴がぽっかりと広がっており、崩れ落ちた瓦礫がその穴をどこまでも深く落ちていく。ちょっと待て、ここってどんだけ深いんだ?この深さと広さは屋敷の地下室なんてレベルじゃ説明がつかないぞ?



《シモン様ってばお馬鹿さんなの。足元の床を踏み抜いたら下に落ちるに決まってるの》


《こんなに深いと思わなかったんだよ!なんなのこれ?》


《この屋敷の地下が迷宮に直結してたみたいなの》


《えっ……ってことは、吸血鬼(ヴァンパイア)の巣窟って地下迷宮なの?》


《多分その通りなの》


《ええーーーー!?》



 流石は古代王国の伯爵様のお屋敷。随分とぶっ飛んだ設計だな……。


 僕は宙に浮いたまま気配探知を発動する。不幸中の幸いというべきか、僕がうっかり作ってしまった深い竪穴が迷宮の全階層に繋がっているお陰で、全ての階層の反応を追うことができた。


 それにしても、この魔物の反応の多さときたらどうだろう。吸血鬼(ヴァンパイア)の反応だけに絞っても、その数は5千はくだらない。それに加え、吸血鬼(ヴァンパイア)以外の魔物も相当数いるようだ。こりゃ全部退治するのはかなり大変だぞ。



《仕方ない、とりあえず一番上の階層から潰していこうか》


《千里の道も一歩より、なの》



 でも、実際に取り掛かってみるとまるで大したことなかった。吸血鬼(ヴァンパイア)は祝福の力で問題なく対処できるし、他の魔物どももゾンビやスケルトンなど低級の不死の魔物(アンデッド)ばかり。第1階層には500を超える魔物がいた筈だが、それら全てを駆除しきるのに30分もかからなかった。

 吸血鬼(ヴァンパイア)を浄化する際、トマ村の出来事を思い出して少し身構えた。また犠牲者達の末期の言葉を聞かされることになるんだろうか?

 しかし、この迷宮の吸血鬼(ヴァンパイア)達は既に元の自我を失くしてしまっているのか、浄化されても無言で消えていくのみだった。ステラが言うには、眷属化してから長い時間が経過しているせいだろうとのこと。



《あれ?ここの吸血鬼(ヴァンパイア)は魔石を持ってるのか》



 浄化した吸血鬼(ヴァンパイア)が消えていった後に残された、赤く輝く魔石を拾い上げた。ゴブリンキングの魔石よりも赤みが深くサイズも大きい。



吸血鬼(ヴァンパイア)級の魔物なら魔石を持ってるのが普通なの》


《でも、トマ村の吸血鬼(ヴァンパイア)達は何も残すさなかったよ》


《魔素の結晶化には長い時間が必要なの。トマ村の人たちは魔物にされてから間がなかったから……》


《なるほど……》



 心の中で犠牲になった人たちの安らかな眠りを祈りつつ、その形見ともいえる魔石を回収していく。


 その後も僕たちのペースは落ちない。

 魔物が現れる。瞬時に距離を詰める。触って祝福の力を使う。

 この一連の作業をひたすら繰り返すだけ。

 

 一気に第8階層まで続けて突破した僕は、次の階層へと歩を進める。



《うわあ……この階層は凄いな。周り中が鏡だらけだ》



 第9階層に入った僕は思わず目を見張った。壁も床も天井も全て鏡でできていて、視覚だけに頼ると自分のいる場所が分からなくなる。通路を進もうと思っても、本物の通路なのか鏡に映り込んだ偽の通路なのかをぱっと見では判別できず、いちいち足止めを喰らってしまう。


 さらに困惑させられたのが、魔物を相手取っての戦いだ。魔物の姿が鏡に乱反射し、一体どの魔物が本物なのかを見分けるのに余計な神経を使わされる。そのせいで常に反応がワンテンポ遅れ、吸血鬼(ヴァンパイア)の爪が頬を掠めることもあった。


 ただ、気配探知を常時発動させることで、この困難は概ね解消された。技能の効用で、壁の配置や敵の居場所が目を閉じていても伝わってくる。こうなってしまえば、鏡の壁も普通の壁とさして変わらない。また単調な作業の繰り返しか──そう考えだした僕に、ステラが警告の叫びをあげる。



《シモン様気を付けて!鏡の中に魔物がいるの!》


《へっ?鏡の中?……って、うわあ!なんだコイツ!?》



 ステラが指さした鏡をみると、そこには全身が紫色のぬらぬらとした皮膚に覆われた、三つ目の巨大な巨人の姿が映っていた。身長は5メートルほどだろうか。衣服の類は一切身に付けておらず、ただ巨大な斧のみを抱えたその巨人は、三つの瞳に純粋な悪意を湛えつつ、鏡の中の僕に一歩また一歩と近づいてくる。耳の辺りまで裂けた口で、ニタリニタリと不気味な笑みを浮かべながら。



《こいつ……鏡の中にしかいない!?》



 背後を振り返っても、そこに巨人の姿はない。ただ、存在しないはずのそいつは鏡の中に間違いなく映り込んでいる。どういう原理かは分からないが、鏡の中の世界に棲んでいる魔物ということだろうか?

 いや、疑問に思うべきなのはそこじゃない。今一番重要なのは『鏡の中の僕がこいつに襲われたとして、その時本体の僕は一体どうなるのか?』ということだ。まあ、なんとなく察しは付く。たぶん本体の方も無事では済まないんだろう。



鏡の魔神(ミラーデビル)なの!こいつに鏡の中で斬られたら、本物のシモン様も真っ二つになっちゃうの!》


《くそっ、やっぱりか!ええい、これでも喰らえっ!》



 僕が鏡に向かって放った渾身のパンチで壁の鏡は見事に粉砕され、辺りに細かい鏡の破片が散らばった。ふう、これで一安心。



《シモン様、それは悪手なの!》


《えっ、なんで?今やっつけたと思ったんだけど》


鏡の魔神(ミラーデビル)に物理攻撃は効かないの!きっと、この破片の中のどこかに隠れてるの!》


《うええ……これだけ散らばっちゃったら探すだけでも一苦労だよ》



 その時、はたと閃いた。

 そうだ、散らばってる中からいちいち探すのが面倒なら、一箇所に集めて一網打尽にしちゃえばいいじゃないか!



重力級(グラヴィティボール)



 これは師匠の魔法書に載っていた空間魔法のひとつ。強い重力を持つ黒い球を生み出し、周辺の者を一気に引き寄せる魔法だ。本気で発動したらこの迷宮全てを飲み込みかねない危険な魔法だが、今回はイメージを調整して威力を必要最小限に止めている。

 僕の魔法で作り出された重力球が鏡の破片をひとつ残らず吸い寄せていき、空中に鏡の破片が寄り集まった球体が出来上がった。



業火(ヘルフレイム)



 一瞬で球体を地獄の業火が包み込む。効果範囲を縮小して威力を極大化された魔法の炎が青白い輝きを放ち、その高熱で鏡の破片を瞬時に溶解、さらに気化させていく。



《ゴガアァァアアアアァァァアアアアァアアアァ!!!》



 鏡の中で丸焼きにされた鏡の魔神(ミラーデビル)の悲鳴が階層の隅々まで響き渡った。しかしそれも一瞬のことで、程なくして迷宮には元の静寂が戻ってくる。

 鏡の魔神(ミラーデビル)が消滅した跡には、真っ赤に輝く大振りの魔石がひとつだけ残されていた。



《この魔石は随分と大きいね》


鏡の魔神(ミラーデビル)はかなり上位の魔物だから、体内の魔素の量も段違いに多いの。魔素の結晶である魔石が大きくなるのは当然のことなの》


《へえ、アイツってそんなに強い魔物だったんだ。まあ、鏡の中で襲われたら普通は抵抗できないもんなあ》


《それをこうもアッサリ倒しちゃうなんて……流石はステラが見込んだ人なの》


《へ?見込んだって、どういうこと?》


《……なんでもないの。気にしなくていいの》


《えっ、何それ。すごく気になるんだけど》


《乙女の秘密をしつこく詮索するのはゲス野郎のすることなの》


《げ、ゲス野郎!?いくらなんでもその言い方は酷すぎない!?》



 緊張感のない言い合いを挟みつつ僕たちは第9階層の掃討を終わらせ、いよいよ最深部の第10階層へと向かう。


 ──待ってろよ、モンタネリ伯爵。もうすぐお前の罪を償わせてやるからな。

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