表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ズボラめし  作者: 小出 花
17/34

鶏ムネのマーマレード焼き

 結婚が決まった高校の同級生から、二次会の案内が来ていた。日程は意外と急だ。レストランを貸し切りにするらしい。出席に丸をつけて、お祝いメッセージを書いて返信した。相手は職場の後輩だということだが、自分のところはほとんど男ばかりの職場なので、そういう出会いはない。婚活をしている元同僚は、職場に出会いがあったら、給料が下がることを覚悟しながら転職しないですんだのになあ。


 鶏のムネ肉が安売りだったので、マーマレード焼きを作ることにした。冷めても美味しいので、弁当用だ。

 ちなみに、ムネ肉でもモモ肉でも好みで。柔らかいのがいいときはムネ肉、噛みごたえが欲しいときはモモ肉。まあ、ムネ肉のほうが安いのと、疲労回復にいいと聞いたので、よく使う。

 3、4センチくらいの大きさに切り、ビニール袋にマーマレード、しょうゆを入れて、軽く揉みこみ、小分けして冷凍室へ。翌朝の弁当分は冷蔵庫に入れた。調理は、凍ったまんま日本酒とフライパンに入れて、蒸し焼きにする。弁当用は、酒ではなく、水と塩昆布数本を入れて蒸し焼き。車を運転するから、念のため酒を使った弁当にはしない。

 弁当作りは、適度に手を抜くよう妹にアドバイスされたので、ビニ弁で済ませたり、うどん屋に行ったり、作らない日もある。朝になってタイマーでご飯が炊けているのに、作る気がなくなって、ふりかけを混ぜたおにぎりだけの日もある。おかげでなんとなく弁当作りは続いている。

 一人暮らしだと、こういうのが本当に楽だ。自分一人ならいくらでも手を抜ける。家族持ちなら、嫌でも面倒でも、気分が乗らなくても、弁当を作らなくてはならない。同居してたとき、欠かさず弁当を作ってくれた妹に改めて感謝した。今度美味しいものでもおごろう。


 元同僚は順調に交際が続いているようで、ノロケみたいな報告が増えてて、ほっとしてたところ、暗い声で電話がかかってきた。

『やっぱ並行されてた』

 それはショックだ。

「…あー、そうか。まあ、仕方ないよな」

『うん。そういうのもあるのかもなーとは思ってたけどさ。でも実際知るとショック。なんか、並行してる相手がガンガン押してきて、俺と並行してるのを知って、断れって言ってきたんだって』

「並行してるとか、言うもんなんだ」

『人による。俺には言わなかったわけだから、相手が訊きだしたのかも。で、両天秤にかけられてるわけだから、いい気分にはならないし。俺もわざわざ言わないけど、あっちを断ってくれたらなーって思った』

「で、どうするって?」

『押しに弱い人なんだよ。相手が四十だっていうから、結構上からきてるんじゃないの。でもさ、訊いたら、ちょっとの差だけど、俺の方が先に彼女とデートしてるんだよね。まだお互いをよく知らないころだから、別の人とも会ってみるわけで。だから並行するのもしゃーない気がするんだけど。今は割とうまくいってるつもりだったのに、それって俺の勘違いだったのかあって。相手とはもっとうまくいってるのかな。俺を断れって言われたって言ったあとは、黙っちゃってて。無言のまま、結局電話が切れた』

「お前はなんて言ったの?」

『びっくりして黙ってしまった。なんか言うべきだったんだろうけど。何を言ったらいいのかわからなかったんだよ。やっぱショックだったし』

「お前がどうしたいか言わないと、あっちも決めかねてるんだろ」

『そうだけど。俺は今のとこ安月給だしさ。四十男なら、俺よか収入いいだろうし。婚活で収入は重要ポイントなんだし。四十男を切って、俺に決めて、って言いにくい。それに、彼女から申し込みがあったから特に問題にしてなかったけど、学歴に差があるのは、結婚となったらもめるって親が言う。彼女は大卒で、俺は高卒だから』

「そういうの、やっぱり気になるんだ」

『俺は気にしないんだけど、親は気になるみたい。俺が勉強嫌いで大学に行かなかったんで、しゃーないじゃん。俺が高卒なのを知ってて彼女から申し込みがあったんだから、あっちは気にしてないわけだろ。じゃ、こっちだって気にしなきゃいいじゃんと思うんだけど、親はそういうわけにはいかないとか言う。で、ここにきて、並行されてたと知って、親は彼女をよく思えないみたい。俺は彼女さえよければ、このまま結婚したいなと思ってたんだ。でも並行してる相手のほうが条件がいいんだったら、俺が引き留めてもだめだし』

「婚活ってやっぱ条件なんだな」

『うん。それはしゃーない。恋愛なら目をつぶれることでも、結婚の前提で会ってるわけだから、条件のよしあしはでかいよな。男の収入とか学歴とか。女のほうは年齢と見た目で選別されるっていうし』

 ただ相性がよかったから、で結婚するわけにいかないのが難しいな。

 そもそも彼女からの申し込みで始まったんだから、食い下がってみろと励ました。


「鶏ムネのマーマレード焼き」

 鶏ムネ肉 一枚

 マーマレード カレースプーン軽く山盛り一杯

 醤油   カレースプーン三杯

 酒    カレースプーン三杯


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ