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ズボラめし  作者: 小出 花
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リンゴ酢ドリンク

 新郎新婦に質問コーナーやビンゴゲーム、定番の催しをやるものの、今いち盛り上がらない。同級生が新郎を長テーブルに引っ張ってきたときは、少し新郎に笑顔があったが、すぐにスタッフが呼びにきて、高砂席に戻された。新婦を一人にしておくわけにはいかないから仕方ない。結局、おめでたい二次会というより、ただの宴会めいてきた。

「課長って、学生時代はどんな感じだったんですか?」

 会社の女性が二人でやってきて訊いた。一人は受けつけをしていた、新婦と同い年の女性、水色のスーツにシンプルなアクセサリーで、仕事の延長みたいな服装。もう一人は一つか二つ上の先輩に見えた。彼女はもう少しくだけた感じで、無地のニットの下に、小花模様のスカート、大ぶりのネックレスとイヤリングをつけていた。

「今とあんま変わんないよ。超真面目。白髪はなかったけど。春に会ったとき、白髪なんてなかったのに、急にどうしたのかな」

 高校の同級生が答えると、女性二人は顔を見合わせる。

「あー、バタバタと結婚の話になって、忙しかったからですか」

 先輩女性が言うが、受けつけ女性は複雑な顔をしてる。

「それが不思議なんだよな。あいつ、石橋を叩いて三十秒待って、また叩いて三十分待って、さらに叩いて一日待ってから渡るタイプだろ。引き出物の中身まで決めてからしか、プロポーズしないだろう」

 同級生の言葉に、女性たちがふき出した。

「まさに課長ってそんな感じ。ただの注文書も三度チェックですもん」

 けらけら笑い、男ばっかりの席で、場が明るくなった。新しいグラスをもらってきた男が、ピッチャーのレモンサワーを注ぎ、彼女たちも一緒に飲みだした。


「同い年の女子社員が私だけなんで、彼女と同じに見られるのが嫌なんです。お前まで一年目でいきなり結婚するなよーとか、言われるし。しません」

 最初は遠慮していた受けつけ女性が、アルコールが進むにつれ、饒舌になってきた。

「課長は同年代で一番の出世頭で、将来を期待されていたのに、新入社員に手を出したって、この先の出世は当分ないって言われてるんです。彼女、こんなはずじゃなかった、ってこぼしてました。彼女が熱烈アプローチして、結婚に持ち込んだくせに。結婚だけならまだしも、妊娠まで…。あっ」

 あー、まずい、言っちゃった。とつぶやいたけれど、

「いーや。もう言っちゃったし。どうせあのドレスでバレバレだし」

 酔いのせいか、気が大きくなっているみたいだ。

「一年目でろくに仕事もしないうちに結婚して、寿退社しようか、産休取ろうかなんて、よく思われるわけないです。女子社員は、彼女が課長をおとしたって知ってますけど、会社の上層部にしたら、課長が新人に手を出したって判断しますもん。彼女、おじさんうけがすごーくいいんです。同性には嫌われてるって、今日の友人総ドタキャンでよくわかりましたけど、だろうね、って若手は納得してますもん。でも彼女、さも被害者って感じで、裏で泣きまねしてました。涙が出てないのに、目をうるうるさせるのはすっごく上手。課長もだいぶんわかってきたのか、慰めてませんでしたもん」

 同級生同士で顔を見合わせる。

「あいつ、大丈夫か…」

「大丈夫じゃないです、課長、ここんとこ仕事でミス続きです。仕事ができるのが格好よかったのに。でも、可愛い顔とくねくねポーズにころっといっちゃったのは課長だから、もう、男って!」

「そうだね。ちょっとお水飲む? ウーロン茶でももらってこようか?」

 なだめて、俺はソフトドリンクを取りに立った。

「あ、私が行きます」

 先輩女性も立ち上がって、いいよいいよと言ったのに、悪いですから、と一緒に来てくれた。

「あの子、新婦側の受けつけを、同期だからって押しつけられちゃったんです。普通なら新婦の友人がやるのに、断られたみたい。会社のおじさんたちが、そのくらいやってあげなさいって。だから他の社員の前ではあんまりグチれないんです」

 彼女は小さな声で言った。

「あー、なんで新婦友人は全員ドタキャンなのか、誰か事情を知ってるんですか?」

 気になっていたので訊いてみたが、彼女は首を振る。

「わからないです。招待状の返事は、出席で来てたそうなので、連絡ミスでもないでしょうし。でも、式と披露宴を家族だけでやったのって、こういうのを予想してたんじゃって、女子社員で言ってます」

「なるほど」

「課長はたくさんお友達が出席してくれて、よかったですね」

「うーん、男ばっかりで、申し訳ない。彼は学生時代に女っ気がなくて」

 彼女は笑いながら、

「課長らしいです。真面目で仕事ができるし、浮気しそうにないし、結婚相手にすごくいいって、女子社員に人気あったんです」

 過去形で言った。

「彼がそんなにモテてたとは、本人も知らなかったんじゃないかな」

 彼女がにこっとした。

「SNSはしてますか?」


 二次会というか、新郎新婦以外には一次会の宴会みたいな催しが終わり、小さなグループになってもう一軒行ったが、翌日が仕事の俺はそこまでで帰った。他のメンバーはさらに別の店に行ったらしい。

 飲んだ翌日の仕事は結構疲れた。弁当も作らず、夕飯はホカ弁にして、首をこきこきさせながら帰った。

 昨日、同級生のでっぱったお腹や、広くなった額や、年齢を感じるものをたくさん見たので、自分ももう若くないなーと思った。今のところ、幸い体形や髪にはさほど変化はないが、二十代の頃より疲れやすくなったし、疲れが抜けにくくなった。

 それで、リンゴ酢ドリンクを飲むことにした。

 妹が先輩から教えてもらったそうで、体が疲れたときに飲んで寝ると、翌朝のすっきり感が違う。

 リンゴ酢とハチミツ、水をマグカップに入れ、レンチンして、スプーンで混ぜるだけ。リンゴ酢のつんとするのが苦手な人は、酢だけをあらかじめレンチンしておくと飲みやすくなる。妹の先輩は夏バテになると、ホーロー鍋で濃いめに作って、水で割って、冷蔵庫に冷やしておくそうだ。先輩によると、色んな酢を試した結果、一番疲れが取れたのがリンゴ酢だったらしい。

 ただし、酢ドリンクを飲んだあとは、よくうがいをしておく。唾液が出にくい人は、酢で歯が薄くなることがあるらしい。酢っぱいものを飲んだら、たくさん唾液が出る気がするんだが、一応、うがいはしておく。

 昨日の女性には、SNSをしていない、ガラゲー持ちだと言ったので、メアドの交換をしてもらった。昨夜のうちに「楽しかったです。また集まりませんか?」とメールが来ていたのだが、遅い時間だったので返信してなかった。「こちらこそ、喜んで」と返していると、同級生からメールが来た。

『ナースと合コン! 頼む!』

 シンプルだ。

 一応妹に訊いてみることにして、とりあえず昨日の女性からのお誘いを伝えて、一緒に飲みに行こう、と返信した。

 


「リンゴ酢ドリンク」

 リンゴ酢  カレースプーン一杯

 ハチミツ  カレースプーン一杯

 水     マグカップ六分目くらい


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