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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第2章 聖人シモンと王都の大賢者
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第2章 01話 王都エルミナス

「シモン君、王都が見えてきたよ」


「えっ、本当ですか!?僕も見たいです!」



 僕はノーマンさんの脇から半ば無理やりのように頭を突き出し、馬車の窓から外を眺める。前方には石造りの巨大な城壁が聳え、その奥には城の尖塔らしきものが薄っすらと姿を現している。



「うわあ、でっかいなあ……」


「あれが我がエルム竜王国の王都エルミナスだ。私たちの拠点(ホーム)へようこそ、シモン君」



 魔界の門にまつわる騒動が解決した後、大賢者様に弟子入りすることになった僕は、馬車1台を貸し切りにして王都に向かっている。もちろん僕一人でそんな贅沢なことはしない。その馬車には僕と大賢者様のほか、王都を拠点とする認定冒険者のノーマンさんとミリアムさんも同乗している。道中では皆から王都の話を色々と聞かせてもらい、賑やかな時を過ごすことができた。


 僕たちが向かっているのは王都エルミナス。地理的にも経済的にもエルム王国の中心を占める、人口150万人の大都市だ。パナシエの町やモルトの町は王都からみると東の方角にあたり、そのパナシエからここまでは馬車で1週間ほどの道程だった。

 王都には冒険者ギルドの大支部があり、冒険者の出入りも活発とのこと。王都の南側に広がる広大なエルムの森には多数の魔物が生息しており、その魔物を王都に近寄せないよう、騎士団と冒険者が日々忙しく活動しているそうだ。

 森の奥深くには霊峰ヘルラト山が聳え、その山の地下深くには竜王国の語源でもある〝守護竜ユリシーズ〟が棲んでいるという。ユリシーズは建国王エルムⅠ世と盟約を結んだ竜であり、建国後300年が経過した今もなおこの国を見守っているという。その伝説のせいか、エルム竜王国は建国以来ただの一度も他国からの侵略を受けたことがない平和な国として知られている。


 皆さんの話を聞いている間にも、馬車はどんどん進んでいく。王都に近づくにつれ、巨大な城壁がこちらに迫ってくるように感じられて、僕はただただ圧倒されていた。森の中で獣を狩って暮らしていた根っからの田舎者なので、こういう巨大な建造物を間近にすると、ただただ感心してしまう。



《ふふん、こんなの天界の都に比べたらまだまだなの》


《ふーん、天界ってそんなに凄いとこなのか。一度見てみたいな》


《天界を見たいの?それなら、一度死んでもらわないと……》


《怖いわ!流石に死んでまで観光するつもりはないよ!?》



 乗合馬車が巨大な城門を潜って町の中に入っていく。普通なら面倒な手続きがあるのだが、僕たちには強力な武器がある。



「ぼそぼそ……(精が出るのう)」


「これは大賢者様!お帰りなさいませ!」



 大賢者様が馬車から顔を出し衛兵に向かって軽く手を振ると、衛兵達は最敬礼をもってそれに応え、馬車はそのまま町の中へと通された。うーん、大賢者様の威光は流石だなー。


 馬車の駅舎は町に入ってすぐの場所にあった。僕たちは馬車から降り、馬と馬車を馬丁の手に返却して通りを歩き始める。

 大通りに出ると、そこで目にしたは人、人、人──。身なりのいい御婦人。怪しい目つきで周囲を窺う小柄な男。でっぷりと太った商人風の男。武器を携えた傭兵風の男。うわ、あそこの狼の耳を生やした男は、ひょっとして人狼(ワーウルフ)!?



「ノーマンさん、街中に魔物がいますよ!?」


「ん?──ああ、あれは魔物じゃなくて獣人だよ。狼族の男性だね」


「あれが獣人……初めて見ました」


「王都じゃ珍しくもなんともないんだがね。まあ君もそのうち慣れるだろう」



 獣人の存在は知っていたけど、実際に見るのはこれが初めてだ。ノーマンさん曰く、半獣半人の彼らは人間よりも身体能力に優れており、種族によっては獣ならではの特技を持つという。その長所を生かして傭兵や冒険者として生計を立てている人が多いそうだ。僕も今後しばらく王都で暮らす訳だし、いずれ獣人の知り合いなんか出来たら楽しそうだな。



「大賢者様の家はあっち。私とノーマンはギルドに戻るからここでお別れ」」


「お二人とも、色々とありがとうございました。僕もなるべく早いうちにギルドに顔を出しますんで、その時はまた宜しくお願いしますね」


「ああ、また会おう」



 ノーマンさんとミリアムさんは連れ立って歩き去っていき、後には僕と大賢者様が残された。



「さーて、大賢者様……じゃなくて師匠。先を急ぎましょうか」


「ぼそ……ぼそぼそ(師匠……そう呼ばれるのは久々じゃの)」



 歳のわりに意外と健脚な師匠の後をついていくこと30分。街の喧騒から少し離れた場所に大賢者様の家があった。いや、家っていうか──これはなんだ?

 猫の額ほどの土地に建てられたその石造りの建物はとにかく小さかった。1辺3メートル程度のサイコロのような真四角の建物で、通りに面した側にはこれまた小さい扉がひとつ。目に入る限り、建物には窓ひとつ見当たらない。変わり者だとは思っていたけど、まさかこんな奇妙な家に住んでいたとは……。



「この物置みたいな小屋が師匠の家なんですか?これ、僕が泊まる場所なんて無いですよね」


「ぼそぼそ……(まあ入ってみるがよい)」



 師匠に促されて家の扉を開けてみると、僕を出迎えたのは広くて天井の高いエントランスだった。そのエントランスから覗く廊下は突き当りが見えないほど長く、廊下の壁には重厚な造りの木製の扉がいくつも立ち並んでいる。上階に繋がる階段もあり、いったいどれ程の広さをもつ家なのかパッと見では分からないほどだ。

 さらに驚くことに、部屋の中は窓ひとつも無い家の中とは思えないほどの明るさに満ちている。よく見ると、天井全体が光り輝いて、屋内を隅々まで照らしている。恐らく魔法の明かりなのだろうが、まるで自然の陽光のように優しく暖かい光だ。



「し、師匠!なんですかこれ!?建物よりも中が広いんですけど!?」


「ぼそぼそ……ぼそぼそ……(ほっほ、ワシが空間魔法の達人であることを忘れてはいかんのう)」



 仰天する僕をみて、師匠はさも楽し気に笑い声をあげたのだった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 その後、師匠が家の中を案内してくれた。



「ぼそぼそ……ぼそぼそ……(ここが応接間じゃ。来客があったらここに通してくれ)」


「ほわー……広くて家具がすっごい豪華……」



「ぼそぼそ……ぼそぼそ……(ここはキッチンじゃ。まあワシは料理なんぞようせんがの)」


「ほわー……見たことない調理器具がたくさん……」



「ぼそぼそ……ぼそぼそ……(ここは食材の収納庫じゃ。保存の魔法がかかっておるから食材を腐らせる心配はない。冷蔵庫と冷凍庫もあるぞい)」


「ほわー……高そうな食材がいっぱい……」



「ぼそぼそ……ぼそぼそ……(ここは書庫じゃ。ワシが手を尽くして集めた書物は全てここで保管しておる。いつでも勝手に読んで良いぞ)」


「ほわー……本が多すぎて数える気にもならない……」



「ぼそぼそ……ぼそぼそ……(ここは実験場じゃ。この中なら多少無茶な魔法を使っても大丈夫じゃぞ。ちなみに、ワシの研究の場でもある)」


「ほわー……家の中とは思えない広さ……」



「ぼそぼそ……ぼそぼそ……(ここから先は客間じゃ。この中から好きな部屋を選んでお主の部屋にするがよかろう)」


「ほわー……客間の数がすっごい……」



《シモン様、さっきからほわーほわーばっかしで気持ち悪いの》


《そんなこと言ったって、こんなの驚く以外にどうしようもないだろ……》



 ──間違いない、僕の師匠はとんでもない金持ち(ブルジョワ)だ。

今日から投稿を再開します。


今後は平日のみの投稿を予定しており、

土日祝日はお休みさせていただきます。

どうかご承知おきくださいませ。

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