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おっぱいシリーズ

おっぱい揉んでもいいですか?

「おっぱい、揉んでもいいですか?」


 男は至って真面目な顔でそう言った。












===


 ある春のこと。

 あっちへこっちへと学生が登校する姿を横目にその男は制服も着ずに町を歩いていた。

 多田ただたかし。十七歳でちゃんと高校にも通っている。

 黒髪は短く切り揃えられ、もちろんそこにフケが浮いていることもなく。制服こそ着てないものの汚れもなくシワも伸ばしたちゃんとしたシャツを着ている彼には清潔感があった。

 顔つきは決してイケメンとは言えない凡庸なものだが、きちんと身だしなみをして背筋をピンと伸ばし、まっすぐ前を見て歩く彼の姿は、見るものにそれなりの好印象を持たせまさか彼が学校をズル休みしているなどとは誰にも思わせない。

 そうこの男、悪びれることもなく爽やかな好青年の如く振る舞うこの男。周囲の学生を気にもせず外の空気を楽しむこの男は。

 そこに一切の罪悪感を覚えることもなく、白昼堂々とズル休みをしているのである。


 しかしながらこの男。

 隆はそれなりに真面目な学生で別に学校が嫌になったとかそういう理由でズル休みをしているのではなかった。

 例えばそれが青春っぽいからなどと青臭い理由でもない。

 そう隆には確かな目的があった。

 それは長い時間をかけて徐々に蓄積されていったとある衝動に起因している。

 あれは隆が中学生の時のことだった。

 クラスで気になっていた女の子が隆のすぐ側で躓き転びそうになった。

 その時隠れて目で追っていた隆は咄嗟に腕を回して助けることができたのだが、その際に女の子の胸に小指一本ではあるが触れてしまったのだ。

 幸いにも隆が気になっていたその女の子は自身が助けられたことを十分に理解しており、少し顔を赤らめながら礼を言い、隆も真摯に謝ったことでその後いじめられることも変に避けられることもなかった。

 だがその経験は隆にとって凄まじい衝撃だった。そしてそれを機に隆はおっぱいが大好きになったのだ。

 ちなみに気になっていた女の子と地味にフラグも立っていたが隆はそれに気づかなかった。

 なぜなら隆が何よりも誰よりもおっぱいが好きになってそれしか考えられなくなっていたからだ。

 そしておっぱいのことばかり考える隆は当時考えるだけで満足だった。

 だから周囲の女の子に思春期特有のいやらしい視線を向けることは一度もなく、それでいて普通に優しい隆は女の子の間でも噂となり地味にモテ始めていたがやはり気づかなかった。

 だって隆はおっぱいが好きだったから。

 おっぱいのことを考えているだけで幸せで常に賢者タイムだったから。

 だから隆は気づかなかった。

 おっぱいってすごい。


 閑話休題。

 隆はおっぱいが好きだ。大好きだ。

 そして考えるだけで満足していたあのときよりも想いは募り。

 ついにはおっぱいを揉みたいという衝動を抑えられなくなった。

 だからこそのズル休み。

 実は昨日から隆の両親は二泊三日の夫婦旅行へと出かけている。

 結婚して長い時を経た今も隆の両親はラブラブだった。そんな両親のことが隆も好きだったので夫婦旅行に彼も賛成したのだ。

 そう、だからこそ今日隆はズル休みをした。

 今日だけは絶対に家に誰も居ないからこそズル休みをしたのだ。

 外を歩く隆の目的地。それは自宅から少し離れた場所にある公衆電話だった。

 それもコンビニの外にぽつんと設置されてるようなものではなくちゃんと外界から隔離されている電話ボックスに備え付けられているタイプの公衆電話を目指していた。

 全てはおっぱいを揉みたいという衝動のために。

 彼女でもなんでもない人のおっぱいを揉めば青い制服を着た怖い人に追われることになる。

 だからそれがオッケーなサービスを隆は求めることにした。

 そう電話でデリバリーされるあれを求めたのである。隆はこの日のためにお小遣いもお年玉もじっくり貯めていた。

 なぜ公衆電話を使うのかと言えば自宅の電話やスマホを使うのはちょっと……という隆の最後の理性だった。バカじゃねえのこいつ。

 なお当たり前だがそういったサービスを高校生が、そうでなくても十七歳の男が利用するのはアウトである。

 アウトであるがなんやかんやお金が欲しい人とぐへへなサービスが欲しい人それぞれの利害が一致してしまうのでなんやかんや大丈夫だろうと隆は考えていた。

 人間社会とは斯くも闇の深い世界なのである。


 そうして隆はついに目的の電話ボックスへとたどり着いた。

 爽やかな好青年もどこへ行ったのやら流石にそわそわしつつ受話器を取り小銭を入れる。

 逸る気持ちを抑え、おっぱいを求める衝動によって活性化した脳細胞に記憶された番号を一つ一つ打ち込んでいく。

 隆はついに胸に抱いた衝動を解放できる期待で胸がいっぱいだった。そして最後の番号を打ちこもうとしたその瞬間。

 凄まじい音が響いたような気がして。

 直後、隆は意識を失った。

 ――――永遠に。


 一体何があったのか。

 それはある意味奇跡だった。なんとピンポイントで隆がいた電話ボックスに隕石が直撃したのである。もっといえばその中にいた隆の頭部を直撃した。

 隕石はもともと大きなものではなく、さらに落ちる際の熱で削られていたけれどもピンポン球ほどの大きさを残していた。

 しかしそれほど小さい隕石だとしても、ピンポイントで直撃したならば。それは人を殺すに十分余りある凶器であった。

 なんと残酷な運命だろうか。

 否。

 結果論だが、もしもこの日隆が学校をズル休みしなければ。

 あるいは微妙な羞恥心のもと自宅の電話を使うことを避けていなければ。

 隕石は無人の電話ボックスを破壊するだけに留まっただろうし、隆もおっぱいを揉むことができたかもしれない。

 そう、おっぱいを揉みたい。

 隆の強いその思いこそがこの運命を手繰り寄せてしまったのである。

 即ち。

 おっぱいが運命を変えたのだ。

 おっぱいってすごい。



===



 その空間には巨大な天秤があった。

 天秤の片方にはこの世のものとも思えぬ美しき女性が慈愛の笑みを浮かべ、すぐに折れてしまいそうなほど華奢な椅子にそっと腰掛けている。

 美しき女性が纏うのは天使の衣装というイメージを具現化したかごとく最低限隠すだけの薄いもの。

 ともすれば頼りないそれは。しかし不思議と隠すべき場所はどの視点からも巧妙に隠しているが、それが一層扇情的な雰囲気を醸し出している。


 そして。

 それと向かい合う形で天秤のもう片方に、いた。

 宝くじに当たるよりも確率の低い死に方をしたあの男が。多田ただたかしの姿がそこにあった。

 未だ現状を理解できていないのか隆は間抜けにも公衆電話で電話しようとしたポーズのまま固まっている。

 やがて呆然と周囲を見渡しやがて正面にいる美女に気付くと彼女の刺激的な姿に顔を赤らめ慌てて視線を逸らす。

 そうして今度は自身の姿が目に入った。

 

「ええっ」


 ――――全裸だった。

 咄嗟に手で恥部を覆い、恐る恐る目の前の女性を窺い見る。

 女性は相変わらず慈愛に満ちた優しい笑みを浮かべていた。

 少なくとも通報されることはなさそうだ。そう考える隆だったが、すぐにそんなこと考えてる場合でもないことに気づく。

 ここはどこだ。

 いつ、どうやって、なぜ。

 現状を認識し頭の中でいろいろな疑問が浮かんでは答えも得られないまま流れていく。

 そうしてしばしグルグルと考え込んだ後、隆は縋るように目の前の女性へと視線を向けた。


「――――多田隆さん。お気の毒ですがあなたは死んでしまったのです」


 とても。

 とても静かで、優しい声だった。

 その声が紡いだ言葉はじんわりと隆の頭の中に溶け込んでいく。

 気づけば頭の中の混乱は洗い流されて。とても落ち着いた気持ちで自身が死んだことをはっきりと理解し受け止めることができていた。

 同時に目の前の美女がいわゆる女神様であることを悟る。


「ここは魂導く天秤の間。あなたに分かりやすく言えば天国へいくか、地獄へいくか。それを審判する場にございます」


 隆が状況を理解したことを察知した女神は次にこの空間について語り始めた。

 そうここはいわゆるあの世の入り口。

 魂は天国か地獄どちらかを経て浄化されやがて輪廻の輪へと戻るのだ。

 どちらへ行くのか。それを決めるのは生前にあらず。

 今この場で齎される問いに対して何を答えるか。

 ただそれ一点のみで審判は成されるのである。

 隆はゴクリと唾を飲み込んだ。

 そして女神は問いかける。


「さて。それではあなたに問います。あなたの願いはなんでしょう? もしそれが善き願いであると私が判断したならばそれを叶えた上で天国へと送りましょう。反対に、それが悪しき願いであるならば残念ながら願いは叶えられませんし、行き先も地獄になります。願いが悪しきものであることを恐れるならば何もないと答えなさい。そうすれば願い事は叶いませんが、やはり天国へと送りましょう」


 女神が口にする言葉は最初のときと同じようにスッと染み込み、その言葉に嘘はないことを隆に理解させた。

 そう、女神が言う通り何もないと言えば天国には行ける。

 たとえ安易に苦痛から逃げようとしてのものだったとしても関係なく天国に行けるのだ。

 一方で願いを告げた場合。それが善と認められたならば願いを叶えてもらった上で天国に行ける。ただし悪とされれば地獄行きというリスクがあった。

 しかも善悪を決めるのは神であって人ではない。人の善悪が通じるのか。そういったことも考えなくてはならない。


 しかし、この男は!

 隆は迷わなかった!


「おっぱい、揉んでもいいですか?」


 至って真面目な顔でそう言った。








 おっぱいを揉みたい、ではない。

 おっぱいを揉んでもいいですか、と。

 そう。隆は事もあろうに女神のおっぱいを揉みたいと口にしたのだ。

 しかし、そこに迷いはなかった。

 なぜならば隆はおっぱいが大好きで、おっぱいを信じていた!

 素晴らしいものであることを理解していた!

 だからこそ隆は最初っからもう女神のおっぱいを揉みたくてしかたがなかった。

 なぜ神が人の姿を取っている?

 しかもとんでもなく美しく、おまけにとんでもなく扇情的な衣装をしているのはなぜ?

 おっぱいは善だからだ!!!

 隆は心の底からそう思っていた。

 実際それを告げた隆に邪な気配など欠片もなく、むしろどこまでも純粋な思いに溢れていた。


 女神はジッと隆を見つめた。

 まさかこの状況でからかっているのでは、と探るように。

 だがそれが本気であるとすぐに気づいた。

 そしてふっと表情を和らげると女神は優しく微笑んだ。

 それを受け隆も目をキラキラとさせながら照れくさそうに笑みを浮かべる。











「地獄行き」


 瞬間、隆は女神から発せられた魔力っぽい何かの直撃を受け、遥か彼方へと吹き飛んでいくのだった。












気が狂ったら続き書く可能性

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