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ズボラめし  作者: 小出 花
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焼きサケの温サラダ

『えー、やだ』

 妹の返事もシンプルだった。

「やっぱり」

 同級生との合コンの話で電話したら、妹に速攻で断られた。以前からこういうことは何度かあったから、断られるだろうなとは思ってた。

『うん。ナースだからっていう理由で合コンをしたがる人はやだ。でも、職場に合コンが好きな人はいるから、そっちに紹介するのならいいよ』

「あー、助かる。悪いな」

『別に。楽しんでる人もいるし』

「すまんな」

『いいよ。ナース相手に合コンしたがる人はほんと多いよ。私は一年目に何度か行ったから、もういいや。ナース狙いの人って、家族に介護か看護がある場合が多いの。今すぐじゃなくても、将来は親の介護をよろしく、とか。それも、タダで。おかしな話よね。ナースは資格職なのに、毎日、何年も、タダで使おうなんて。先輩が合コンで言い返してたけど、だったら、例えば大工さんと結婚したら親や兄弟の家をタダで建ててもらわなきゃおかしいって。家を建てるって金額が違うだろうって反論されてたけど、ナースの時給で何年か介護すると、家が建つ金額なんだよね。何年介護させる予定なの? 家何軒分? って訊かれて、相手が黙ってた』

「あー、意外と多いよな、ナースは白衣の天使だから尽くしてくれる、みたいな思い込み。ナースが全員尽くしてくれる性格って思い込んでるのが不思議だ」

『ナースってただの職業なのに。おかしいよね。なんでナースだけタダ働きさせられると思うんだろ。奨学金を借りて、看護大学に通って、ものすごく勉強して得た資格は、他人にタダ働きさせられるためのものじゃない。他人じゃない、家族だろ、って男の人は言うけど、夫ならともかく、夫の両親や祖父母は、結婚してできた親戚で、家族じゃない。たとえ結婚したあとの関係がうまくいっていても、色んな例を見てるから、介護は安請け合いできないって、ナースならわかってるし。あ、お兄ちゃんの介護ならやるよ。もちろんタダで。田舎から脱出させてくれて、おかしな親戚から守ってくれて、中学高校と看護大学に行かせてくれて、ものすごく感謝してるもの。でも逆に言えば、そのくらいの恩義を感じてないと、介護するなんて簡単に言えないよ』

 妹に介護される自分を想像したら、ちょっと萎えた。

「…お前におむつを替えられるのはなんだから、健康に気をつけるよ」

 妹が大笑いした。

『おむつくらい、いいよー。でも、体格差があるから、寝返りさせるのは大変。寝たきりにならないようにしてね』

 おむつくらい、って言えるのがすごい。いろんな話を聞くにつけ、ナースって大変だなって思う。仕事自体が重労働だし、通勤路に変態が出没することもあるらしいし、ストーカーまでいかなくても、合コンしたがるとか、ナースに執着する男は多い。

「悪かったな、俺のせいでナースになって」

『えっ? お兄ちゃんのせいでナースになったんじゃないよ。自分でなったんだよ』

「いや、だって俺が、田舎から連れ出すときに、妹はナースにするから、って言っただろ」

 元々は俺の高校の進路指導の先生から入れ知恵されたんだが。妹を中卒で嫁にやろうとした祖父母のことを相談したら、俺が就職するとき、ナースにするために引き取るって言えってアドバイスされた。田舎じゃナースはありがたがられるから、でも田舎の人間は看護学校の授業料を払う気はないから、お前が引き取れる、ナースにするっていえば時間が稼げる、一緒に田舎を出さえすれば、妹の進路は本人の希望通りにできるって。実際、その通りにしたら、あっさり妹と田舎を出ることができた。でも、本当に妹がナースになるとは思わなかった。

『ナースになったのは、自活できる一生ものの資格だからだよ。資格さえ取れば、特別な才能がなくても、ある程度の収入が得られて、世間に認められる、女にとっては便利な資格だもの。ナースなら、一生独身でも、シングルマザーでも、離婚しても、仕事が大変だから、で言い訳できるもの。ナースなんです、ってすっごく便利な言い訳になるんだよ』

「………そうなのか」

『うん。ナースは大変なことが多いけど、なってよかったよ。お兄ちゃん、看護大学に行かせてくれて、ありがとう』

「いや、奨学金だし。幸い、通える距離に大学があったし」

『生活費を出してもらったもの。中卒で働きながら看護学校に通って、准看の資格を取ってる人だっているんだから。田舎の人が考える、看護婦になるってこういうことでしょ。でも私は看護大学に通ったおかげで、就職先を選べたし、できる仕事が違うし、お給料だって違う。准看の人が働いてるところって、正看が避けるような、ほんとにキツイ職場が多いの。お兄ちゃんのおかげで、キツイ職場で耐えなくてすんでるの』

 そのあと、笑い交じりにつけ加えた。

『だから、おむつ替えるよ。遠慮しないで』

「……おむつから離れろ」


 妹との電話を切ったあと、ナースと合コンをしたがってる同級生からメールが来た。

『OLのメアドをゲットしてるとは。ホントできるやつ! 飲み会やろう!』

 彼女たちと予定を合わせられるか訊いてみる、あと、妹はNGだが、合コンしてもいいというナースがいたら、お前のメアドを渡していいか? と返信した。返事はすぐ来た。

『もち! ナースにならどんどんメアド渡して!』

 ナースなら誰でもいいんだ…。妹が断ってくれてよかった、と思ってしまった。


 妹に介護されるのはなんなので、健康に気をつけることにして、秋サケの切り身を買ってきた。塩を振って十分待って、キッチンペーパーで表面に浮いてきた水分をふき取る。オーブンシートを敷いて、オーブントースターで六、七分焼き、余熱一、二分で完全に火を通す。

 サケはアンチエイジングにいい成分が入ってると聞いたので、少しでも健康のまま年を重ねるのに役立つはずだ。塩サケだと塩分が多いし、生サケのほうがいい。

 乾燥ワカメを水かお湯で戻して、ぎゅっと絞って水分を切る。冷凍のブロッコリーとインゲンをレンチンで解凍する。半分解凍したあたりで、豆腐を一緒にのせて、ついでに温め、出た水を切る。

 皿に野菜、ワカメ、豆腐、焼きサケを盛り、上に玉ねぎのマリネをのせ、香り程度にしょうゆを一たらしする。サケに塩を振ってあるし、マリネに味がついているから、あくまで香りだけ。マリネの酢の味があると、塩分控えめにしても味を強く感じるらしい。

 よし、冷凍野菜で手抜きをしたが、見た目はすごく健康的なおかずサラダができた。

 将来、独居老人の覚悟は必要かなあとは思っていたが、妹におむつを替えられるのは御免だ。


「焼きサケの温サラダ」

 サケの切り身 二切れ

 冷凍ブロッコリー 百グラムくらい

 冷凍インゲン   百グラムくらい

 玉ねぎのマリネ  フォーク二すくいくらい

 豆腐(小パック) 一パック

 乾燥ワカメ    コーヒースプーン一杯分くらい

 しょうゆ     一たらし


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