第2章 02話 身体強化?の習得
そろそろ晩飯時ということで、僕は夕食を作ることにした。食材や調味料の類は収納庫に山と積まれているので不足はない。
天井から吊るされていた枝肉から美味しそうなところを切り取り、塩胡椒とスパイス数種をまぶして火にかけ、さらに野菜数種、香草、茸、調味料などでソースを作る。冷蔵庫の新鮮な野菜でサラダを作り、鳥の骨を煮込んでとったスープに角切りのベーコンとマッシュルームを放り込んで煮込み、塩胡椒で味を調える。よし、我ながら上出来だ。
【技能 料理 のレベルが上がりました(Lv8→24)】
……ん?目の錯覚かな、いま料理の技能レベルがとんでもない上がり方をしたような?
「食事の支度ができましたよー」
「ぼそぼそ……(旨そうな匂いじゃのう)」
《ごっはっんー♪ごっはっんー♪》
食堂にやってきた師匠とステラが早速料理に手を付ける。
「ぼそぼそ……(これは美味いのう)」
《………………(ばくばくばくばく)》
「舌に合ったようで何よりです。ステラ、お替わりは沢山あるから慌てないで。喉に詰まるよ」
「なんと、天使様も食事をしてらっしゃるのか!?」
「ええ。今もそこに座ってご飯を食べてますよ。ステラ、もう師匠は僕の事情を知ってるんだし、わざわざ姿を隠さなくてもいいんじゃない?」
《………………(ばくばくばくばく)》
「おお、本当じゃ!天使様が我が家に!……って、ものすごい食べっぷりじゃな、この子」
どうやら師匠にもステラの姿が見えるようになったようだが、返事をする暇も惜しんで料理を書き込み続けているステラの姿に、師匠が若干引いている。ていうか師匠、驚くと普通に喋るんですね。
「いつもこの調子ですよ。食い扶持を賄うのに苦労させられてます」
「ぼそ……ぼそぼそ……(そうか……ウチにある食材は自由に使ってもらって構わんぞ)」
「ありがとうございます師匠!助かります」
《シモン様の料理はとっても美味しいの。次の食事も楽しみなのー》
《もう次の食事を気にしてるのか……。あ、そうそう、聞きたいことがあったんだ。さっき料理のレベルが跳ね上がったように見えたんだけど、何かの間違いじゃない?)
《気のせいじゃないの。ステータスが上がってるんだから、そのぶん技能レベルが上がりやすくなるのは当然なの》
《なるほど……ちなみに、料理レベル24って世間的にはどの程度のもんなの?》
《有態にいって世界一なの。シモン様の次に料理が上手い人でも料理レベル10止まりだから、断トツのトップなの》
《なん…………だと?》
そこまでレベルが上がったなら、冒険者なんかやめて料理人として生きていったほうがいいんじゃないかな。それなら無駄にステータスを上げなくて済むし。ひょっとしてこれ、かなりいい考えじゃない?
《ステラはそれでもいいけど、グウェンとの約束はどうするのー?》
《あっ……》
こうして、料理人として平和に生きるという人生はあっけなく消え去ったのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌朝、僕たちは魔法実験場に移動してさっそく修業を始めることになった。広々とした実験場の中央付近で、僕と師匠は向かい合う。
「ぼそぼそ……(さて、まずは身体強化をモノにせんとな)」
「そうですね。そもそもそれが弟子入りの目的なわけですし」
「ぼそぼそ……ぼそぼそ……(お主ならそう時間をかけずに習得できるじゃろう。まずは身体強化の概念じゃが──)」
師匠の説明によると、はるか東方よりこの大陸に伝えられたとされる〝仙術〟という技能が身体強化の根源であり、その神髄は〝氣〟という力で身体を活性化させることにあるという。なんだか難しそうだな。氣なんて言葉すら初めて聞いたぞ。
「ぼそぼそ……ぼそぼそ……(なに、魔法を使えるお主にはそう難しいこともないじゃろ。〝氣〟というのも単に練り込まれた魔力の事じゃしの)」
そういうと、師匠は自らの魔力を集中し始める。
「ぼそぼそ……ぼそぼそ……(このように、まずは臍の下あたりに体中の魔力を集め、それを練り込むイメージを作るのじゃ。十分に練り込んだら、その魔力を逆に体の隅々まで行きわたらせる。これが身体強化の基本じゃな)」
「僕もやってみます」
まずは全身の魔力を臍の下に集めて練り込むんだっけ。よし、魔力を集中、集中、集中……。
ビキ……ビキビキ……
僕が魔力を集中しだすと、周囲の空気が震えだした。なんだこれ?さっき師匠がやった時と雰囲気が違うぞ。
まあいいや、次はこの魔力を練り込むんだっけ。練って、練って、さらに練って……。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
うーん、魔力を練るごとに地面が震えるような感覚があるんだけど、なにか間違えてるのかな?
ええと、次はこの魔力を全身に行きわたらせるんだったっけ。よし、下腹部に押し込めてた魔力を開放して──
ゴウッ!!
僕の身体を中心に爆風のような風が巻き起こり、実験場の地面から土埃が上がる。自分の身体を見てみると、金色のオーラのようなものが僕の身体をすっぽりと包んで激しく輝いている。
うん、やっぱりおかしい。師匠が身体強化したときは、こんな派手なエフェクトなんか無かったし。どこかで手順を間違えちゃったのかも。
「……………………」
「師匠?」
「…………はっ!な、なんじゃ?」
「師匠の言う通りにしてみたら変なオーラが出てきたんですけど、これ失敗ですよね?」
「う、うむ。身体に巡らせた魔力が体外に漏れておるのう」
「なるほど!もう一度やってみます」
「いや、ちょっと待て!お主、身体は大丈夫なのかの?」
「身体ですか?特に何の問題もありませんよ」
「なんと……あれだけ大量の魔力を放出したら、普通は魔力切れでぶっ倒れておるぞ?ああいや、お主は普通ではなかったの」
「自分では普通のつもりなんですが……ははは」
師匠の教え通り、身体の内部だけで魔力を練って循環させるイメージでやってみたら、今度は何事もなく成功した。
「師匠、できました」
「『できました』って、普通はここまででも最低半年はかかるんじゃが……まあお主に言うても無駄か……」
すっかり諦め顔になった師匠が説明を続ける。
「ぼそぼそ……(次は全身に巡らせた魔力を使って、お主の身体を強化するイメージを描くのじゃ)」
身体を強化するイメージって、漠然としていてちょっと分かりづらいな。
とりあえず、身体中の筋肉を活性化させるような感じでやってみよう。頭の中にイメージを作って筋肉を活性化!
……うん、なんか上手くいった気がする。でもこれ、どうやって確認すればいいんだろ?とりあえず正拳突きの真似でもしてみるか。本気でやったら拳から衝撃波的なものが出たりして。せーの──
ポキッ
「あんぎゃあああああああああ!ほ、骨が!身体中の骨がああああ!」
なんだこれ!?正拳突きをしようと思い切り振りかぶっただけなのに、身体中のあちこちで骨が折れた!?
「ぼそぼそ……ぼそぼそ……(骨を強化せずに筋肉だけを強化するとそうなる。強化された筋力に骨が耐えきれなくなるんじゃよ)」
「それを先に言ってください師匠……」
〝聖人の奇跡〟の効果で折れた骨がくっつくのを待ち、今度は骨もしっかり強化するイメージを作ってやり直す。よし、今度は完璧だ。試しに軽く正拳突きをしてみると、拳が作り出した風圧がゴウッ!という唸りをあげる。これ本気でやったら、冗談抜きで何か出そうだな。
【技能 身体強化 を習得しました(Lv5)】
っておい!なんでいきなりレベル5なの!?こういうのってまずは1からが普通なんじゃないの!?
「ほっほ……このワシですら初歩を習得するまでに3年かかったんじゃがの……」
師匠がへなへなと床にへたり込んでいる。なんかすみません。
でもこれだけは分かって欲しい。僕としてもこの状況は不本意なんです。
「しかしこれ、単なる身体強化で終わらせるのはもったいなくないですか?」
「む?どういうことじゃ?」
「この技能があれば、魔力で身体の状態を操作できるわけじゃないですか。なら、イメージ次第で色々と応用が効くと思うんですよね。身体を硬化して守りを固めるとか、ひょっとして肉体の劣化を抑えて若さを保つなんてことも──」
【技能 身体強化 が 仙術 に昇華しました(Lv5)】
「はぁ!!?」
「ぬぉっ!?どうしたのじゃ、いきなり大声をあげよって」
しまった、つい声が漏れてしまった。
いやでも不可抗力でしょこれ。〝仙術〟ってなんなの?せっかく覚えた〝身体強化〟はどこに行っちゃったの?
「あ……あの、いま〝身体強化〟が〝仙術〟とかいうのに昇華したみたいで──」
「なんと仙術じゃと!?それは真か!?」
血相を変えた師匠が僕の胸倉を掴んで揺さぶってくる。
ちょ、落ち着いて!何をそんなに興奮してるんですか!
「以前ノーマンも言うておったが、仙術というのは身体強化の源流となった技能じゃ。100年ほど前、遥か東方へと旅した冒険者が〝仙人〟と呼ばれる者から教えを受け、その技能を持ち帰って広めたのが発端とされておる」
少し落ち着いた師匠が説明を続ける。
「その冒険者が言うには、身体強化など仙術の一部に過ぎんそうじゃ。東方の仙人はもっと不思議な術を使ったという。先ほどお主が言っておった〝不老の術〟もその中のひとつじゃな」
ああ、それで理解できた。僕がそのイメージに辿り着いちゃったから、単なる身体強化ではなく仙術を身に付けた扱いになったってことか。
って、ちょっと待てよ?ということは、本当に不老になれるってこと!?凄いな仙術!
「これ、むしろワシのほうがお主に弟子入りを願うべきなのでは……」
「はっはっは、冗談でもやめてください師匠」




