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聖人シモンと星の銀貨  作者: 日比野暮
第4章 聖人シモンと竜王国の謎
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第4章 23話 事後報告と縁結び

 エルム王国の王都エルミナス。その中心に聳える王城ドラゴンパレスの謁見の間に、僕と師匠とジークさんの3人は揃って肩を並べていた。


 玉座に座る国王リチャード二世陛下の隣にはオーレリア姫が控え、僕たちの両脇にはオールストン伯爵家とグローヴ子爵家の皆さんが並んでいる。



「それで、守護竜様は神竜となって天界に昇られたのだな?」


「はい。これからは、この国を天界からお見守り頂けるとのことです」


「そうか──」



 僕たちの報告を聞き終わった国王は大きく息を吐き出し、目を閉じて玉座の背もたれに身を預けた。



「シモン、それからバルタザール殿にジークフリード殿。真に大儀であった。このリチャード、この通り感謝する」


「私からも感謝いたします。皆さま、本当にありがとうございました」



 僕たちに深々と頭を下げてみせた国王とオーレリア姫に、師匠が揶揄うような声をかける。



「これこれ、王家の者がそう簡単に頭を下げてどうする」


「むしろ我らが頭を下げるくらいでは済まんだろう。守護竜様は呪いから解き放たれ、我ら王家も断絶を免れた。しかも、これからは神竜となった守護竜様が我が国をお守りくださるという。これ以上の喜びがあろうか」



 そう語った国王の表情は、今まで見たどんな時よりも晴れやかだった。



「まあ、殆どシモン一人でやったことで、ワシらは何もしとらんのだがな」


「なんと……それは真か?」



 師匠の言葉に驚いた国王は、呆気にとられたような視線を僕に向ける。

 そして、国王以上に驚いていた僕は、慌てて弁明を始めようとした。



「めめめ、滅相もございません!師匠とジークさんの加勢がなければ──」


「はて、ワシらを置いて単身で守護竜殿に立ち向かおうとしたのは誰じゃったかのう?」


「うっ……」


「爺さんの言う通りだ。古竜の呪いを解いたのもシモン君だからな」


「で、でもそれは神様から授かった祝福の力のお陰で──」


「神様から()()授かった力なんだろう?なら、それは〝君の力〟だろうが」


「ううっ……!」



 鋭い指摘に思わず言葉が詰まってしまった僕をみて、二人はにやにやと笑みを浮かべている。

 くっ……!この人たち、わざとやってるな!


 そんな僕たちのやり取りを、国王が笑って制止した。



「さて、余はお主らの働きにどのように報いればよいのだろうか。これ程の功績、国を挙げて盛大に祝った上、相応の爵位と領地を与えるくらいのことはしなければならぬだろうが……」



 この言葉に、オールストン伯爵とグローヴ子爵が揃って意見した。



「陛下、私も全くの同感です。しかし名分が立ちませぬ。〝呪いを受けた古竜により王家が苦しめられてきた〟という真実を知らない者どもに、彼らの功績をどのように説明するのです?」


「オールストン伯の仰る通りです。名分が立たぬ以上、何も知らぬ貴族たちからの反感を買うことは必定。かといって、守護竜の真実をを公にするのも難しゅうございます。エルム王国の建国伝説に傷がつきますし、守護竜を崇めてきた神竜教の信者たちからも、少なからぬ反発を招くでしょう」


「ふむ……」



 まさか反対されるとは思っていなかった国王が渋面を作るが、その彼にしても二人の意見が正論であることは認めざるを得なかった。

 束の間、謁見の間に微妙な空気が漂ったが、そんな中で明るい声を上げたのはオールストン伯爵の夫人であるセルマ様だった。



「陛下、なにも難しく考えることは御座いません。彼らは冒険者です。爵位や領地に縛られることなど元から望んでおりますまい」


「ならば余にどうせよと?」


「それは私ではなく、彼ら自身にこそ尋ねるべきで御座いましょう」



 セルマ様は手で僕たち三人を指し示すと、こちらに「分かってるわよね?」といった風な笑みを向けてきた。参った、これでは爵位や領地など望みようもない。まあセルマ様の言う通り、僕には元からそんなつもりは無かったけど。

 僕たちの望みを叶える態をとりながら、押さえるべきところは押さえる。切れ者のセルマ様らしい、見事な仕切りだ。



「ワシらには気遣い無用じゃ。今さら爵位なんぞ頂いても面倒なだけだしのう」


「俺も爺さんと同意見だ。そもそも今回の件、俺と爺さんはギルド経由の依頼で動いている。であれば、その報酬もギルドを通して頂くのが筋だろう」


「……相分かった。せめて、ギルドへの謝礼には色を付けさせてもらおう」



 なんでも、竜の巣へと乗り込もうとした僕に最高の護衛を付けるべく、王家は冒険者ギルドに緊急の指名依頼を出したんだそうだ。金級冒険者である師匠とジークさんを指名した依頼となれば、その依頼料はとんでもない高額だったに違いない。でも、この二人がいなかったら僕は間違いなく生きて戻ってこられなかったわけで、国王陛下のご高配には感謝するほかない。



「シモンよ、お主は何を望む?」


「私は何も要りません。この国に生きる民として、当然のことをしただけですから」


「お主は本当に無欲だな。しかし、王家にも体面というものがある。功績を挙げた者に何ら褒美を渡さないでは済まされんのだ。なんでも良いから申してみよ」


「はあ……」



 僕は途方に暮れてしまった。そんないきなり欲しい物とか言われてもなあ。今はお金にも住む場所にも困ってないし。


 そんな時、国王の隣にいるオーレリア姫の姿を見て、ひとつ思いついたことがあった。



「……それならば陛下、恐れながらひとつだけ望みがございます」


「ほう、どのような望みだ?」


「今回のことで、オーレリア姫が竜の贄になる必要はなくなりました。となれば、姫の今後を考えなければなりません」


「娘の今後?」


「はい。簡単にいいますと、誰を婿に迎えるのかという話です」


「……!!」



 国王がはっとして目の色を変える。

 オーレリア姫はもうすぐ18歳。王家の姫ともなればとっくに嫁いでいるか、少なくとも許嫁が決まっているはずの年頃だ。でも、贄となることが決まっていた姫は、これまでそういった話と一切関わりがなかった。

 しかし、その心配がなくなった以上、王家存続のためにもどこかから婿を迎えなければならない。


 国王の隣では、話を理解したオーレリア姫が頬を赤く染めている。



「もしや、自分がその婿になりたいというのか?」


「まさか!私にはそんな大それた望みなどありません。ただ、ある人を推薦させていただきたいのです」


「ほう、それは誰だ?」



 国王の問いかけを受け、僕は謁見の間に並んだ顔のうちのひとつに視線を向ける。



「姫様付きの近衛騎士にしてグローヴ子爵が長男であるロデリック様。彼こそが姫様の婿として相応しい人物と存じます」



 それを聞いたロデリック様は飛び上がらんばかりに驚いた。



「ちょ、ちょっと待ってください!私と姫とでは身分が違い過ぎます!」


「息子の言う通りです。それに、ロデリックめは姫様と共に失踪していたのですぞ?法に照らせば明らかな大罪人。それを姫様の婿になど、とんでもない話です」



 ロデリック様の父親であるグローヴ子爵も異論を唱える。



「恐れながら、陛下にお尋ね申し上げます。陛下にロデリック様の罪を問われるつもりはお在りですか?」


「いや、そのようなつもりは無い。ロデリックの行動は、偏に姫の身を案じてのことであろう」


「では、姫君にお尋ねします。ロデリック様を婿として迎えることに、貴女は反対なさいますか?」


「…………」



 頬を染めた姫がロデリック様に視線を送る。

 ロデリック様は困ったような表情を浮かべているが、林檎のように紅く染まった顔が彼の内心を雄弁に物語っていた。



「……反対などいたしません。するものですか。私が生涯で愛するのはロデリックだけです」


「姫様!」



 オーレリア姫の告白に感極まったロデリック様は、その場にがばっと膝をついて頭を垂れた。

 急すぎる展開に誰もが驚きの表情を浮かべ、謁見の間に沈黙の時が流れる。

 

 そのまま少し時が経った後、ふうっと息を吐き出した国王が、ようやく口を開いた。



「……まったく、今日は何という日だろうか。守護竜様の呪いが解かれただけでなく、娘の婿まで決まってしまうとは」


「お父様!」

「陛下!」



 それは姫とロデリック様の結婚を認める言葉だった。それを聞いた二人は感激の声をあげた。



「陛下!本当にそれで宜しいのですか?」


「グローヴ子爵よ、それ以上言ってくれるな。余の娘は贄となるべくして生まれてきた。民のために自らを犠牲にするという、厳しい運命と共に生きてきたのだ」


「それは……」


「その娘が、漸く自分の幸せを掴もうというのだ。ならば、余はその意に沿ってやりたい。……ふっふ、これも親馬鹿というものであろうか」



 そう言って陛下が笑みを浮かべると、グローヴ子爵は深々と一礼して引き下がった。



「婚約の発表は、失踪事件のほとぼりが冷めた頃合いを見計らって行うこととしよう。二人とも、それでよいな?」


「はっ!」

「お父様、ありがとうございます!」



 若い二人は表情を輝かせ、国王に深々と頭を下げた。

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