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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第1章 聖人シモンと魔界の脅威
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第1章 21話 悪魔フォルゴーレ

 魔界の(ゲート)を封鎖しに来たら、そこに悪魔が引っかかってて、助けを求めてきた。

 

 ──一体どういう状況よこれ。この悪魔も妙に馴れ馴れしいという人間臭いというか。いや、本当に困ってるのなら助けてやるのも吝かではないが、なにしろ相手は悪魔だからなあ……。




「それは無理じゃな」



 大賢者様は悪魔の頼みをあっさりと拒否した。

 っていうか、大賢者様ちゃんと喋れるんじゃないですか!だったら普段からそうしてよ!




「……理由を聞いてもいいかね?」


「まず第一に、お主を信用できん。引っかかっているというのは嘘で、ワシらが近づいたところを捕まえてそっちに引きずり込もうとしているのかもしれん」


「ふむ」


「そして二つ目。この腕を上手くそっちに押し込んだとして、その後はどうなる?がら空きになった(ゲート)を通ってお主の仲間がこちらに押し寄せてくるのではないかな?いや、ひょっとしたら既にそちら側で大勢の悪魔どもが待機しているという可能性もあるのう」


「ほう……」



 表情を変えず淡々と指摘する大賢者様の瞳に、厳しい光が宿っている。しかし、悪魔が相手だとこんなに堂々としてるのに、人間相手だと途端に喋れなくなるんだから不思議な人だよなあ。

 不思議といったら、このフォルゴーレとかいう悪魔も大概だ。禍々しい気配を纏った悪魔のくせに、妙に物腰が柔らかいというか、こちらに敵意を感じさせない喋り方をしている。



《悪魔にも色んなのがいるの。中にはこっちの世界に紛れ込んで、悪さもせず普通に暮らしてるような変わり者もいるの》


《へえー。じゃあ、このフォルゴーレってのも実はいい奴だったり?》


《とんでもないの。こいつは酔っ払いの吐瀉物すら下回るゲス野郎なの》


《表現!表現がきっつい!》



 あれ?ゲス野郎ってことは、つまり今までのは──



「ふっふっふ……ふぁっはははははは!虫けらにも小賢しい者がおるのだな!」



 うわあ、やっぱし演技だったのか!タチ悪いなこいつ!



「まあ、引っかかって難儀しているのは嘘じゃなかろう。そうでもなければ、既に大量の悪魔どもがこちら側に入り込んでおる筈じゃからな。ただ、(ゲート)さえ通れる状態になれば、そのようなエセ紳士面を続けるつもりなどあるまい」


「なかなか良い読みだ。確かにこちら側では、百を超える我が眷属が(ゲート)を通り抜けようとひしめき合っておる。今は我の身体が(ゲート)を塞いでしまっておるが、なあに、あと2日もあれば我が魔力でこの(ゲート)を広げることができよう」



 フォルゴーレの口調は楽し気だ。この状況でも余裕があるということか。



「話は単純だな。まずは俺たちがこの悪魔の腕をぶっ潰す。そしたら、向こうの悪魔が顔を出す前に大賢者様が(ゲート)を封鎖する。これで俺たちの仕事は終わりだ」


「果たしてそう上手くいくかな?」



 フォルゴーレはそう言うと、腕をパチンと指を鳴らす。


 ──あれ?なんで僕たちはフォルゴーレ様の頼み事を拒否したんだっけ?このお方に逆らうなどとんでもない。今すぐにフォルゴーレ様の腕を向こう側に押し戻して……って、いま僕は何を考えてた!?



【技能 魅了耐性 を習得しました(Lv10)】



 うおっ、魅了魔法をかけられてたのか!危ないな!しかもいきなり耐性のレベルが10になったってことは、相当強力な魔法をかけられてたってことなんだろうな。



《人間にはまず解除できないレベルの呪詛だったの。でも、シモン様には〝聖人の奇跡〟があるから問題ないの》


《あー……それで勝手に魅了が解けたのか》



 周りを見ると、他の皆が魂を抜かれたような表情で棒立ちになっていたので、〝聖人の奇跡〟で魅了を解除していく。



「お、俺は今いったい何を……?」


「ぼそぼそ……(魅了の魔法をかけられていたようじゃな)」


「なっ、なんと!?我が呪詛を解いたというのか!?いや、そんな馬鹿な!?」



 激しく動揺したフォルゴーレが再び指を鳴らす。すると、また頭に靄がかかったような感覚に襲われるが、今度は耐えることができた。周りの皆はしっかり魅了されているので、さっきと同じように〝聖人の奇跡〟で解呪する。



【技能 魅了耐性 のレベルが上がりました(Lv10→16)】



 さっきよりは落ち着いたけど、それでも一気に6レベルも上がった。やっぱりコイツの呪詛は尋常じゃないな。〝聖人の奇跡〟がなかったら、今ごろ全滅してたんじゃなかろうか。



「そんな馬鹿な!またしても人間ごときが我が呪詛を……ええい、ならばこれはどうだ!」



 また魅了か?と身構えた僕の身体を紫色の靄が包む。すると、体中に赤黒い斑点が現れ、猛烈な吐き気と全身の痛みに襲われた。──これは!?



「毒だ!みんな霧を吸い込むな──ぐはあっ!」



 警告を発したノーマンさんが血を吐いて倒れ込む。魅了の次は毒の呪いか!僕も霧を少し吸い込んでしまったようで、すぐに全身を激しい苦痛が襲う。こ、これはきつい……。


 しかし、僕の〝聖人の奇跡〟がまたしても効果を発揮。激しい苦痛が嘘のように薄れていき、全身に浮かんだ斑点も消えていく。すっかり元気を取り戻した僕は、猛毒に苦しんでいる皆さんを順ぐりに癒していった。



「毒が……消えた……?」


「ミリアムさん、もう大丈夫ですよ。解毒しましたから」



【技能 毒耐性 を習得しました(Lv10)】



 ……うん、そうくると思ってた。



「なんと、毒も効かぬだと!?貴様ら、一体何をした!?」


「あのー、もうやめませんか?僕らに呪いの類は効かないと思いますよ」


「貴様、この〝呪毒のフォルゴーレ〟を侮るか!ええい、これでも喰らえ!」



 今度は石化の呪いだった。一瞬で僕たち全員の身体が石になって固まってしまう。



「ふはははは!石化してしまえば解呪もできまい!って、何だとおおお!?」



 医師になった僕の身体が、淡い光に包まれて再び血色を取り戻していく。僕自身に関しては〝聖人の奇跡〟の効果が自動的に働くので、石にされたとしても特に問題はない。



【技能 石化耐性 を習得しました(Lv10)】



 なんだかパターン化してきたなあ。あ、フォルゴーレの腕が小刻みにピクピクと震えている。



「だから呪いは無駄だって言ってるじゃないですか。もう止めましょうよ。ひとまず深呼吸して落ち着いて、お互い納得のいく落としどころをですね──」


「黙れ!人間如きが我が呪詛に抗える筈がない!」


「だから、さっきから何度も抗ってるよね!?」



 怒り狂ったフォルゴーレは、その後も次々と魔法を放ってきた。それも全て混乱、狂化、睡眠、麻痺、恐怖といった状態異常を起こす呪詛系統の魔法ばかり。〝呪毒のフォルゴーレ〟などというおっかない二つ名を付けられてるだけあって、まさに呪いのオンパレード。こと呪いに関しては、魔界の悪魔の中でも相当のエリートなのではなかろうか。


 ただ、残念なことに僕の〝聖人の祝福〟とは非常に相性がよろしくない。なにせどんなに強力な呪いであっても、祝福の力の前では無力化されてしまうのだから。さらに、周りの皆さんは先ほどの魔法で石化したままなので、追加の魔法がまるで効果を発揮していない。無駄な努力もいいところである。


 ただ、そろそろ魔法を連発するのはやめてほしい。コイツのせいで僕の状態異常耐性が空恐ろしいほどのペースで強化されてしまっており、精神衛生上非常によろしくないのだ。



【石化耐性 Lv16】

【魅了耐性 Lv16】

【混乱耐性 Lv16】

【恐怖耐性 Lv16】

【狂化耐性 Lv10】

【毒耐性  Lv20】

【麻痺耐性 Lv16】



 この短時間で、耐性関連の技能レベルがここまで上がってしまった。なんというかもう、人間をやめちゃってる感がすごい。確か技能のうちひとつでもレベル10を超えたものがあると〝超越者〟扱いされるってステラが言ってたっけ。僕ひとつどころじゃないなあ……ははは。



「馬鹿なああああああ!何故効かぬ!?」


「だから止めろっていってるでしょ!炎の玉(ファイアボール)!」



 これ以上レベルを上げられては堪らない!再び呪詛を放とうとしたフォルゴーレを止めるべく、その腕に向かって威力を極大化した炎の玉(ファイアボール)を行使する。僕の指先から放たれた青白く輝く炎の玉が、光の軌跡を描いてフォルゴーレの腕に着弾した。

 一瞬で炎に包まれたフォルゴーレの腕から焦げたような嫌な臭いが立ち込める。しかし、流石は悪魔といったところか。その腕にこれといって目立った損傷はなく、せいぜい皮膚の一部に火傷を負わせることが出来たという程度だった。



【技能 火魔法 のレベルが上がりました(Lv7→8)】



「グガアアアア!無詠唱だと!?そして、たかが炎の玉(ファイアボール)如きでこの威力!貴様、さては()()()()()に到達しているな!?」



 思わぬ魔法を喰らったことで、フォルゴーレは困惑したような悲鳴をあげる。



「しかし信じられん。たとえ魔法の真髄に辿り着いたとしても、人間如きの貧弱な知能では魔法の明確なイメージなど構築できる筈がない。──貴様、一体何者だ!?」


「何者って、普通の人間ですが」


「そんな訳があるかあっ!!!!」



 えらい剣幕で怒鳴られた。失礼な、どこからどう見ても普通の人間なのに。

 まあいいや。この隙に、石になっている皆さんを元に戻しちゃおう。



「はっ……お、おい!何がどうなってんだ!?」


「皆さん石にされちゃってたんで、いま呪いを解きました」


「石化の呪いを解いただと!?」


「僕、治癒や解呪は得意なんです」


「いや、得意ってお前……はあ、もういいや」



 ビリーさんが何やら諦めきったような顔をしている。



「そんなことより、この状況をどうします?このフォルゴーレをどうにかしないと門を閉じられないんですよね?」


「ぼそぼそ…ごにょごにょ……(そうじゃ。しかし我々の力でヤツの身体をどうにかできるとも思えん)」


「うーん、ちょっと切ってみましょうか」


「はぁ!?おいちょっと待て!」



 ビリーさんが止めるよりも早く僕は駆け出していき、フォルゴーレの腕の付け根を狙って剣を振るう。



ズドッ!



 鈍い手応えと共に刃がフォルゴーレの腕に食い込むが、完全に断ち切ることはできなかった。



「グアアアッッ!!多寡が人間の分際で、我が腕に傷をつけるとは!?」



 苦悶の叫びをあげたフォルゴーレが無闇矢鱈に腕を振り回してくるが、(ゲート)に挟まった体勢ではどうしても動きが制限されるようで、僕を捉えることはできない。僕はそのまま剣に力を込めて押し込もうとする。しかし──



バキン!



「あああ、剣が折れた!」



 なんてこった、冒険者になってから初めて買った武器だったのに!ずっと大事に使おうと思ってたんだけどなあ。



「あ、当たり前だ!そのような(なまく)らで我が腕を断ち切れるわけが無かろう!」



 フォルゴーレが強がりを言うが、焦っているのが見え見えだ。まあ、その(なまく)らで骨に近いところまでざっくり斬られたんだから、それも当然だろう。



「うーん、剣で切れないなら、あとは()()()()()しかないか」


「な、何だと?貴様、一体何を言って──ギャアアアアアアアア!!?」



 僕はフォルゴーレの腕を抱えるようにして捕まえると、そのまま綱引きのように思い切り引っ張った。それはもう力任せに、常人の100倍を超える筋力を全開にして。


 すぐにフォルゴーレの腕が軋みを上げ、ブチブチと肉が割けるような音が聞こえてくる。激しい痛みにフォルゴーレが悲鳴をあげるが、そんなのお構いなしにどんどん引っ張っていくと、僕の剣でできた切り込みの部分から腕が完全にちぎれて、こちら側の床にゴロリと転がった。



【技能 格闘技 のレベルが上がりました(Lv6→7)】



 ちょっと待て、いま技なんか使ってなかった筈だが……。



「ギャアアアアアアア!う、腕が!我が腕が!!」


「ふぅ、さすが悪魔の腕だけあって頑丈だったなー」


「き、貴様、なんという残虐な真似を……この人でなし!悪魔め!」


「失礼な!悪魔にだけは言われたくないよ!」



 フォルゴーレは腕を引きちぎられたショックでさめざめと泣いている。

 や、やめてよそういうの……まるでこっちが酷いことをした側みたいじゃないか。



《いい気味なの。ついでに頭も引きちぎってやるといいの》


《ステラって、悪魔に対してはとことん辛辣だね……》

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