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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第1章 聖人シモンと魔界の脅威
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第1章 16話 思わぬ再会

《とりあえず火蜥蜴(ファイアリザード)を収納しちゃおうか》



 収納の指輪を着けた手で火蜥蜴(ファイアリザード)に触れ、それをしまい込むイメージを念じると、先ほどと同じように光の粒子になって消えていく。よしよし、問題なく収納できたな。



《とりあえず町に戻ろうか。今日は色々と疲れたし、火蜥蜴(ファイアリザード)にどれくらいの値段がつくのか早く知りたいしね》


《高く売れたら、そのお金で美味しいものを食べるのー》


《もし高値が付かなくても美味しいものを御馳走するよ。今日のステラは大手柄だったからね》


《ああ、シモン様の背中に後光が射して見えるの……》


《あはは、大げさだなあ》



 ステラは空中に浮かんだままひれ伏すようなポーズをとる。なんという器用な真似を。


 自分で作った地図を頼りに迷宮の外へと向かう。途中で何度かコボルドの群れに遭遇したけど、すべて問題なく蹴散らした。しかし、迷宮内の魔物には討伐報酬が出ないので、これといった素材を取れないコボルドのような魔物をいくら倒しても、時間と労力の無駄にしかならないのが辛いところだ。でも、収納の指輪を手に入れた今の僕の心は、どこまでも軽やかである。我ながら現金だなあ。



「すみませーん、狩った魔物の買い取りをお願いします」



 冒険者達でごった返すパナシエの冒険者ギルドに戻ってきた僕は、意気揚々と受付嬢に声をかけた。



「お帰りなさいませ。なんだか良い顔をしておいでですけど、何か良い獲物でも?」


「はい、火蜥蜴(ファイアリザード)を狩ってきました」



 僕がそう言った瞬間、ざわついていたギルド内の空気が静まり返った。ん?僕なんか変なこと言った?



火蜥蜴(ファイアリザード)ですって!?そのような魔物、一体どこで……」


「迷宮の第1階層です。隠し部屋の中でいきなり出くわしまして」


「第1階層に隠し部屋!?──ちょ、ちょっとお待ちいただいて宜しいでしょうか」


「はあ、構いませんけど」



 受付嬢は僕の返事を待たずに奥に向かって駆け出して行った。周りからは冒険者達のひそひそ声が聞こえてくる。



「おい、アイツ火蜥蜴(ファイアリザード)って言ってなかったか?」


「森林迷宮にそんな魔物がいるなんて聞いたことないぞ」


「第1階層に隠し部屋だと?」


「バカな、そんな浅いとこで今さら新発見なんてあり得ねえよ」



 ……あのー、全部丸聞こえなんですけど。内緒話ならもう少し声を押さえてやってくれないかなー。


 そのまま少し待っていると、その受付嬢を従えてギルドマスターのガラムさんがやってきた。その顔にはやれやれといった感じの薄笑いが浮かんでいる。



「おいおい、ここは酒場じゃないんだ。ホラ話なら他所でやってくれないか?」


「いえいえ、嘘じゃないですよ」


「──ほう、ならその火蜥蜴(ファイアリザード)を出してみろ」


「ここで出してもいいんですか?結構大きいんで、もっと広い場所のほうがいいと思いますけど」


「いいから出せ。嘘じゃねえならな」


「分かりました。はい、これです」



 ガラムさんに言われた通り、収納の指輪から火蜥蜴(ファイアリザード)を取り出してみせた。火蜥蜴(ファイアリザード)の巨体がカウンターを圧し潰し、そのまま床に横たわる。その頭部は倒された時のまま──要するに、非常に()()()状態だ。



「ひいいいいいいぃぃぃぃ!!!!???」



 受付嬢が物凄い勢いで逃げていった。いや、気持ちは分かるよ。こんなものをいきなり目の前に出されたら僕だってドン引きだもん。


 あまりの光景に、周りで様子を窺っていた冒険者達も声をなくして固まっている。ガラムさんも一瞬呆然としていたが、そこは流石ギルドマスター。すぐに立ち直って怒鳴り声をあげた。



「バカ野郎!いきなり何てもんを出しやがる!」


「出せって言ったのはガラムさんじゃないですか!僕、場所を変えましょうって言いましたよね!?」


「いや、そりゃそうだが……まさか本当だとは……」



 僕に事実を指摘されたガラムさんは途端にしどろもどろになる。この人、最初から僕の事をホラ吹き扱いしてたからなあ。これがいい薬になってくれればいいんだけど。



「とにかく買い取りをお願いします」


「あ、ああ。分かった、すぐに査定するから少し待っててくれ」



 ガラムさんが奥に向かって指示を飛ばすと、査定の担当者らしき男性がすぐに出てきて火蜥蜴(ファイアリザード)の身体を調べ始める。



「頭部の損傷が激しいですね。魔法薬の素材になる眼球と、炎属性の矢の鏃に使われる牙については売り物になりません。ただ胴体は無傷ですので、高級革製品の素材に使われる皮と、炎属性の防具に加工される鱗には問題なし。買取値は──そうですね、革が金貨20枚で鱗が金貨40枚、合わせて金貨60枚といったところでしょう」


「ろ、ろくじゅう・・・!?」


「眼球と牙が無傷であれば、さらに金貨40枚は上積みできたんですけどね。残念ですが、こればかりは仕方ありません」



 ってことは、火蜥蜴(ファイアリザード)1体で金貨100枚になるってことか。はぁ~~……冒険者って稼げるんだな。ゴブリンキングを倒した時にも思ったけど、これ確実に金銭感覚がおかしくなるやつだ。



《それはシモン様が特別なだけなの。普通の冒険者が同じことをしたら、命がいくつあっても足りないの》


《ですよねー》



 普通の人間ならあの隠し部屋の入口には気付けないだろうし、中に入れたとしても火蜥蜴(ファイアリザード)との戦いに勝てなきゃ、そこで一巻の終わりだもんなあ。僕が無事に獲物を持ち帰れたのは化け物じみたステータスのお陰なわけで、これを当たり前と思っちゃいけないよな。


 ガラムさんから金貨の詰まった皮袋が手渡される。



「ほらよ、買い取り金だ。ったく、お前が悪魔やゴブリンキングを倒したっていう例のヨタ話も、今ならうっかり信じちまいそうだぜ」


「いや、それもウソってわけじゃ……いや、もういいや」



 受け取った皮袋の中身を確認する。うん、ちゃんと金貨が60枚入ってる。これだけの量ともなると結構重いもんだな。泥棒やスリにも気を付けなきゃいけないし、どうやって保管するか……あ、収納の指輪に入れておけばいいのか。



「あ、そうだ。稼ぎの一部をモルトの孤児院に送金したいんですけど、ここでお願いできますか?」


「勿論だ。預金・送金・貸付と、一通りのサービスは揃ってるぜ。もっとも、貸付に関してはよほど信頼のおける冒険者でもなきゃ相手にしないがな」



 そりゃそうだろうなあ。金を貸す相手として考えると、常に命を落とす危機と隣り合わせの冒険者は最悪の相手だろう。冒険中の事故で死なれでもしたら、その時点で貸したお金が焦げ付くことになるんだから。



「送金の手数料は送金先までの距離次第だ。モルトまでなら銀貨2枚だな」


「分かりました。じゃあ、これをお願いします」



 僕は受け取った金貨のうち10枚を収納し、残りの50枚に財布から銀貨2枚を付け足してガラムさんに渡す。それでも僕の手元には金貨40枚ほどのお金が残っている。これだけあれば、当分の間はお金の心配をせずに済むはずだ。



「金貨50枚とは随分と張り込むんだな。その孤児院になにか縁でもあるのか?」


「そういう訳じゃないんですが、僕も両親を亡くしてるので他人事じゃないというか……院長の司祭様にも色々とお世話になってますしね」


「そうか、今どき感心な奴だな。これでホラ吹きじゃなけりゃ言うことなしなんだが」



 まだ言うか、このオッサンは。



「いや、ホラ吹きなんかじゃないですって!」


「はっはっは、まあいいってことよ。よし、確かに金は受け取った。明日の定期便でモルトに為替を送るとして、向こうの孤児院に金が届くのは1週間は先になるな」


「ちょうど〝大賢者〟様に同行する冒険者の皆さんが揃う頃ですね」


「ああ、それなら1人だけもう到着してるぜ。ほら、あそこだ」



 ガラムさんが視線を送った先に目をやると、顔に大きな傷跡のあるエルフの女性が一人テーブルに着いて静かにお茶を飲んでいた。あれは──〝精霊姫〟のグウェンさん!?



「おーい、グウェン!ちょっとこっちに来てくれ!」


「わーっ!わーっ!ちょっとガラムさん、いきなり何を気軽に声かけてるんですか!?」


「はあ?お前ら近々一緒に迷宮に潜るんだろ?だったら、さっさと顔合わせを済ませておいた方がいいだろうが」


「いや、そりゃそうでしょうけど、いきなりあんな有名人を紹介されましても、その、心の準備が……」


「何を乙女みたいなこと言ってんだお前は」



 ガラムさんに呆れられてしまった。し、仕方ないでしょ!こっちは生まれてこのかたずっと山奥暮らしなの!有名人とか女性とかにはまるで耐性が無いの!ああっ、グウェンさんがこっちに来た!



「何か用ですか?」


「なに、ただの顔合わせだ。ほれ、そこで真っ赤になってもじもじしてるのが、お前と一緒に迷宮に潜ることになる〝悪魔殺し〟のシモンだ」


「よ、よろしくお願いします」


「……ひょっとして、以前どこかでお会いしたかしら?」


「はい、モルトの孤児院で一度お目にかかりました」


「あの時の……私はグウェン。よろしく」



 グウェンさんが僕の事をまじまじと観察してくる。うわあ、すっごい綺麗な瞳……。顔の傷の印象が強くて目立たないけど、この人とんでもない美人なんだよなあ。



「不思議な人ね。風の精霊たちが貴方に纏わりついてる」


「精霊?」


「こんなに精霊に好かれている人を見るのは、貴方で二人目」



 グウェンさんはそう言うと、遠い目をして黙ってしまった。



《ステラ先生、精霊ってなんですか?》


《この世界の全てを司る存在なの。火が燃えているところには火の精霊が、風が吹いているところには風の精霊がいるの》


《世界の全て……なんだか話が大きすぎて見当もつかないや。でも、目に見えないのはどうして?》


《普通の人に見えるのは精霊が起こした()()だけなの。精霊の姿を見るには、精霊使いとしての訓練が必要なの》


《なるほど。ってことは、グウェンさんはその精霊使いってことか》



 〝精霊姫〟グウェンといったら腕利きの冒険者として有名だけど、精霊使いってどういう戦い方をするんだろう。自分で戦わずに精霊に戦ってもらうのかな。



「なんだ、お前ら知り合いだったのか?」


「とんでもない!モルトの町でちょっと見かけたことがあるだけですよ」


「ふーん……まあいい。とりあえず早めに宿だけは決めておいてくれよ。今回の決死隊はお前ら2人を含む冒険者5人と〝大賢者〟バルタザール様の計6人だ。全員揃い次第、ギルドから宿のほうに繋ぎをつけさせてもらう」


「宿かあ……僕パナシエの町は初めてでよく分からないんです。お勧めがあったら教えてもらえませんか?」


「少し値が張ってもいいなら〝木漏れ日亭〟で、安く済ませるなら〝草笛亭〟だな。木漏れ日亭はなんといっても飯が美味いし、迷宮探索の冒険者には弁当も作ってくれるぞ。超の付く人気宿だが、この時間ならまだ空き部屋もあるだろう。草笛亭も飯は出すが、味はそこそこで弁当のサービスもない。だが、布団とシーツの清潔さに関しては木漏れ日亭にも見劣りしないと思うぞ」


「ああ、それなら草笛亭で十分──」


《木漏れ日亭にするの!!絶対なの!!美味しいご飯にお弁当……じゅるる》


「……やっぱり木漏れ日亭にします」



 僕としては安宿でも十分なんだけど、ここで草笛亭とか言ったらステラが間違いなくご機嫌斜めになるだろうからなあ。仕方ない、これも必要経費だ。



「なら私と同じ宿ね。一緒に行きましょうか」


「えええ、グウェンさんと一緒に!?いやいやいや、僕一人で行けますから!」


「貴方、木漏れ日亭の場所を知ってるの?」


「あ…………」



 こうして僕はグウェンさんと二人で宿に向かうことになった。


 ……どうしよう。どうすればいいのこれ?心臓の鼓動がバクバクとエラいことになってるんだけど。女性と二人で町を歩くのだって初めてなのに、それがこんな超美人の超有名人だなんて──いや、パニックになるな。落ち着け僕。深呼吸して素数を数えるんだ。2、3、5、7、11、13、17、19、23、29…………3547、3557、3559、3571ってこりゃ駄目だ、知能のステータスが高いせいか際限がない!



《はぁ……シモン様は女性に対してダメダメ過ぎるの。このぶんだと、また今回も清い体のまま輪廻しそうなの》


《うぐっ……何も言い返せない…………》

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