イカの塩辛茶漬け
『OLと合コン! 合コン!』と、同級生にせかされて、メールを頻繁にやりとりし、相手側が店を決めてくれて、急遽翌週末に合コンをした。俺は仕事を早めにあがらせてもらって、急いで店に向かったが、一応男側の幹事になるのに、ちょっと遅刻してしまった。急だったので、人数は三対三。こっちは全員同い年。俺とメールをやり取りしている彼女は四年目の二十六歳で、同期の女性のほかに、二次会受けつけをしていた一年目の女性が来ていた。
「遅刻です」
メールのやり取りが重なって、ずいぶんくだけた態度になっている彼女に、笑顔でたしなめられた。前に会ったときと同じに、女性らしい服装をしている。フリルのついたベージュのブラウスが映える、襟の開いたセーターに、裾が広がったスカート。
「申し訳ない」
「お前、休みが合わない上に、忙しいもんな。だったら連絡つけやすいように、LINEくらいやればいいのに」
合コン! 合コン! の同級生が、ノリよく、女性たちに笑顔を向けた。
「今後の連絡をとりやすいように、俺のLINEのIDを渡しとくね」
「あ、LINEはしてないんです」
「またまた~」
「いえ、本当に。学生の頃はLINEだったんですけど、社会人になってからはやらなくなりました」
「えー? じゃあ、君みたいな美人と連絡を取るときは、どうしたらいいの?」
「インスタグラムをしてます。そちらにどうぞ」
やりとりに目を白黒させてしまった。ガラケー持ちのうえ、SNSを何もしてない自分が化石みたいな存在だとはわかっているが、もうLINEも古いのか。全然、時代についていけない。
「お休みが合わないのに来てくれたんですか?」
彼女がこっちを見て訊き、長い髪がふわっとした。
「今日は仕事帰りです」
「宅急便屋さんだもんな」
同級生が言った。
「それで細マッチョなんですね」
彼女の言葉に、他の女性たちがうなずいた。
「仕事で筋トレできるってずるいよな。俺なんて忙しくてジムにも行けないのに」
同級生の口調が気になった。なんか、嫌な感じなんだ。こんなしゃべりかたをするやつだったかな。
合コン! 状態の彼が、終始会話を引っ張って、なかなか口を挟めなかったが、しばらくしてようやく、結婚した同級生がその後どうしてるか訊けた。合コンの打ち合わせでいっぱいいっぱいで、メールではそんなことまで訊きにくかったんだ。
「今週は新婚旅行で、水曜日から出勤されてました。課長は消化していない有休がずいぶんあったから、時期を選べばもっと休みを取れたんでしょうけど、急に結婚が決まったので、あまり長い休みは遠慮されたんだと思います」
「彼女のほうは、一か月休みを取りたいとか言ってましたよ。社会人が無理に決まってるのに。新婚旅行でヨーロッパ一周が子供のころからの夢だったそうです。それが温泉旅館になってしまったって愚痴ってました」
新婦と同期の女性が呆れた口調で言う。
「つわりがひどいってこぼしてたのに、ヨーロッパなんて、何時間も飛行機に乗るなんて無理ですよね。旅行のためなら我慢するってって言ってましたけど、つわりって、我慢しようとしてできるほど、都合のいいものじゃないでしょうに」
「体調がよくないなら、温泉のほうがゆっくりできてよさそうだし。あ、妊婦って温泉に入ったらよくないんでしたっけ?」
妹にそんなことを聞いたような。
「妊婦も入れる温泉だそうです。さすが、課長は抜かりがないです」
彼らしいな。
「でも、仕事に戻った課長が、すっごく疲れた様子だったんで心配です。新婚旅行帰りって普通はもっと幸せいっぱいじゃないですか?」
「もう二人は一緒に住んでるんですよね」
「はい。でも、彼女は家事ができないから、大変かも」
「えー? あんなに可愛くても、家事ができない子と結婚なんて、無理ゲーだ」
合コン! 同級生が首を振る。
「共働きなら家事は分担ですよ」
一年目らしい生真面目さで反論する。
「いやー、建て前はそうだけど、実際、男には無理でしょ。労働時間が長いし」
結局、彼に会話を持っていかれて、俺はあんまり話せなかった。
合コンであまり話せなかった分、食事はできたけど、女性が選んだ店だと、男にはがっつり食べるってわけにいかない。美味しかったとはいえ、ちょっと量が足りなかった。
それで帰宅後に、冷凍ご飯をレンジにかけ、ミニボウルに入れて、イカの塩辛、乾燥ワカメ、カイワレ大根、ポン酢一たらしで、お湯をかけてお茶漬けにした。
さらさら美味しくいただいたが、飲みから帰って、こういうの食べるって、二十代女性から見たら、オヤジ臭い? やっぱもう若くないなあ。
『お仕事帰りなのに、遅刻なんて言ってすみませんでした。お疲れ様でした』
だから、二十六歳の女性からこんなメールが来たのがすっごく嬉しかった。
『土曜日だと、またお仕事帰りになるんじゃないですか? 六時で大丈夫ですか?』
週明けに、会社員女性から来たメールに、??状態だ。
何も聞いてないけど、また集まるの?
あれ? 俺、いつの間にかハブられてる?
ちょうど、同級生からメールが来た。
『紹介してくれたナースたち、メッチャ気が強いわ。メッチャ飲んでもけろっとしてるし。もっと癒し系のを紹介して』
女性会社員との合コンのあと、続けざまにナースとも合コンしてたのか。なんという早わざ。
ナースは気が強いのがデフォ、でないとあんなきつい仕事をこなせない。それと、OLさんたちとまた飲みに行く話は俺は聞いてないけど? と返信した。
『お前が来ると、女どもがお前の細マッチョボディばっか見てて、こっちは無視されるんだよ。遠慮してくれよ』
メールの返事を見て、がっくりきた。こんなこと言うやつじゃなかったのに。女の人の前では男の友情はもろい、というか、彼が変わったんだろうな。
俺は誘われてないけど、楽しんできて、と彼女にメールした。
ナースとの合コンを頼んだ妹に、謝りの電話をかけた。
「なんか、ろくでもない男を紹介してしまったかも。お前の同僚に悪かったな。昔はあんなやつじゃなかったんだ」
『あー、合コンに行った子が笑ってたよ。幹事の人が、いきなり、『癒してー!』とか言ってきたみたい。でもナースと合コンしたがる人ってそういうの多いから、『勤務時間外です』って返して、仲間内では『鉄板だー!』って笑って終わり。気にしなくていいよ』
「えっ? そんな男が鉄板なのか? 同僚さんたち、なんで合コンに行くのかな」
『ただ飲んで騒ぎたいだけとか。あと、たまーに、いい人もいるからかな。合コンがきっかけで、つきあって結婚したって話もあるし。あ、お兄ちゃんの同級生にも、堅実そうな人がいて、幹事にばれないように、こそっとメアド渡した子がいるって。幹事はチャラい上に、自分語りばっかでパスだって』
以前から聞いている、ナースの男性評から想像すると、実際にはもっとすごいことを言われているはずだが、俺の同級生ということで、妹がソフトな表現を選んでくれたんだろうなと思う。ナースって、普段人間の生々しい部分を見ているせいか、医学用語を駆使した罵倒表現に長けている。
「すまん。あいつがあんなやつになってしまったとは」
『気にしないで。同僚も気にしてないし。合コンは砂金探しに似てるって、師長が言ってたから、そんなもんだとみんな思ってるし』
「砂金探し…」
『すごい例えでしょ』
妹が笑い飛ばしてくれて、まだ救われた。
「イカの塩辛茶漬け」
ごはん 茶碗一杯分
イカの塩辛 コーヒースプーン一杯分
カイワレ大根 二分の一パック分
乾燥ワカメ コーヒースプーン二分の一くらい
ポン酢 一たらし




