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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第1章 聖人シモンと魔界の脅威
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第1章 11話 一人で魔物狩り

 伯爵家訪問の翌日、僕は再びゴブリンの生息地であるレーニア山の麓までやってきた。ステラの強い勧めもあり、今日は単独で魔物狩りに挑むつもりだ。



《最近ステータスがよく伸びてるの。うっかり人を撲殺しちゃわないように、魔物相手に慣らし運転しとくべきなの》


《僕、いつの間にそんな物騒な存在になっちゃったんだろう……》



 しかし、町からここまでは普通の人なら片道4時間かかる道のりなのに、たったの20分で完走してしまったのには驚いた。敏捷性と体力もバカみたいに上がってるからなあ。


 目的地に着いた僕は、早速周辺の魔物の気配を探る。




《あれ?魔物がいない》


《仕方ないの。シモン様がゴブリンキングを倒したから、この近辺に出来つつあったゴブリンの群れが散らばっちゃったの》


《ああー……そういうことか》


《その代わり、ゴブリンキングに抑えられてた他の魔物がのさばってるかもしれないの。油断大敵なの》


《ほいほい了解》



 不意打ちを避けるため、気配感知をほぼ常時発動しながら探索を進める。すると──



【技能 気配感知 のレベルが上がりました(Lv4→5)】

【技能 気配感知 のレベルが上がりました(Lv5→6)】

【技能 気配感知 のレベルが上がりました(Lv6→7)】



《おいいいいいいい!?》


《どうしたの?》


《どうしたもこうしたもないよ!なんでこんな勢いでレベルが上がるの!?》


《ステータス相応なの》


《説明が簡潔過ぎない!?あ、そういえば肝心なことを聞いてなかった。この技能レベルの上限ってどれくらい?》


《ステータスに依存するの。気配感知の場合、知能と感覚の平均値がレベルの上限になるの》


《えっ…………ちょっと待って、ものすごく嫌な予感がする》


《平均的な人間だとLv10くらいが上限だけど、今のシモン様なら頑張ればLv1035まで上がるの》


《桁が違い過ぎるわ!そんなに頑張れないし、頑張るつもりもないよ!》


《上限1000超えのシモン様にとって、Lv7なんて初歩中の初歩なの。さっさとレベルアップするのも当然なの》


《そりゃ一般の人間のLv1にも満たない段階だもんなあ……。ところで、このLv7って世間一般ではどの程度の位置づけなのかな?》


《認定冒険者の斥候(スカウト)だったら持ってるかもって程度なの》


《既に超一流じゃないか……!》



 ステラの説明によると、Lv3で一人前、Lv5で達人、Lv7で超一流、Lv10が人類最高という位置づけらしい。ステータスに恵まれた者が厳しい修練を積めばLv10を超えることもあるそうで、そういった人には〝超越者〟という称号が付くそうだ。

 ちなみに〝竜殺し〟ジークフリードの剣技と〝大賢者〟バルタザールの空間魔法がそれぞれLv17で、存命の人間が到達している技能レベルとしてはこれが最高らしい。もちろん二人とも超越者だ。



 順調に人間の道を踏み外しつつあることに激しく動揺しつつも、僕は気配探知の範囲を広げていく。技能レベルが上がったお陰で、かなりの範囲をより正確に探知できるようになった。それでも、今のところ周辺1キロメートル半径を探るくらいが限界かな。


 ……いた。前方やや右手の800メートルほど離れた場所に、ゴブリンっぽい反応が5つほどある。早速、僕は気配を殺して忍び寄る。



【技能 隠密 のレベルが上がりました(Lv2→3)】

【技能 隠密 のレベルが上がりました(Lv3→4)】



 この僅か800メートルほどの忍び足で、隠密のレベルが2上がった。あはははは、もう笑うしかないや。


 僕の精神は崩壊寸前だが、ゴブリンに気づかれることなく近寄ることには成功した。探知した通り、全部で5匹。こないだのゴブリンキングのような特殊個体はいないようだ。



「よし、行くぞ!」



 地面を蹴ってゴブリンに一気に詰め寄り、こちらに気づかれる前に1匹の首を跳ね飛ばす。返す刀でもう1匹のゴブリンを切り伏せたところで、漸くゴブリン達がこちらを認識して迎撃態勢をとる。しかし、その瞬間には既に僕は彼らの背後に回っている。そこからさらに剣を三度振るうと、ゴブリンの集団は全滅した。



「……なんだか、思ってたよりもアッサリ倒せちゃったな」


「シモン様ならゴブリン如き敵じゃないの。オーガでもトロールでもドンと来いなのー」


「不吉なこと言うなよ!?本当に来ちゃったらどうすんだ!」



【技能 剣技 のレベルが上がりました(Lv3→5)】



 あ、そっちが来ちゃうんだ。なるほどなー……。


 倒した5匹のゴブリンから討伐証明部位である右耳を切り取って麻袋に放り込み、さらに魔物の探索を進める。ゴブリンとの戦いが思いのほか簡単に終わってしまったので、今度はもう少し強い魔物を狙いたいところだ。


 引き続き気配探知に集中していると、後方から物凄い勢いで近づいてくる反応が見つかった。少し大きめの反応がひとつ。遠くから聞こえてくる大地に響くような足音が、徐々に近く、そして大きくなってくる。僕は息を鎮め、剣を抜いて身構える。これは間違いなくアイツだな。



「ブモモ~~~~ッ!!」


「来たな、赤猪(レッドボア)!」



 森の中をひたすら暴走し、ぶつかったもの全てを粉砕するという猪の魔物だ。肩の高さは2メートルほどで、体重は700~800キロほどあるだろうか。その体当たりは大木をも打ち倒し、強剛な牙と万力のような顎の力で、口に入るものなら何でもかみ砕いてしまうという、暴食の巨獣。狩人時代の僕なら一目散に逃げだす相手だ。でも今の僕なら──



「悪いけど、力試しに付き合ってもらうよ!」



 剣を収めた僕は全身に力を込め、赤猪(レッドボア)の突進を正面から待ち受ける。相手にとって不足なし!さあ来い、力勝負だ!!



ゴキン!


「ブモッ……!?」



 驚いたことに、赤猪(レッドボア)の突進を喰らっても、僕の身体は動じることすらなかった。むしろ被害が大きかったのは激突してきた赤猪(レッドボア)のほうで、猛スピードで鋼鉄の壁に激突でもしたかのようにフラフラとよろめき、そのままバッタリと倒れて動かなくなった。……えっ、死んじゃったの?僕まだ何もしてないんだけど。



【技能 物理耐性 を習得しました(Lv2)】



 おっと、なんだか見慣れない技能が身に付いちゃったぞ。なんだこれ?



《物理攻撃に対する耐性なの。レベルが高くなるほど、殴られたり切られたりしても大怪我をしなくなるの》


《防御強化の技能ってことか。そりゃありがたいな》


《あら、意外と落ち着いてるの。新しい技能が身に付く度に大騒ぎしてたシモン様にしては珍しいの》


《だって、防御の技能ならうっかり他人を傷つけちゃうようなこともないから……》


《うっうっ、シモン様ったら不憫なの……》


《ところで、この技能のレベルってどうすれば上がるの?》


《簡単なの。いっぱい攻撃を受けて、それをひたすら我慢すればいいの》


《それが鍛錬!?見ようによっては、とんだ変態じゃないか!》



 とりあえず、狩った赤猪(レッドボア)の解体を始める。こいつの場合、高く売れるのは毛皮と肉だ。解体用のナイフで心臓の近くを深く切り込み血抜きをし、内臓を取り出す。それが終わったら、いよいよ皮剥ぎと枝肉の切り出しだ。この辺はサイズが大きいだけで普通の猪と大差ないなー。本来なら大変な力と器用さを要する作業なんだけど、ステータスのお陰かさくさくと作業は進んでいき、ものの30分ほどで粗方の解体が片付いてしまった。



【技能 解体 のレベルが上がりました(Lv1→3)】



 ──うん、これに関してはまあ納得。平均的なステータスの人間なら5時間はかかる作業だったもんな。


 しかし、困ったことに折角解体した赤猪(レッドボア)の肉や毛皮を全て持ち運ぶような手段がない。食べられる肉だけでも300キロはありそうだ。馬車でもあればいいんだろうけど、こんな山奥まで馬車を牽いてくるわけにもいかないしなあ。

 よし、とりあえず今回は持てるだけの物を担いで町に運ぼう。僕の足なら町まで片道20分程度なんだし、なんならピストン輸送したっていい。他の獣に食べられてしまいそうな肉だけは先に運ぶとして、毛皮はこの辺に置いといて後でまた取りに来ればいいか。



《ステラー、一旦町に戻るよー》


《えっ、まだ来たばっかしなの。私達のハンティングタイムはこれからなの》


《ほんと生臭天使だなあ……いやほら、これ以上獲物を増やしても町に持ち帰れないでしょ。無駄な殺生になっちゃうよ》


《んー、仕方ないの……》



 肉の塊をロープで縛ってひとつにまとめて背負ってみる。あ、これ全然重くないわ。せいぜい羽根布団くらいの重さしか感じない。



《今のシモン様ならアイアンゴーレムでも1人で担げるの》


《僕の筋力、半端ないな……》



 肉を担いだまま走ってみる。うん、特に問題はないな。でも荷崩れしそうで怖いから全力で走るのはやめておこう。とりあえず6割程度の速さでゆっくりと。


 それでも、40分も走れば町に辿り着いてしまう。冒険者ギルドの入り口を潜ると。相変わらずカウンターではギルドマスターのアーロンさんが蜷局を巻いていた。



「アーロンさん、赤猪(レッドボア)を狩ったんで、肉の買い取りをお願いします」


「なに、赤猪(レッドボア)だと──っておい!それ1人で担いできたのか!?」



 僕が買い取り受付のテーブルにドサリと放り出した300キロの肉の塊を見て、アーロンさんは口をパクパクとさせて固まってしまった。



「はい。血抜きはしてあるんでこのまま卸せると思いますが、とりあえず確認をお願いします」


「……たまげたな。お前、その細っこい身体でどんだけ馬鹿力なんだよ。分かった、早速検品させてもらおう」



 アーロンさんが目配せすると、片眼鏡をかけたギルドの職員が肉を吟味し始める。それを横目で軽く見やった後、アーロンさんは僕の方に向き直る。



「しかし、冒険者になってからまだ日も浅いってのに、ゴブリンキングやら赤猪(レッドボア)やらをいとも簡単に狩ってきやがってよ。お前、一体何者だ?」


「あ、話は後でいいですか?狩場に毛皮を置きっぱなしにしてるんで、今からすぐ戻って取ってきますから」


「はあ?」


「あ、あとこれ。ゴブリンも5匹ほど狩ったんで、証明部位の右耳です。これも納品しますんで宜しくお願いします」


「お、おう。だがちょっと待て、狩場って一体どこ──」


「じゃあちょっと行ってきますね!」



 邪魔な荷物を降ろしたから、行きは全力で走れる。20分ほどでレーニア山の麓に辿り着き、そこに置いてあった毛皮を背負うと、再び町に向かって走りだす。町への戻り道は荷崩れしないよう慎重に走ったが、それでも往復で1時間程度だ。



「ただいま戻りました!毛皮を持ってきたんで買い取りをお願いします」


「いくらなんでも速過ぎるだろうが!一体、どこの狩場に行ってきやがったんだ!?」



 ギルドに駆け込むやいなや、アーロンさんからいきなり頭ごなしに怒鳴られた。



「どこって、レーニア山の麓にある森ですけど」


「片道4時間はかかる場所じゃねえか!一体どんな魔法を使いやがった!?」


「普通に走りました」


「走った!?その足でか!??」


「僕、普通の人よりも少し足が速いんですよ」


「少しどころじゃねえだろ!!……いかん、頭が痛くなってきた」



 その気持ち分かります。まるで、つい先日の僕を見ているようです……。



「……まあいい。余程の事でもなけりゃ、ギルドが冒険者に詮索するのはご法度だからな。こっちとしちゃ、持ち込まれる品物に間違いがなけりゃそれでいい。──おい、こいつが持ち込んだ毛皮の査定を頼む」



 また片眼鏡の職員が出てきて毛皮を確認し始める。このギルドで鑑定を担当してる人なんだろうな。



「……これといった外傷無し。品質は上々ですな。赤猪(レッドボア)の肉はキロあたり銀貨1枚が相場ですから、300キロで金貨3枚。毛皮のほうは品質分を上乗せして金貨2枚。さらにゴブリン5匹の討伐報酬が銀貨5枚。合計で金貨5枚と銀貨5枚での買い取りになりますな」



 片眼鏡の人がそう言うと、アーロンさんが手文庫から無造作に金を掴んでよこしてくる。ゴブリンキングを狩った時の報酬と併せて、通算獲得報酬は金貨30枚を超えた。ステラと外で食事すると1食あたり銀貨5枚くらい飛んでいくから、大体600食ぶんの食費ってとこか。いや、自炊すればもっと節約できるし、家があるから宿代は無視できる。切り詰めて生活すれば、このお金だけでも1年くらい暮らしていけるんじゃないかな。



《さあ、どんどん魔物を狩ってがっぽり稼ぐの!稼いだお金で美味しいものを食べまくるのー!》


《欲望が前に出過ぎだよ!頼むから少しは自重して!!》



 ステラがいる限り、切り詰めた生活なんて夢のまた夢だなあ……。

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