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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第1章 聖人シモンと魔界の脅威
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第1章 25話 それぞれの思惑

 モルトの町に向かう乗合馬車の中で、グウェンが一人揺られている。馬車の窓から吹き込んだ風がグウェンの金髪を靡かせ、空中に淡い金色のカーテンを織り成す。

 馬車に同乗している商人風の男がその美しさに溜息を洩らし、隣の女性から手の甲をつねられて軽く悲鳴をあげた。



 モルトに着いたら孤児院に顔を出して、今回の報奨金から幾ばくかの寄付をしよう。その後は、また例の組織を叩くための地道な調査と自己鍛錬の繰り返し……。あの人を失ってから、私はずっとそうやって生きてきた。そして、これからもそれは変わらない。私と組織、そのどちらかがこの世から完全に消え去るその日まで。


 それにしても──



「つくづく不思議な子だったわね」



 孤児院の子供に、あの人と全く同じセリフを語っていたシモンという名の少年。あれを聞いた時、長い間凍りついていた私の心臓が再び動き出したような気がした。見た目は似ても似つかないのに、身に纏う雰囲気やちょっとした仕草が何故かあの人を思わせる。そんな子と共にあの組織と戦うというのは、一体なんの因縁だろうか。



「必ず──必ず奴らに思い知らせてみせるわ」



 遠い目で独り言を漏らしたグウェンを乗せ、馬車はガタゴトと喧しい音を立てながら、どこまでも街道を進んでいく。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「フォルゴーレめに御座います。我が王にはご機嫌麗しゅう」


「うむ、近う寄れ」



 ここは人が魔界と呼ぶ異界。

 壮大な宮殿の玉座に腰かけた男が、隻腕の悪魔を手招きする。



「随分と痛い目に遭ったそうだな」


「はっ、不覚を取りましてございます」


「お主は貴族でこそないが、こと呪詛においては名を知られた男。それが人間如きを相手に片腕を失うとは」


「面目次第も御座いませぬ」



 フォルゴーレは一切申し開きをしない。詳細は既に急使を遣わして報告済みだ。それに、この男を相手に言辞を弄することの無意味さを、フォルゴーレはよく知っている。



「お主の呪詛を破ったという少年の名は何といったか」


「連れの女魔術師が〝シモン〟と呼んでおりました」


「シモンか……我らの邪魔になるようなら、早々に消さねばなるまいな」



 さも忌々し気に歯噛みをした男の口から、ギリッという音が漏れる。



「報告ご苦労であった。退がってよい」


「はっ」



 フォルゴーレがその巨体を音もなく消していく。

 一人残された男は、玉座の背もたれにゆっくりと体を預けて深い息を吐き出す。



「我らが宿望、余の手で必ず果たしてみせる」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 天界にそびえる神の居城。その中の一室で、白髪白髭の老人がゆったりとした椅子に腰を落ち着け、目を閉じている。



「──ステラエルか」


「創造神様にはご機嫌麗しゅう」



 老人が目を開けることすらなく呟きを漏らす。すると、いつの間にか神の御前にステラが現れていた。以前と同じく、ここでは本来の大人の姿をとっている。



「シモンがまた力を伸ばしたようじゃな」


「はい、今回はかなりの飛躍かと」


「うむ。だが、まだ足りぬのう」



 創造神と呼ばれた老人は、そう言って細い目を開ける。

 漸く覗いたその瞳には、深い憂慮が影を差している。



「ステラエルよ、くれぐれも頼むぞ。残された時はそう多くない」


「畏まって御座います。必ずや間に合わせてみせます」



 創造神が頷きをひとつ返して手をひらひらと振ると、ステラの姿は宙に溶けるように消えていった。

 誰もいなくなった空間に向け、創造神はぽつりと言葉を漏らす。



「全ての鍵を握っておるのはシモン、お主じゃぞ」

ここまでで第一章は終わりです。

お付き合いいただきありがとうございました。


これまで毎日投稿を続けてきましたが、

第二章の書き溜めに少々時間を頂きたく、

次回投稿まで暫く間隔が空くことになります。

どうかご了承くださいませ。

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