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ズボラめし  作者: 小出 花
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キャベツとトマトのベーコン煮込み

 元先輩から引っ越しの連絡が来た。

『やっぱ引っ越しになった。もしかしたらこうなるかなと思って、一応ペット可の物件を見てあったんで、すぐ決めて、すぐ引っ越しすることにした』

「急にどうしたんですか?」

『義母が家に来て、奥さんは居留守を使ったけど、ピンポンピンポンすごかったらしい。奥さんから電話があって、慌てて義父に電話して、俺が家に帰ったときには、もう義父が義母を回収してた。奥さんが猫を抱えて、おびえてしまって、もうここには住めないって言ってなあ』

「あー…、そうでしたか」

 猫嫌いのはずだけど、それでも姑さんは行ったのか。

「引っ越しはいつですか? 荷物運びを手伝いましょうか?」

『大丈夫大丈夫。荷造りとか全部やってもらうコースにしたから。猫だけは自分たちで運ぶけど。子猫がみんな引き取られたあとでよかった。ありがとな。落ち着いたら遊びに来てくれ』

「はい。大変でしたね」

『ま、ありえるかなって、予想はしてたからな、義母はいいんだけど。義父がな。娘が助けを求めるのは自分じゃなく、夫なんだ、ってぼそっと言っててさ。この場面で、気にするのはそこかよ、と思ってしまった』

「あー…。母親がそこまで娘に執着するのって、カウンセリングとか受けたほうがいいんじゃ。お舅さんは自分の奥さんの心配が先ですよね…」

『だよなあ。ちょっと義母が可哀想になってきた』

「そうですよね…」

 俺も可哀想だなって思った。

『まあ、義母は義父に任せるわ。俺は自分の奥さんだけ助けるし。義母には新しい住所は内緒にすることにした』

「それは仕方ないですね」

 結局は先輩の舅さん、姑さんの仲が原因なわけだし。


 弁当作りでちょっとずつ野菜が残ってるので、ベーコンと一緒に煮ることにした。

 キャベツとトマトは必須で、あとは冷蔵庫の残り野菜をなんでも。人参は弁当の彩りにするので、大抵ちょっと残ってる。玉ねぎは甘みが出るので、いつも入れる。ブロッコリーの芯を皮を厚く剥いて使ったり、じゃがいもでも、きのこでもなんでも。ホーロー鍋に、まずざく切りトマト、食べやすい大きさに切った野菜と、ベーコンを何層にも重ねる。ぴったり蓋をして、弱火で加熱。水なしでも、野菜から水分が出るのでかまわない。ただし、焦げつかないよう、あくまで弱火。湯気が出てくるころには、野菜の水分が出て、焦げつかないようになるので、火を少し強めて、水分を軽く飛ばす。野菜に火が通ったら、コショウを振って、とろけるチーズをのせて、火を止め、余熱でチーズを溶かす。野菜の量によるけど、ベーコンの塩気では味が薄いと感じたら、塩を足す。

 ベーコンじゃなくて、牛肉の薄切りで作ってもいいが、その場合、コンソメを入れることで塩気や旨みを補う。

 残った場合は、タッパーに入れて保存、レンチンで食べる。チーズがのっかっているから、鍋で温めようとすると焦げるんだ。


 元同僚から電話があって、

『四十男の収入は俺と大差なかった。そんな収入で強気に出れる、図々しさにびっくりだ』

 呆れたみたいな声だった。

「え? そうなの? どうやって収入なんか知ったんだ?」

『彼女に聞いた。俺は収入がよくないから、彼女が相手に決めても文句が言えないって、話をしたら、収入で決める気はないし、そもそも先方の収入は俺と大差ないって』

「四十で、転職したてのお前と同じ給料なの? それで結婚して大丈夫なのかな? 子供が大学に入るころ、六十歳じゃないか。給料はどこまで上がるあてがあるんだろう?」

『だろ? よくそんなんで結婚しようと思ったなって感じ。相手は大卒なんだけど、大卒でなんで転職したての俺と同じ給料なのかもわからん。あっちも転職してんのかな。そんで、彼女の給料をあてにしてる。結婚後もフルタイムで働く若い女がいいらしい。歳の差婚を狙ってる、勘違いおじさんじゃないかという気がしてきた。俺だって年齢差はあるけど、四十と二十四ほどじゃない。あと、妊娠出産ありの奥さんの収入をあてにしてるのって危ないじゃん。子供二人が小学校にあがるくらいまで、男だけの収入でなんとかなるよう、余裕をもって考えるもんだって、前に職場の先輩に言われた。俺、今、めっちゃ貯金にいそしんでるもん』

 最近、以前ほど飲みに行こうって言わないのは、貯金のためかと納得した。

『出産で体調を崩すこともあるし、すぐに仕事に復帰できないかもしれないだろ。保育所に預けて奥さんが働ければいいけどさ、子供が小さいうちって、病気ばっかするから、看病でしょっちゅう休んでたら、奥さんがクビになるかもしれないって先輩が言ってたよ。先輩の知り合いは、子供が病弱で大変だったって。そりゃ奥さんが高給取りなら、男が育休とるのもありかもしれないけど、大抵は男のほうが給料が高いし、育休が取りにくいし、とにかく男はちょっとでも手取りを増やして、貯金して、備えるもんなんだって。子育てはとにかく金がかかるから。そういうの、なんも考えてない男なのかなーって。じゃ、俺の方がましじゃん』

「そうだなあ」

 読書友達の子供がよく熱を出す話を思い出した。

『今回のことで、なんで彼女が俺に申し込みをしたのか聞けた。実は前に訊いたことがあったんだけど、流されて、ちゃんと答えてもらってなかったんだ』

「なんでだって?」

『週末は家族との時間を持つために土日休みに転職した、っていうので、真剣に結婚したい人なんだって思ったって。あと、年齢が近い人がいいんじゃ? って訊いたこともあったんだけど、そもそも二十代の婚活男が少ないらしい。いても、男の親と同居必須とか、非正規とか、条件がメチャ悪いとか。だから三十代も視野に入れて、俺に申し込みしたんだって。さすがに四十代は避けてたらしいけど、申し込みはたくさんあって、何度も申し込まれて断れなかったのが、その四十男みたい』

「へえ…」

『俄然、闘う気になってきた。四十男は断って、俺にしたらって言えた。子供二人を大学までやるには、彼女に働いてもらわないといけないだろうけど、幼稚園に通ってるあいだくらいは、専業主婦でもなんとかなるようにする。薬剤師なら再就職しやすいから、一時的に専業主婦になってもらっても大丈夫だし』

「おう、頑張れ!」


「キャベツとトマトのベーコン煮込み」

 キャベツ 四分の一くらい

 トマト  一個

 玉ねぎ  半分くらい

 人参   三分の一くらい

 その他残り野菜

 ベーコン 150gくらい

 こしょう  1、2振り

 とろけるチーズ カレースプーン2、3杯分


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