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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第1章 聖人シモンと魔界の脅威
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第1章 13話 今そこにある危機

「そうですか、僕に化けた悪魔がそんなことを……」



 オールストン伯爵から事の顛末を聞かされたエルネスト様が項垂れる。もともと民に優しいと評判だった人だ。いくら別人とはいえ、自分の姿をした者が他領の民に非道な真似をしたと聞かされては、心穏やかではいられないのだろう。



「シモン様には大変なご迷惑をおかけしました。できれば、そのマルクという少年にも直に会ってお詫びさせてもらいたいのですが」


「お気持ちだけで充分です。マルクには僕からよく伝えておきますから」


「そうですか……分かりました。シモン様にお任せします」



 エルネスト様はいかにも不承不承といった様子ながら希望を取り下げる。貴族の御子息ともあろう人がわざわざ孤児院の子供にお詫びしたいだなんて、エルネスト様本人は評判通りのいい人なんだな。

 でも、マルクはこのエルネスト様の姿をした悪魔に酷い目に遭わされたばかりなわけで、そこにいきなり本人がやってきたら卒倒しちゃうかもしれない。やはり、ご遠慮いただいたほうがいいだろう。



「それにしてもシモン様、貴方は一体何者なのですか?」



 うっ、やっぱりその質問が来ちゃったか。



「ぼ、僕はただの新米冒険者ですよ」


「いやいや、それはいくらなんでも無理がある。たった一人で悪魔を滅ぼし、さらにその呪いまで解いてみせるなど、神殿の高司祭にも至難の業だろう」


「しかも、君はセルマ様の業病まで癒している。認定冒険者の治癒師にだって、こんな芸当ができる者はまずいないぞ」



 オールストン伯爵とグローヴ子爵も痛いところを突いてくる。しかし「いやあ、実は僕、聖人なんですよ」と正直に言ったところで、頭のおかしい子と思われるだけだろうしなあ。



《信じてもらえたとしても、それはそれで多分大騒ぎになるの》


《大騒ぎって?》


《奇跡を起こす聖人の存在が知られたら、救いを求める人々が押し寄せてくるの。たぶん『救世主』とか『使徒』とかいう二つ名をつけられて、うっかり外を歩けないくらいの超有名人になるの。そして、そんなシモン様を取り込もうと神殿の偉い人たちが裏で色々と画策しだすの。ここまではほぼ確定的なの》


《うへえ……それは厄介だなあ》



 やっぱり迂闊に本当のことは言えないな。ちゃんとした言い訳はそのうち考えるとして、まずはこの場を凌がなきゃ。



「──あのう、僕のことなんかより、もっと重要なことを話し合うべきではないでしょうか」


「もっと重要なこと?」


「エルネスト様に化けていた悪魔は運よく退治できましたが、悪魔があれだけとは限りませんよね?」


「なんと……いや、確かに君の言う通りかもしれんぞ。本来、悪魔は魔界の住人。それが我々の世界に現れたとなると、どこかで魔界に通じる(ゲート)が開いている恐れが……」


「い、一大事ではないか!」



 オールストン伯爵の言葉にグローヴ子爵が慌てふためく。



「お二人とも落ち着いてください。魔界の(ゲート)が開いているのなら、速やかに発見して封鎖すればよいのです。これ程の危機ともなれば〝大賢者〟様も動いてくださるでしょう」


「な、なるほど!その手があったか!よし、すぐに冒険者ギルドに使いを立てよう」



 セルマ様は頼りになるなあ。〝大賢者〟バルタザールは空間魔法の超越者だったっけ。それなら、魔界の(ゲート)を封鎖するのには打ってつけだな。あとは(ゲート)の場所さえ分かれば何とかなりそうだ。



「エルネスト様、あの悪魔に遭遇した時のことを教えていただけますか?」


「うーん、あまりよく覚えてないんだけど……狩りの途中だったのは間違いないと思う」


「その狩りは、いつ何処で行われたのでしょう?」


「あれは確か花見の宴の翌日だったと思う。場所は僕ら子爵家の領地にあるパナシエの森だよ」


「パナシエの森……その森には確か地下迷宮がありましたよね」


「ああ、パナシエ森林迷宮だね。あれのお陰で、近くにあるパナシエの町はいつも冒険者で賑わっているよ」



 地下迷宮とは各地に点在する巨大な地下空間のことだ。どの迷宮にも様々な宝物が隠されており、一獲千金を狙う冒険者達の稼ぎ場となっている。しかし、そこには強力な魔物も数多く生息しているため、迷宮で敢え無く命を落とす不運な者も数多い。しかし、なぜこのような場所が存在するのかについては、未だ解き明かされぬ謎のままだ。



「グローヴ子爵様、ひとつ頼みごとをしても宜しいでしょうか」


「なんだね?他ならぬ恩人の頼みだ。私にできる事なら何でも協力させてもらおう」


「パナシエの町を拠点とする冒険者の中で、花見の宴が行われた時期を境に行方知れずになっている者がいないか、調査して頂きたいのです」


「お安い御用だが、なぜそんな事を?」


「迷宮の中は様々な不可思議が罷り通る世界と聞きます。魔界の(ゲート)の在り処として、最も可能性が高い場所といえるでしょう。そして、その魔界の(ゲート)を開いてしまったのが迷宮探索の冒険者だとしたら、その彼らが無事に帰還できるとも思えません。つまり、その時期に迷宮の中で行方知れずになった冒険者がいるなら──」


()()()()()()()()()()()()()という有力な根拠になる──なるほど、そういうことか!」



 グローヴ子爵が膝を打って椅子からがばっと立ち上がる。よしよし、いい流れだ。僕の正体の話題から上手いこと逃げられたな。



【技能 推理 のレベルが上がりました(Lv2→4)】



 くそっ、技能習得メッセージ(こいつ)からは逃げられないのか……!



「──さて、シモン君」



 オールストン伯爵がこちらに向き直る。



「調査の結果次第ではあるが、恐らく我々はパナシエ森林迷宮に決死隊を出すことになるだろう。悪いが、君にもそれに参加してもらいたい。もし本当に魔界の(ゲート)が開かれていたら、悪魔との戦いも想定しなければならない。そうなると〝悪魔殺し〟の存在は無視できないからね」


「えっ、僕は冒険者としては初心者もいいところですよ!?」


「もちろん君一人に重責を負わせるつもりは無い。〝大賢者〟様に主攻を担っていただくのは大前提として、他にも今声をかけられる全ての認定冒険者に同行を依頼するつもりだ」



 おおお、それは凄いな、〝大賢者〟様と認定冒険者のパーティか。それなら僕が戦いで役に立たなくても大丈夫だろうし、治癒の力が役に立つことだってあるかもしれない。



「分かりました。そういう事でしたら、喜んでお手伝いさせていただきます」


「おお、やってくれるか!」



 オールストン伯爵が表情を輝かせる。



「シモン君には世話になり通しだ。私の名に誓って、その働きに必ず報いさせてもらう」


「シモン殿は我らグローヴ子爵家にとっても恩人だ。私からも必ず御礼をさせてもらうよ」


「おおそうだ、我ら両家の恩人ともなれば、これは是非国王陛下のお耳にも入れなければなるまい。グローヴ卿はどう思われるかな?」


「オールストン卿、それは良い考えですぞ!その際は私もぜひご同道させて頂きたい」



 えええええ、何を二人で盛り上がっちゃってるの!?そんなに大げさにされたら逆に面倒なんですけど!国王様から正体を追及されるようなことになったら、もう国外逃亡するしかなくなっちゃうよ!?



「どどど、どうかお気遣いなく!謝礼など一切!一切無用ですので!何卒ご放念くださいませ!」


「──そうですね。謝礼の話は後で良いのではないでしょうか」



 ナイス助け船!さすがセルマ様、分かってらっしゃる!



「しかしセルマ、ここまでしてもらって謝礼なしでは済まされぬであろう?」


「まだ事は片付いておりません。謝礼は全てが済んだ後にまとめて考えられては如何でしょうか。それに──」



 セルマ様は一旦言葉を切り、こちらに意味深な微笑みを向けてくる。



「シモン様はあまり目立ちたくないのでしょう?」



 ……凄いなあ。なんでもお見通しって感じだ。僕の正体にも薄々勘付いてるんじゃないかな、この人。



「……分かった、ひとまずセルマの言う通りにしよう。では今後の動きについて、細部を詰めておこうか」



 オールストン伯爵の号令で、それぞれが為すべきことを確認していく。オールストン伯爵はモルトの冒険者ギルドを通して〝大賢者〟バルタザール様と認定冒険者たちに協力を要請。グローヴ子爵はパナシエの冒険者ギルドに話を通し、同時に迷宮からの未帰還冒険者について調査。僕は遠征の準備が整い次第パナシエに異動し、他の冒険者が集まるまで待機。そして、それぞれの連絡はパナシエの冒険者ギルドを介して行うことまで決まったところで、今日の集まりは解散の運びとなった。


 バーナードさんに見送られつつ屋敷から出て、日が暮れかかった町並みの中を歩いていると、通りの家から良い匂いが漂ってくる、もう夕飯時か。



《今日もシモン様は人助けしたの》


《エルネスト様の呪いを解いた話?あ、ひょっとしてまた〝星の銀貨〟が──!?》


《ううん、今回のは生死に関わる人助けじゃないからステータスへの影響はないの》


《良かった……良かったよ……》



 既に全ステータス1000越えを達成しておいて今さら何を……という感じもするけど、それでもこれ以上人間から離れるのは御免蒙りたい。



《しかし、皆さん喜んでくれたのはいいんだけど、あの程度のことでいちいち御礼なんかしなくていいのになあ。オールストン伯爵もグローヴ子爵も、貴族なのに随分と律儀な人達だよね》


()()()()()()()なんかじゃないの。悪魔の呪いを解くというのは、とっても大変なことなの》


《大変っていっても、僕は手を当てて念じただけなんだけど》


《普通なら、神殿の神官たちが百人がかりで三日三晩の儀式をしても、解けるかどうかは五分五分ってとこなの。それを触っただけで解いちゃうシモン様のほうが異常なの》


《えっ…………そうなの?》


《しかも、それだけの事をしておいて謝礼を受けようともしないんだから、もはや異常を通り越してるの。きっと皆さんからは無償奉仕フェチの変態って思われてるの》


《うおい!あの人達がそんな失礼なこと考えてるわけないだろ!!…………ないよね?》



 そうやって不安を書き立てるようなことを言うな!次に会った時にどんな顔をすればいいのか分からなくなるだろ!

 しかし、悪魔の呪いを解くのって、それほどの大事だったのか。祝福の力が凄すぎて、どうもその辺の感覚がマヒしてるなー。人前で力を使うのは、今後なるべく避けた方がいいのかもしれない。





《そんなことより晩ご飯なの。昼に食べ損ねたパンケーキのリベンジなのー!》


《はいはい、ステラはどんな時もステラだね……》

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